君の未来に私はいらない

南コウ

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第三章 八年前とは違う夏

第十七話 二人は似ている?

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 誰かに呼ばれている。日和の声とは少し違う。だけどよく似た澄んだ声だった。その正体が判明する前に、脇腹に衝撃が伝わって目が覚めた。

「痛って……」

 せっかくの安眠を妨げたのは誰だ? 渋々目を開くと、朝陽が俺を見下ろしていた。

「パパ、早く起きて! 遅刻しちゃうよ」

 弾んだ声で呼びかける朝陽。俺は眠い目を擦りながら睨みつけた。

「遅刻ってなんだよ? 今日は土曜で補習は休みだろ?」

「補習じゃなくて試合! 今日は透矢さんの試合でしょ?」

 その言葉で一昨日のやりとりを思い出した。そう言えば、透矢の試合を観に行く約束をしていた。

「試合って、何時からだっけ?」

「九時から! そろそろ仕度しないと遅刻しちゃうよ」

「そうか。じゃあ起きるよ。というかお前、さっき蹴っただろう?」

「だって、なかなか起きなかったんだもん」

「なかなか起きないからって、蹴るか? 普通?」

「ごめんって! それより球場まではこずえちゃんが車で送ってくれるって! もたもたしていると、今度はこずえちゃんが起こしにくるよ!」

 反射的に顔を歪める。こずえ姉さんの起こし方は、朝陽の比ではないほどに雑だ。蹴飛ばされ、布団を引き剥がされ、耳元で叫ばれるのが容易に想像できる。これ以上、寝覚めの悪い思いをするのはごめんだ。俺はさっさと布団を畳んで、部屋から出た。

 朝食を軽く済ませ、身支度を整えてから、年季の入った軽自動車に乗り込んだ。中古で購入したこずえ姉さんの愛車だ。俺のいた時代ではすでに新車に乗り換えているが、この時代ではまだ現役で活躍しているらしい。

 ハンドルを握るこずえ姉さんの隣には、朝陽が座っている。球場に向かうまでの道中、二人が楽しそうに会話をしていた。一体いつの間にこんなに仲良くなったんだ? 俺は二人の会話には参加せず、窓の外をぼんやりと眺めていた。



 球場に到着すると、伊崎高校側の応援席で日和を見つけた。日和の隣には、透矢の妹達もいた。

「日和ちゃん、おはよー!」

 こずえ姉さんが笑顔で手を振りながら、日和に声をかける。俺達の姿に気付くと、日和は人懐っこい笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。

「おはようございます! あ、圭ちゃんも寝坊しなかったんだね!」

「朝陽に叩き起こされたからな」

「そっか! じゃあ、試合に間に合ったのは朝陽ちゃんのおかげだね」

 日和はにっこりと朝陽に笑いかける。笑顔を向けられた朝陽は、慌てたように視線を逸らした。

 すると透矢の一番下の妹が、日和の後ろからひょっこり顔を出す。日和と朝陽の顔を見比べながら、不思議そうに首を傾げた。

「お姉ちゃん達って、何だか似ているね」

 その言葉に真っ先に動揺したのは俺だった。子どもは余計な先入観がないせいか、時に本質を捉えてくる。俺は冷静を装いながら、否定をした。

「そうか? そんなに似てないだろう」

 一方、朝陽は能天気に笑っていた。

「あっはっは! 似ているなんて、はじめて言われたよ!」

 その声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。
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