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第47話
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「石田治部様。あちらに見えるのが黒田様がおられる中津城にございまする。」
と、道案内の清正の兵が津久見に向かって言った。
「そうですか。」
津久見はゆっくりと城を見上げる。
「大きいですね…。」
津久見は昨日から、本当の「城」を見て来た。
現代には現存しない城、復元された城。
今見て来た城は、400年前の世界で本当にある「城」であった。
一つ一つが、新鮮で胸が躍る。
そこに左近が近付いてきた。
「殿。稀代の天才軍師『黒田官兵衛』殿。ゆめゆめご油断なさらぬように…。」
と、津久見に伝えた。
「そうですね…。」
黒田官兵衛。
諱いなみ(実名)は孝高。
戦国時代から江戸時代初期にかけての武将・大名である。
戦国の三英傑に重用され筑前国福岡藩祖となる。
キリシタン大名でもあった。
通称「黒田 官兵衛」あるいは、剃髪後の号をとった黒田 如水としても広く知られる。
軍事的才能に優れ、豊臣秀吉の側近として仕えて調略や他大名との交渉など、幅広い活躍をする。
竹中重治(半兵衛)とともに秀吉の参謀と評され、後世「両兵衛」「二兵衛」と並び称された。
その戦の功績は挙げればきりがない。
例えば…
天正10年(1582年)、毛利氏の武将・清水宗治が守る備中高松城攻略に際し、秀吉は巨大な堤防を築いて水攻めにしたが上手く水をせき止められなかった。
これに対し、官兵衛は船に土嚢を積んで底に穴を開けて沈めるように献策し、成功させたと言われる。
高松城攻めの最中、京都で明智光秀により本能寺の変が起こり、信長が横死した。
変を知った官兵衛は秀吉に対して、毛利輝元と和睦して光秀を討つように献策し、中国大返しを成功させた。
その時官兵衛は、信長の死に涙する秀吉に
「天下がいよいよ殿(秀吉)の元に転がってきましたな。」
と、話したという。
この時より、秀吉は官兵衛の恐ろしい程の先見、野望を感じ、官兵衛を恐れたという。
そんな男と今から会う。
そんな男を今から説得しに行く。
何をしてくるか分からない。
そんな述懐をしていると、体の芯から身震いした。
(俺にそんな事できるのか…)
一つのエピソードがある。
官兵衛の息子・長政関ヶ原の戦いの戦功として、新封の筑前におもむく時、中津の城に父を訪て、つぶさに関ヶ原の戦況を報告した。
長政は満面の笑みで
「家康公は、自分の立てた勲功に感謝のあまり、片手を三度もいただかれました」
と述べた。
「どっちの手を」
「右手です」
「その時、お前は左の手をどうしていたのだ」
長政がこれに答え得なかったので、如水はすこぶる不満の色を示したという。
つまり、官兵衛は長政に喜んでいる家康をその隙を突いて殺していれば、今頃天下は黒田家の物になっていたかもしれない…。
津久見はこの有名なエピソードを、頭の中に思い浮かべていた。
(どこまでも天下を狙っている男か…。)
津久見の顔が青ざめていく。
「殿。あれを。」
と、左近が城を指さす。
固く閉ざされていた城門が「ゴゴゴゴゴゴゴ」と音を立て、開城したのである。
そこには数人の男を携え、頭巾を被り、杖を突いた男が立っていた。
第47話 中津城 完
と、道案内の清正の兵が津久見に向かって言った。
「そうですか。」
津久見はゆっくりと城を見上げる。
「大きいですね…。」
津久見は昨日から、本当の「城」を見て来た。
現代には現存しない城、復元された城。
今見て来た城は、400年前の世界で本当にある「城」であった。
一つ一つが、新鮮で胸が躍る。
そこに左近が近付いてきた。
「殿。稀代の天才軍師『黒田官兵衛』殿。ゆめゆめご油断なさらぬように…。」
と、津久見に伝えた。
「そうですね…。」
黒田官兵衛。
諱いなみ(実名)は孝高。
戦国時代から江戸時代初期にかけての武将・大名である。
戦国の三英傑に重用され筑前国福岡藩祖となる。
キリシタン大名でもあった。
通称「黒田 官兵衛」あるいは、剃髪後の号をとった黒田 如水としても広く知られる。
軍事的才能に優れ、豊臣秀吉の側近として仕えて調略や他大名との交渉など、幅広い活躍をする。
竹中重治(半兵衛)とともに秀吉の参謀と評され、後世「両兵衛」「二兵衛」と並び称された。
その戦の功績は挙げればきりがない。
例えば…
天正10年(1582年)、毛利氏の武将・清水宗治が守る備中高松城攻略に際し、秀吉は巨大な堤防を築いて水攻めにしたが上手く水をせき止められなかった。
これに対し、官兵衛は船に土嚢を積んで底に穴を開けて沈めるように献策し、成功させたと言われる。
高松城攻めの最中、京都で明智光秀により本能寺の変が起こり、信長が横死した。
変を知った官兵衛は秀吉に対して、毛利輝元と和睦して光秀を討つように献策し、中国大返しを成功させた。
その時官兵衛は、信長の死に涙する秀吉に
「天下がいよいよ殿(秀吉)の元に転がってきましたな。」
と、話したという。
この時より、秀吉は官兵衛の恐ろしい程の先見、野望を感じ、官兵衛を恐れたという。
そんな男と今から会う。
そんな男を今から説得しに行く。
何をしてくるか分からない。
そんな述懐をしていると、体の芯から身震いした。
(俺にそんな事できるのか…)
一つのエピソードがある。
官兵衛の息子・長政関ヶ原の戦いの戦功として、新封の筑前におもむく時、中津の城に父を訪て、つぶさに関ヶ原の戦況を報告した。
長政は満面の笑みで
「家康公は、自分の立てた勲功に感謝のあまり、片手を三度もいただかれました」
と述べた。
「どっちの手を」
「右手です」
「その時、お前は左の手をどうしていたのだ」
長政がこれに答え得なかったので、如水はすこぶる不満の色を示したという。
つまり、官兵衛は長政に喜んでいる家康をその隙を突いて殺していれば、今頃天下は黒田家の物になっていたかもしれない…。
津久見はこの有名なエピソードを、頭の中に思い浮かべていた。
(どこまでも天下を狙っている男か…。)
津久見の顔が青ざめていく。
「殿。あれを。」
と、左近が城を指さす。
固く閉ざされていた城門が「ゴゴゴゴゴゴゴ」と音を立て、開城したのである。
そこには数人の男を携え、頭巾を被り、杖を突いた男が立っていた。
第47話 中津城 完
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