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第55話

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「おう!!喜内殿そちらを!」







喜内と平岡は釣れた魚を見て、童心に戻って遊んでいる。







そんな姿を、津久見と村上、そして清正は看板から座って見ていた。







「ところで治部殿。今後はいかように?」







村上が声を掛けて来た。







「あ、そうですね。村上さん。色々話を進めないといけませんね。」







と、津久見はまだ遊んでいる二人を見ながら言った。







「話とはなんぞ?」







と、清正が津久見の方を見て言った。







「今後の事です。」







清正の方を見て、津久見が言った。







あの石田三成が、加藤清正とこの船の上で対峙して話をしている。







本当の歴史の話ではありえない話だと、津久見は思ったが、現実目の前にいるのは、







紛れもなく加藤清正である。







「村上さん。私は一つ、実験がしたいんです。」







今度は村上に向かって言う。







「実験とな?」







「はい。」







「どんな?」







「はい。中津訪問の際に、黒田のおじきから、餞別でもらった唐津焼があるんです。」







「唐津焼?焼き物か?」







「はい。」







「それをなんとな?」







「はい。これを、堺に帰港した際に、堺の商人に売り付けて見たいと。」







「あ~、まあな。焼き物は人気じゃが、唐津焼とは言え、他の行商が既に堺に持ち込んでるだろう。そんな食いつきはしないだろう。」







「はい。しかし、ですねこちらに来る際に、おじきから頂いた唐津焼を見ていたら、面白い物を発見しましてね…。」







と、津久見は懐をゴソゴソと動かしながら言う。







「これです。」







津久見は一枚の紙きれを取り出した。







「なんじゃ、これは?」







村上が訝しめに言う。







「はい。製造年月日です。」







「ん?」







「いつ、作られたかが記載されたものです。」







「それがどうした。」







「つい最近なんですよ。作られたの。」







「だから?」







「つまり、豊前・肥後からの品が作られて間もなく、大坂の地にある。これがどういう事か分かりますか?」







「ん。まあ。あの~」







「これを、もし地域の新鮮な特産品だったすれば…。」







「ん。まあ。まあ。あの~」







「これが、豊前でしか獲れない新鮮なお魚だったら、堺の商人は?」







「喜んで、買い上げるな。」







「そうです。今陸地で運搬しているものを船上で運搬すれば、どんなものでも旬のものが、運べます。」







「そうじゃが…。」







「今後、各国での戦を無くした上で大事になるのは商いあきなです。国のしがらみを超えて、全国各地へ船を使って届ける。私はここに大きな商機があると思うんです。」







「なるほど…。」







村上は、考えるように空を見上げる。







「村上さんと言えば、右に出る者はいない程の、海の手練れ。例えば薩摩から大阪までだったら、10日もあれば着くでしょう。」







「馬鹿言え。わしらなら、5日もあれば十分じゃ。もっと早いかもしれぬ。」







「そうですか。」







津久見はニコッと笑った。







「海にはな、海の者にしか見えぬ道があるんじゃい。」







「そうですか、それは失礼しました。さすがですね。」







「そうか。それが村上海運か…。」







「そうです。『早い。丁寧。何でも運ぶ。』村上海運。良いじゃないですか。」







「おうおうおうおう!!」







村上の顔が赤くなってきた。







「それにですね…。」







「なんじゃなんじゃ。」







村上は津久見に近づく。







「海外へ行けるしっかりした船を、作ってほしいんです。」







「ん?治部。また、朝鮮にでも…。」







今度は清正が口を挟んで来た。







「いや、違います。清正さん。私は一貫して、戦はもうしません。その代わりに諸外国の知識が欲しいんです。」







「諸外国?」







「はい、この地球上には幾多の国があります。そこには文明の進んだ国もあります。その先進国から、技術を教えてもらって、この日の本の民の暮らしに生かせればと、思っているんです。」







「朝鮮・明以外にも国が…?」







清正も前のめりに聞いて来る。







清正は三成の事が嫌いではあったが、その知識や才は認めていた。







「はい。何個も。」







「それは…知らなんだ…。」







清正も顔を赤らめる。未知なる未来を感じていたのだ。







「でも、そんな簡単に教えてくれるか?」







清正は、更に言う。







「はい。そこです。ですので、この日の本が誇れる特産品を、どんどん作って売り込んで行こうかと。」







「ふむ。だが、そんな事できるのかお前に?」







「いや、私はただの日本史の教師…。ただの…。ただのロマンチストですから、到底考えられません。」







「ろまんちすと?」







清正は頭を傾けながら言う。







「はい。まあ、あの。そうですね。この日本を笑顔の国にしたいという希望者きぼうものです。」







「はあ?」







清正はいよいよ、不思議そうに津久見を見ながら言う。







(本当に治部か?)







とも、想いながらこの男の言う世界も悪くないと思い始めていた。







「で、世界を相手にするのに、誰か心当たりでもあるのか?」







「はい。なんとなく。商人上がりのあの人なら…。」







「…。あ~。あいつか…。」







清正は苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。







それを察知した津久見は立ち上がり、まだ釣りをしている喜内たちの所に、歩き出そうとしていた。







そこに、清正が声をかけた。







「のう治部。わしの国ならどんなものがええかの?」







津久見はゆっくり振り返ると







「そうですね~立派なお城を作って、観光名所にして、あとは…。」







「あとは?」







「レンコンにからしを挟んではどうですか?」







と言うと、津久見は喜内たちの所へ行き







「うわ、いっぱい獲れましたね~。」







と、喜内たちと遊び始めた。







清正は







「レンコンにからし???」







と、想像もできない得体も知れない食べ物を想像していた。







のどかな時間が船の上で過ぎて行った。







船は、今の淡路島を左手に捉えていた。







大坂は近い。







第55話 完

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