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26 学園へ入学
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第一王子が去ったあと、わたくしは一人ぽつねんと薔薇園に突っ立っていたままだったそうだ。
お父様からは「王子殿下を見送らないなんて」って怒られたけど、わたくしはそれどころではなかった。
頭が真っ白になった。
まさか、第一王子も前回の人生の記憶を持っていたなんて……。
それから学園入学までの一週間、わたくしは心が落ち着かなくて準備どころではなかった。
頭の中は第一王子のことでいっぱいだった。これから彼とどう接すればいいのか、彼は今回の人生でわたくしをどうするつもりなのか……考えることが山積みだった。
ハリー殿下に相談できればいいんだけど、残念ながらお父様から縁談相手たちとの個人的な接触は禁止されている。政治的な憶測を呼び込むからだ。
せめて手紙くらい出させてもらいたいのだけど「王都に戻ったのだから必要ないだろう」って、こちらも禁止されていた。
ハリー殿下は今年はまだ学園に入学しないので、お会いできる機会が限られてくるのよね。困ったわ。とりあえず彼が出そうなお茶会は参加したほうがいいわね。ダイアナ様だったら顔が広いのでなにかご存知かしら?
こうしてあっという間に一週間がたち、いよいよ学園の入学式の日がやってきた。
前回の人生では「これで大好きなエドワード様に毎日会えるわっ!」って、胸が踊ったわ。だけど今は憂鬱で仕方がない。帰りたい。逃げ出したい。はぁ……。
わたくしは重い足取りで入学式が行われるホールへと向かった。
すると目の前に人だかりができていた。その中心は第一王子とその取り巻きたちだった。これから彼ら全員がモーガン男爵令嬢のことを好きになるのよね。もう乾いた笑いしか出ないわ。
第一王子と目が合った。途端に彼は顔をしかめる。
な、なんなのあれ! 嫌な気分のなったのはこっちよ!
腹が立つので彼らを無視をして通り過ぎようと速歩きをした折も折、
「おはよう、シャーロット嬢。ホールまでエスコートするよ」
いつの間にか第一王子がわたくしの隣を歩いていた。わたくしは思わず立ち止まり、目を見張った。
え、いつからいたの? 暗殺者なの? 怖過ぎるわ!
「ご機嫌よう、第一王子殿下」
わたくしは渋々カーテシーをする。いやしくも高位貴族の令嬢なのでマナーは守らないといけないのよ。これが男爵令嬢だったら多少のマナー違反も目を瞑るんでしょうけど。
……でも、エスコートだなんて御免だわ。
「恐れ入りますわ、王子殿下。わたくしは子供ではないので一人で歩けま――」
「さ、行こうか。シャーロット嬢」
第一王子は強引に私の手を取って歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!」
わたくしは小声で抗議するが、
「お前は黙ってろ」
彼はギロリとわたくしを睨み付けた。もうっ、なんなのよ!
「見て! エドワード様とシャーロット様だわ! お似合いねぇ」
「王子殿下の婚約者はヨーク公爵令嬢で決まりなんだろう?」
「お二人が並んだら絵になるわぁ! 綺麗!」
「あの二人が次期国王と王妃か。この国は更に発展を遂げるだろう」
沿道から生徒たちの無責任な声が聞こえてきた。彼らはわたくしたちのことを好き勝手に言っている。
だから、まだ婚約者じゃないし第一王子の想い人はモーガン男爵令嬢なのよ。決めつけないでちょうだい!
「顔が引きつっているぞ」
第一王子が前を見ながら注意してきた。いつ顔を見たのよ!? 図星を指されたのでわたくしは一瞬だけ狼狽したが、すぐに我に返ってすっと表情を引き締める。
「……き、気を付けますわ」
「お前は曲がりなりにも公爵令嬢なんだ。常に他人の目を意識しろ」
「わ、分かっておりますわよ!」
「分かってないから男爵令嬢如きに付け入られるんだろ」
「えっ……?」
わたくしは目を丸くした。
今、なんて? 付け入られる? モーガン男爵令嬢と第一王子は自然に恋に落ちて結ばれたのではなかったの? というか、わたくしを陥れたのはあなたではなくて……?
第一王子はそれ以上はなにも喋らなかった。仕方ないのでわたくしも黙って彼に従う。
「着いたぞ」
ホールの入口で第一王子は乱暴にわたくしの手を離した。
手がじんじんした。そっちからエスコートを買って出たのにこの扱いはなによ! と、わたくしは文句を言いたいところだったが、ぐっと堪えて礼を述べる。
「お前はいい虫除けになるな。これからも俺のために利用させてもらうぞ」
「は?」
わたくしは怒りのあまり彼を睨み付けた。彼は意に介せずに鼻で笑う。
「いいか、馬鹿なお前にもう一度忠告だ。俺の邪魔をするな、公爵令嬢として隙を見せるな」
「ご安心を。あなたとは関わるつもりはございませんから」
「またな、シャーロット」
「二度と話し掛けないで!」
厳かに入学式が始まる。
新入生代表の挨拶はもちろん第一王子だ。
代表者は家柄と成績で決まるんだけど、彼は入学から卒業までずっとアーサー様とトップを争っていたのよね。おまけに憎たらしいほど顔が良いし、なにも知らなかったらそれは好きになるわね。今もきゃあきゃあと黄色い声が上がっているし。
わたくしは彼の挨拶なんて興味がないので貴賓席を見た。
今日は国王陛下と王妃殿下もいらっしゃっている。そして、ハリー殿下も。あぁ、早く来年にならないかしら。そうしたらハリー殿下と楽しい学園生活なのに。
「あっ……!」
ハリー殿下と目が合った。彼はふっと柔らかく微笑んだ。わたくしも会釈で返す。
すると、壇上から視線を感じた。
恐る恐る見ると、第一王子が射抜くような鋭い視線でわたくしを睨んでいた。
わたくしは恐怖で固まった。
今日は一体なんなのよ! たしかに王子の挨拶のときに余所見をするのはいけないことだけど、こんなに睨めつけることないじゃない! もう視線だけでこのまま殺されそうよ……。
心を癒すためにもう一度ハリー殿下の美しいお顔を眺めましょう、っと……。
お父様からは「王子殿下を見送らないなんて」って怒られたけど、わたくしはそれどころではなかった。
頭が真っ白になった。
まさか、第一王子も前回の人生の記憶を持っていたなんて……。
それから学園入学までの一週間、わたくしは心が落ち着かなくて準備どころではなかった。
頭の中は第一王子のことでいっぱいだった。これから彼とどう接すればいいのか、彼は今回の人生でわたくしをどうするつもりなのか……考えることが山積みだった。
ハリー殿下に相談できればいいんだけど、残念ながらお父様から縁談相手たちとの個人的な接触は禁止されている。政治的な憶測を呼び込むからだ。
せめて手紙くらい出させてもらいたいのだけど「王都に戻ったのだから必要ないだろう」って、こちらも禁止されていた。
ハリー殿下は今年はまだ学園に入学しないので、お会いできる機会が限られてくるのよね。困ったわ。とりあえず彼が出そうなお茶会は参加したほうがいいわね。ダイアナ様だったら顔が広いのでなにかご存知かしら?
こうしてあっという間に一週間がたち、いよいよ学園の入学式の日がやってきた。
前回の人生では「これで大好きなエドワード様に毎日会えるわっ!」って、胸が踊ったわ。だけど今は憂鬱で仕方がない。帰りたい。逃げ出したい。はぁ……。
わたくしは重い足取りで入学式が行われるホールへと向かった。
すると目の前に人だかりができていた。その中心は第一王子とその取り巻きたちだった。これから彼ら全員がモーガン男爵令嬢のことを好きになるのよね。もう乾いた笑いしか出ないわ。
第一王子と目が合った。途端に彼は顔をしかめる。
な、なんなのあれ! 嫌な気分のなったのはこっちよ!
腹が立つので彼らを無視をして通り過ぎようと速歩きをした折も折、
「おはよう、シャーロット嬢。ホールまでエスコートするよ」
いつの間にか第一王子がわたくしの隣を歩いていた。わたくしは思わず立ち止まり、目を見張った。
え、いつからいたの? 暗殺者なの? 怖過ぎるわ!
「ご機嫌よう、第一王子殿下」
わたくしは渋々カーテシーをする。いやしくも高位貴族の令嬢なのでマナーは守らないといけないのよ。これが男爵令嬢だったら多少のマナー違反も目を瞑るんでしょうけど。
……でも、エスコートだなんて御免だわ。
「恐れ入りますわ、王子殿下。わたくしは子供ではないので一人で歩けま――」
「さ、行こうか。シャーロット嬢」
第一王子は強引に私の手を取って歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!」
わたくしは小声で抗議するが、
「お前は黙ってろ」
彼はギロリとわたくしを睨み付けた。もうっ、なんなのよ!
「見て! エドワード様とシャーロット様だわ! お似合いねぇ」
「王子殿下の婚約者はヨーク公爵令嬢で決まりなんだろう?」
「お二人が並んだら絵になるわぁ! 綺麗!」
「あの二人が次期国王と王妃か。この国は更に発展を遂げるだろう」
沿道から生徒たちの無責任な声が聞こえてきた。彼らはわたくしたちのことを好き勝手に言っている。
だから、まだ婚約者じゃないし第一王子の想い人はモーガン男爵令嬢なのよ。決めつけないでちょうだい!
「顔が引きつっているぞ」
第一王子が前を見ながら注意してきた。いつ顔を見たのよ!? 図星を指されたのでわたくしは一瞬だけ狼狽したが、すぐに我に返ってすっと表情を引き締める。
「……き、気を付けますわ」
「お前は曲がりなりにも公爵令嬢なんだ。常に他人の目を意識しろ」
「わ、分かっておりますわよ!」
「分かってないから男爵令嬢如きに付け入られるんだろ」
「えっ……?」
わたくしは目を丸くした。
今、なんて? 付け入られる? モーガン男爵令嬢と第一王子は自然に恋に落ちて結ばれたのではなかったの? というか、わたくしを陥れたのはあなたではなくて……?
第一王子はそれ以上はなにも喋らなかった。仕方ないのでわたくしも黙って彼に従う。
「着いたぞ」
ホールの入口で第一王子は乱暴にわたくしの手を離した。
手がじんじんした。そっちからエスコートを買って出たのにこの扱いはなによ! と、わたくしは文句を言いたいところだったが、ぐっと堪えて礼を述べる。
「お前はいい虫除けになるな。これからも俺のために利用させてもらうぞ」
「は?」
わたくしは怒りのあまり彼を睨み付けた。彼は意に介せずに鼻で笑う。
「いいか、馬鹿なお前にもう一度忠告だ。俺の邪魔をするな、公爵令嬢として隙を見せるな」
「ご安心を。あなたとは関わるつもりはございませんから」
「またな、シャーロット」
「二度と話し掛けないで!」
厳かに入学式が始まる。
新入生代表の挨拶はもちろん第一王子だ。
代表者は家柄と成績で決まるんだけど、彼は入学から卒業までずっとアーサー様とトップを争っていたのよね。おまけに憎たらしいほど顔が良いし、なにも知らなかったらそれは好きになるわね。今もきゃあきゃあと黄色い声が上がっているし。
わたくしは彼の挨拶なんて興味がないので貴賓席を見た。
今日は国王陛下と王妃殿下もいらっしゃっている。そして、ハリー殿下も。あぁ、早く来年にならないかしら。そうしたらハリー殿下と楽しい学園生活なのに。
「あっ……!」
ハリー殿下と目が合った。彼はふっと柔らかく微笑んだ。わたくしも会釈で返す。
すると、壇上から視線を感じた。
恐る恐る見ると、第一王子が射抜くような鋭い視線でわたくしを睨んでいた。
わたくしは恐怖で固まった。
今日は一体なんなのよ! たしかに王子の挨拶のときに余所見をするのはいけないことだけど、こんなに睨めつけることないじゃない! もう視線だけでこのまま殺されそうよ……。
心を癒すためにもう一度ハリー殿下の美しいお顔を眺めましょう、っと……。
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