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5 二度目の人生は平凡に

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 あのあと、お兄様を襲った犯人たちはあっさりと捕まった。

 先手の検問が効を奏したようで、怪しい人物をすぐに発見できたようだ。そして芋づる式に賊たちを雇った王弟派の下級貴族を捕らえたらしい。
 真の首謀者に近いところまでたどり着けなかったのは残念だけど、王弟派に牽制ができたしまずまずというところかしら。

 なにより、わたくしと第一王子の婚約話が持ち上がらなかったのが本当によかったわ。犯人の目星がついたし、今は政治的・経済的にどう王弟派を抑え込むかに焦点を当てているみたい。

 しかし油断は禁物。
 いつ婚約話が出るか分からないし、なんとしても回避するように動かねば。




 わたくしは前回の人生をおさらいしてみる。

 第一王子との婚約話が出たのはアルバートお兄様の事故から半月もたっていなかった。
 今思うと事故の数日後からお父様にそんな素振りがあった気がしたけど、今回は全然ないようだから大丈夫そうだ。

 婚約が内定して第一王子と初顔合わせがあって、わたくしは悔しいことにそこで王子に一目惚れをしてしまった……。それが悪夢の始まりだったのよね。

 わたくしは未来の王太子妃に相応しい淑女になろうと血のにじむような努力をして、国一番の令嬢だと国内外の評判を呼んだけど、それだけだった。上っ面だけ。

 王太子妃という立場に翻弄されてプライドまで肥大化したわたくしは周囲に対しても傲慢な態度を取り続けていたわ。当時はそれが未来の王妃としての正しい振る舞いなのだと信じていた。

 そしていつの間にかわたくしの周りには誰もいなくなって、王立学園を卒業する頃には立太子したエドワード殿下はロージー・モーガン男爵令嬢の虜になっていた。

 わたくしは悋気で狂いそうだった。

 自分は殿下の隣に立つのに相応しい完璧な令嬢なのに、マナーもなっていない男爵令嬢ごときになぜ彼を取られないといけないのか、って。
 だから少し彼女に意地悪をしてしまったわ。でも暗殺だなんて、そんな恐ろしいことは考えたこともない。

 だけど、誰もわたくしの話を信じてくれなかった。
 それからはあれよあれよという間にヨーク公爵家ごと転落していったわ……。




「はぁ……」

 わたくしは深くため息をついた。
 結局のところ、自業自得なのかもしれない。

 前回の人生ではわたくしは自分のことしか見ていなかった。相手を気遣う心なんてこれっぽちも持っていなかったわね。そういうところが第一王子が離れていった理由なのかもしれない。
 でも、彼らにも問題があったとは思うけど……。

「駄目よ、違うわ」

 わたくしは頭の中の片隅にある嫌な考えを払い落とすように、ふるふると頭を振った。
 いや、違う。違うわ。他人のせいにしてはいけない。これでは前回と一緒の結末になってしまう。

 あの日、わたくしが二度目の人生に目覚めてから無条件でわたくしに優しくしてくださったお父様やお母様、そして屋敷で働く使用人の皆。今回の人生はそんな彼らに少しでも酬いようと決めたのよ。
 前回の人生ではわたくしに周りが尽くすのは当たり前だと思っていたけど、拷問ののち処刑を経験した今は人の優しさがかけがえのないものだと思い知ったわ。それに甘えてはいけないし、自分の人生を他人のせいにしてもいけない。
 今回の人生はしっかりと目標を定めないといけないわ。
 もう前回の二の舞にはならない。


 最大の目標は第一王子との婚約の回避ね。
 これは一番重要だわ。これを逃れれば少なくとも処刑台に上がることはないし、ヨーク家の没落も防げるはずよ。

 次に、周囲の人たちと良好な関係を築くこと。
 前回は自分のことばかりのとても嫌な女だったから。懇意にしている令嬢の友人も皆無だったので今回は同性の友人をたくさん作りたいと思う。お友達の家に遊びに行ったり一緒に買い物をしたり……そんなことをしてみたいわね。

 あとは……前回の人生で最後までわたくしのことを気にかけてくださったヘンリー第二王子になにか恩返しができればいいんだけど……。
 でも第二王子に関わるとなると、必然的に第一王子ともかかずらう可能性も出てくるだろうから難しいところよね。

 ……ヘンリー第二王子は前回の人生では幸せになれたかしら?

 彼はあんなに我儘で傲慢な令嬢だったわたくしに唯一親しくしてくれた。
 初めて出会ったときからわたくしのことを慕ってくれて、やがてなんでも話せる親友のような関係になって「ハリー殿下」「ロッティー義姉さま」なんてあだ名で呼び合っていたわ。
 わたくしには兄しかいなかったので、もし弟がいたらこんな感じだったのかしらって、随分可愛がったわ。
 今回もできれば彼と仲良くなりたいけど、これは諦めるしかなさそうね。
 残念だけどね……。



 さて、そうと決まったら早速行動に移すわよ。

 わたくしがまずやることは、王家に目をつけられないようになるべく目立たないように過ごすこと。
 ただでさえヨーク家の血統のせいで婚約者候補に上がりやすいのに、前回みたいに完璧な令嬢を目指したらいつ白羽の矢が立つか分からない。

 だから、平凡な令嬢になる。

 名門貴族の令嬢が平凡だなんて社交界で恥をかくかもしれないけど、一族全員が処刑台に上がるよりずっといい。
 両親に迷惑をかけるのはちょっと良心が痛むけど、今は名誉より家族や使用人たちの命が大事。わたくしのせいで死に追いやるなんてできないわ。


 わたくしは、平凡な令嬢。

 目立たずにひっそりと、どこの貴族の家にもいそうなただの令嬢になるわ!
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