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5.第二王子
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「しょ、処刑? どうしてわたしが!?」
国王陛下に宣言されて、ようやく現実に立ち返ったのでしょう。ユリア嬢は震えながら陛下を見つめました。
「それは今伝えたとおりだ。公の場でそなたが申したことについては多くの目撃者がいる。これは覆らぬ」
すると、ジェシー様が弾かれたようにユリア嬢の前にかばうように出てこられました。他のことはともかく、恋人を守ろうとすることについては感心と言えるかもしれません。
「少し口が滑っただけではありませんか! あまりにも厳しすぎます!」
「──口が滑ったか。それが外交で通じると思うか? おまえは次期国王となるつもりでいたようだが、国賓の把握もしていない者など、愚王にしかならぬわ」
「父上!」
無駄にプライドが高い馬鹿王子は憤怒に顔を染めています。けれど、それに構わずに国王陛下は続けられました。
「それに、わたしはそのことを公の場で申すなと忠告したはずだが。おまえは国で冊立した王太子をなんと心得るか。その時点で、叛意ありと受け取られても仕方ないのだぞ」
これには馬鹿王子も反論できなかったのか、悔しそうに唇を噛んでいます。その傍らにユリア嬢が「助けて!」というように縋りつきました。
すると、馬鹿王子はいきなり気力を取り戻したかのように顔を上げました。
「そ、それはそれとして、その女がユリアをいじめたのは事実です。ユリアはその女狐に嵌められたのです」
「まだそんなことを言うのか!」
国王陛下よりも若々しい声がしたと思ったら、馬鹿王子が吹き飛びました。……あら。
「ハンス様!」
なぜか嬉々とした表情でユリア嬢が第二王子のハンス様に飛びつかんとしていました。馬鹿王子が床に倒れてますけど、それは良いのですか?
けれど、ハンス様がそれを嫌そうに避けると、ユリア嬢は絨毯の上に転がりました。
……あ、王妃様や王太子殿下もハンス様の傍にいらっしゃいますね。
王太子殿下はハンス様と同じく厳しいお顔でユリア嬢と馬鹿王子を見やり、王妃様は申し訳なさそうにこちらに視線を送られてきます。……馬鹿が身内におられると大変ですわね。
「ひどい! なぜ、わたしを助けてくれないの?」
ユリア嬢、この期に及んでなぜ助けてもらえると思っているのか分かりません。
ハンス様は彼女を侮蔑を込めた瞳で見ると、冷ややかな口調で言われました。
「なぜ? わたしも疑問だけれど。なぜわたしがクローディア嬢を貶め、殺そうとした君を助けなければならない?」
ユリア嬢は一瞬気圧されたようでしたが、すぐに持ち直し主張します。
「誤解です! 本当にわたしはクローディア様にいじめられて……それに、証拠もあります!」
「……ふうん、証拠ねえ、あれかな?」
ハンス様がくすりと酷薄な笑みを浮かべましたが、なにを掴んでいるのでしょうか。
「奪った髪飾り、破ったドレス、……ああ、体の関係を持った男達に頼んで──」
「え、クローディアも複数の男と寝たの? 悪役令嬢なんて、国外追放されて盗賊たちにあんあんイかされる肉奴隷エンドがお似合いなのに」
国王陛下の御前ですのに……あまりの品性下劣さに眩暈がしました。
ふらりと倒れそうになるところをオーティスが支えてくれたので、なんとかわたくしも持ち直しました。
お友達にそういうお話を書かれる方がいるので、わたくしも官能的な物語は嫌いじゃありません。──けれど、空想と現実は別物です。
「馬脚をあらわしたな、ユリア・シルフィーニ」
「え……、あっ!」
一瞬惚けた後にユリア嬢が口を押さえますが、もう遅いです。ハンス様に殴られ、近衛騎士に立ち上がらされたジェシー様が呆然とユリア嬢を見つめています。
「わたしは、体の関係を持った男たちに頼んで襲われかける振りをした自作自演、と続けようとしたのだけれど、自ら複数の男と関係したと証言するとは。……ジェシー、下らぬ女性に捕まったものだな」
穢らわしいものを見る目つきで、ハンス様がユリア嬢を見下しました。
国王陛下に宣言されて、ようやく現実に立ち返ったのでしょう。ユリア嬢は震えながら陛下を見つめました。
「それは今伝えたとおりだ。公の場でそなたが申したことについては多くの目撃者がいる。これは覆らぬ」
すると、ジェシー様が弾かれたようにユリア嬢の前にかばうように出てこられました。他のことはともかく、恋人を守ろうとすることについては感心と言えるかもしれません。
「少し口が滑っただけではありませんか! あまりにも厳しすぎます!」
「──口が滑ったか。それが外交で通じると思うか? おまえは次期国王となるつもりでいたようだが、国賓の把握もしていない者など、愚王にしかならぬわ」
「父上!」
無駄にプライドが高い馬鹿王子は憤怒に顔を染めています。けれど、それに構わずに国王陛下は続けられました。
「それに、わたしはそのことを公の場で申すなと忠告したはずだが。おまえは国で冊立した王太子をなんと心得るか。その時点で、叛意ありと受け取られても仕方ないのだぞ」
これには馬鹿王子も反論できなかったのか、悔しそうに唇を噛んでいます。その傍らにユリア嬢が「助けて!」というように縋りつきました。
すると、馬鹿王子はいきなり気力を取り戻したかのように顔を上げました。
「そ、それはそれとして、その女がユリアをいじめたのは事実です。ユリアはその女狐に嵌められたのです」
「まだそんなことを言うのか!」
国王陛下よりも若々しい声がしたと思ったら、馬鹿王子が吹き飛びました。……あら。
「ハンス様!」
なぜか嬉々とした表情でユリア嬢が第二王子のハンス様に飛びつかんとしていました。馬鹿王子が床に倒れてますけど、それは良いのですか?
けれど、ハンス様がそれを嫌そうに避けると、ユリア嬢は絨毯の上に転がりました。
……あ、王妃様や王太子殿下もハンス様の傍にいらっしゃいますね。
王太子殿下はハンス様と同じく厳しいお顔でユリア嬢と馬鹿王子を見やり、王妃様は申し訳なさそうにこちらに視線を送られてきます。……馬鹿が身内におられると大変ですわね。
「ひどい! なぜ、わたしを助けてくれないの?」
ユリア嬢、この期に及んでなぜ助けてもらえると思っているのか分かりません。
ハンス様は彼女を侮蔑を込めた瞳で見ると、冷ややかな口調で言われました。
「なぜ? わたしも疑問だけれど。なぜわたしがクローディア嬢を貶め、殺そうとした君を助けなければならない?」
ユリア嬢は一瞬気圧されたようでしたが、すぐに持ち直し主張します。
「誤解です! 本当にわたしはクローディア様にいじめられて……それに、証拠もあります!」
「……ふうん、証拠ねえ、あれかな?」
ハンス様がくすりと酷薄な笑みを浮かべましたが、なにを掴んでいるのでしょうか。
「奪った髪飾り、破ったドレス、……ああ、体の関係を持った男達に頼んで──」
「え、クローディアも複数の男と寝たの? 悪役令嬢なんて、国外追放されて盗賊たちにあんあんイかされる肉奴隷エンドがお似合いなのに」
国王陛下の御前ですのに……あまりの品性下劣さに眩暈がしました。
ふらりと倒れそうになるところをオーティスが支えてくれたので、なんとかわたくしも持ち直しました。
お友達にそういうお話を書かれる方がいるので、わたくしも官能的な物語は嫌いじゃありません。──けれど、空想と現実は別物です。
「馬脚をあらわしたな、ユリア・シルフィーニ」
「え……、あっ!」
一瞬惚けた後にユリア嬢が口を押さえますが、もう遅いです。ハンス様に殴られ、近衛騎士に立ち上がらされたジェシー様が呆然とユリア嬢を見つめています。
「わたしは、体の関係を持った男たちに頼んで襲われかける振りをした自作自演、と続けようとしたのだけれど、自ら複数の男と関係したと証言するとは。……ジェシー、下らぬ女性に捕まったものだな」
穢らわしいものを見る目つきで、ハンス様がユリア嬢を見下しました。
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