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王国との戦争

327:友へ相談

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「ん? おお、アンドーじゃねえか! 久しぶりだな!」

 突然の事に唖然とする俺をよそに、ガムラは笑いながらこちらに近寄ってくる。

「あ、ああ。……いやまあ、久しぶりなのはそうなんだが……お前、なんでここにいるんだ? 村に帰ったんじゃないのか?」
「ん? ああ、まあ……帰ったんだがな……」

 俺がそう問うと、ガムラは何度か目を瞬かせた後、言いづらそうに少し視線を逸らした。

 何かあったのか。そう更に問おうとしたが、それはキリーによって遮られる。

「話なら座って落ち着いてからにでもしたらどうだい?」

 まあ、そうだな。ここは自分の家なのに立ち話をするってのもなんだし、どうせ話は長くなるんだから座った方がいいか。

「そうだな。でもまずはその前に環ちゃんに部屋を案内しないと──」

 そこまで言ってある事に気がついた。

「……部屋はまだ空いてるか?」

 俺が居た時は部屋に余裕があったが、それは俺とイリン。後ついでのケイノアだけだった場合だ。今は家のないキリーが泊まってるし、さっきの言い方からしてガムラもここに泊まってるんだろうと思う。
 そうなると、部屋の余裕なんてあっただろうかという疑問が起こった。

 そしてそんな俺の考えは合っていたようで、ガムラはバツが悪そうに顔を歪めていた。

「あー、俺が使っちまってるわ。わりぃ。明日には出ていくから今日は泊まらせてくんねえか?」
「あ、いや、別に追い出そうってわけじゃないんだ」
「けど部屋が足りてねえのはほんとだろ?」
「それは……まあ」

 確かに部屋は足りていない。だが、客人を追い出すってのも憚られる。

「でしたら環は私の部屋に一緒ではどうでしょうか?」

 どうしたものかと悩んでいると、突然イリンがそんな事を提案した。

「イリンの部屋に?」
「はい」
「いや、でも……」

 イリンと環ちゃんを一緒にするっていうのは躊躇わざるを得ない。
 だって二人を一緒にしたら絶対に何か起こりそうなんだもん。

 だが、環ちゃんが泊まる部屋がないというのも事実だし、里からここにくるまで二人に喧嘩らしい喧嘩がなかったのも事実。

「……仲良くできるか?」

 俺はしばらく考えてから二人の顔を交互に見て、イリンにそう問いかける。

「もちろんです」
「……なら。環ちゃんもそれで構わないかい?」
「はい。泊めてもらう身なんですから、どこだって構いません」
「そうか。なら、悪いけどそれで頼む」
「はい」
「わかりました」

 少し……いや、大分心配だけど、それでも彼女達を信じる事も必要だろうと自分に言い聞かせてみる。
 これで二人の仲が良くなるといいなとは思うが、まあそう簡単にはいかないだろうとも思う。だが今は最低限喧嘩をせずにいてくれればそれで十分だろう。

「では環を部屋へと案内してまいります。──行きますよ」
「ええ。──では彰人さん、また後で」

 イリンは俺に話す時のような丁寧さを感じさせずに環ちゃんに声をかけてスタスタと歩いて行き、環ちゃんは俺に笑いかけてからその後を追っていく。

「ありゃあ、二人目ってことで、いいのか?」
「……その辺も話さないとだが……まあとりあえず座ろうか」

 俺が二人の後ろ姿を心配してみていると、ガムラがそう声をかけてきたが、『二人目』というのは環ちゃんの事だろう。

 その辺りは凄く言いづらいんだが、言わないわけにもいかないだろう。というか、それが逃げだとは思ってるけど、誰かに話して相談に乗ってもらいたい。

「あ、キリー。ありがとう」

 そうして俺とガムラが客間のソファに座ると、キリーがお茶を入れて俺たちの前に出してくれた。だが、カップは二人分ではなく三人分あった。

「どういたしまして。まあ、代わりと言っちゃあなんだけど、あんたの話をあたしも聞いても構わないかい?」
「ああ、もちろん。というか出来ることなら何か意見をくれ」

 環ちゃんについて話して何かしらの意見とかアドバイスをもらえれば嬉しい。

「意見ねぇ……。ま、話してみなよ」

 キリーに促されて俺は神獣の里であった事を話し始める。

 里について神獣と出会い、イリンが治療のために眠る事になった。
 その間に里が襲われてイリンの治療が長引き、俺は戦争に参加する事になった。
 向かった戦場でかつての仲間だった子達に出会い、そのうちの一人である環ちゃんを連れてきた。
 そして、その環ちゃんが俺に対する感情と、そんな環ちゃんに対する俺の考えとイリンに対する気持ち。

 思い出したままに話したせいでまとまりがなかっただろうけど、二人は最後まで聞いてくれた。

「……ほーん。あんたがそんなことをねぇ」

 俺が話し終えると、キリーはそう呟いてイリンと環ちゃんが消えていった方を見ている。

「それが今回の原因ってわけかよ」

 そしてガムラは二人のことを気にすることなくそう言った。街が壊れた原因の方が気になるようだ。
 だがまあそれもそうか。俺一人のことよりも、こいつとしてはそっちの方が気になるだろう。
 でも二人は何があったのか知らないのだろうか? こういう時は城から説明みたいのがあると思うんだが…… 

「城から何か知らせとか説明ってなかったのか?」
「ねえな」
「いや、あったろ? ま、あれを説明って言ってもいいもんかは微妙なところだけどね」

 俺の言葉を否定したガムラの言葉を更に否定するように、キリーは呆れたような投げやりな感じで言った。
 微妙だったのか……そう言われるとどんな説明だったのか気になるな。

「単に王国が攻めてきたってだけだね。人が魔物になったのも王国のせい。各地で町や村が襲われたのも王国のせい。全部王国の人間が悪いんだー、ってね」
「ああ。そりゃたしかになんの説明にもなってないわな」

 王国側は年中この国をどうにかしようと攻めているんだから、そんな説明されなくたってこの国の民は理解しているだろう。ああ、また王国の奴らがやったのか、って。

「実際それ以上話せることなんてないんだろうね。人が魔物になった原因は特殊な薬だってわかっても、ならその原因となった薬ってのは具体的にどんなものなのかは分かってないみたいだしね。……ま、それはともかくだ。そんなことをあたし達がここで話してたところで何が変わるってわけでもないんだし、あんたの事に戻ろうか」

 キリーはそう言ってからお茶を飲んで、ふぅと息を吐き出し一息つくと再び俺を見つめて話を始めた。

「まあでも、意見って言われてもねぇ……あたしとしてはイリンを気に入ってるからね。あの子を泣かせたらはっ倒すよってことくらいで、後はあんたらの問題だとしか言いようがないね。……いや。あんたらの問題じゃなくて、あんたの問題か」
「それは……まあ、他の奴にも言われたよ」
「そうなのかい? じゃあもう聞く必要なんてないじゃないか」

 それなら話は終わりだとばかりにキリーはソファに寄りかかる。
 俺は今度は黙ったままでいるガムラへと視線を向ける。

「あー、俺としてもさっさと決めちまえって事だけだな。つーかおめえが何に悩んでんのかわかんねえし、なんとも言えねえな」

 典型的なこの世界の住人であるガムラとしては、やっぱりなんで俺が二人とも受け入れようとしないのか理解できないらしい。

「あえて言うんなら、うだうだ言ってねえで覚悟を決めちまえよって事だな」

 結局、本気で断るにしても受け入れるにしても、自分で覚悟を決めて動くしかないってことか。
 どちらにしても、ずっとこのままではいられないよな……
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