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あの子に約束してもらったのに、その二ヶ月後に親の転勤で俺まで引っ越して、離れ離れになった。どうにか見つけようと必死だったが、親はおろか近所の誰に訊いでも彼の行先は分からなかった。
人探しだけじゃなくて、俺はあの時になにかを諦めてしまったのかもしれない。

『お前、モテるのに恋人つくらないよな。趣味とか勉強に打ち込んでる感じもないし……恋愛に興味ないの?』

少し親しくなると皆同じことを訊いてきた。
興味がないんじゃない。誰かと好き合うこと自体が、叶わない夢のように思えた。



運命の相手が「分かる」のは「良いこと」なんだろうか。

人類は長きに渡って子孫繁栄してきたんだし、運命の相手を見つける力なんて全く必要ないのかもしれない。

でも、どうせなら持っておきたい。
そこそこ相性が良い相手を見つけて、安全牌な人生を送る為に必要だ。
衝突したくないし、「失敗した」と思いたくない。
そんな人間の欲深さによって現れたのが、多分この力。


「久宜、お願い! あの席に座ってる女の子との相性を見てくれない? ちゃんと仕事の時と同じ料金で支払うから!」
夜、賑わうクラブで顔見知りの女性に頭を下げられた。カクテルを差し出されたので有り難く受け取り、口にしながら視線を動かす。彼女が指さす先には、マスターと談笑している若い女性が座っていた。

ここは同性愛者が集まるクラブだ。それは自分も例外ではない。盗み見てることがばれないよう、グラス越しに遠くの女性を映した。
「おお。良いけど、さっき別の美人に誘われてなかった? 自分を求めてくれる人を放っておいて、他の子とのマッチングを求めるなんて罪深いねえ」
「あら……。自分を選んでくれる人間についていけば絶対幸せになれるって言うの? 一時的な熱かもしれないものに全てを委ねられないわ。相手は自分で選ぶものよ」
うおっ。何か反論できん。
女性と口で闘うのは不利だと悟り、急いで話をスライドする。
「わかったわかった! じゃあ、集中するからちょっと待って」
「ありがとう! お願いね」
調子よく微笑むところが憎いが、かといって邪険には扱えない。
それより早く見極めないと。
「じゃ、手を貸して」
彼女の手を取り、深呼吸してから瞼を伏せる。一日に何度も使えるものではないので、集中はそこそこに瞼を開けた。
彼女の周りに浮かんで見える糸は青。テーブル席に座る女性の周りに見える糸も、同じ青色。
「良かったじゃん。相性良いぞ」
「ほんと!?」
彼女は餌を見つけた子犬のように飛び跳ねた。
「じゃあ今日はあのコと飲もーっと! 久宜、ありがとね。貴方も早くご縁があると良いわね!」
数枚のお札を渡し、彼女は長い髪を揺らしながら人混みの中へ消えていった。

あの行動力が羨ましい。人を占っておきながらなんだけど、自分にはご縁なんてない。という言葉を酒と一緒に胃の中に押し込んだ。
「はー……」
オススメしてみても、その先何が起きるかは分からない。できるのはあくまでオススメだ。恋のキューピット紛いの仕事で小銭を稼ぐ、俺が一番惨めに違いない。




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