文字の大きさ
大
中
小
42 / 46
42話 アルヴィンの正体
「……わ、分かり……ました」
力無く頷くローレイ。
残念でしたね、これで貴方がカルディアリアム伯爵の座を手に入れることは、未来永劫出来なくなった。それどころか、このような失態、他の爵位を手に入れることは勿論、貴族全員の笑いものになることは間違いない。
隣で魂が抜けたようなローレイを見ると、自然と口角が上がった。ああ、思っていたよりも、私はこの人のことが嫌いで、鬱陶しかったのね。
***
「フィオナ様、陛下がお呼びです」
「陛下が?」
領主会が終わり、会議室を出ようとすると、デリート侯爵から声を掛けられた。デリート侯爵は皇室で魔道具の研究主任を務めており、陛下と繋がりが深い。
陛下から呼び出し……なんだろ。
「分かりました」
デリート侯爵に案内され、皇室の奥へと進む。そこには、私の補佐官であるアルヴィンも勿論、同行していたのだが――
「アルヴィン、陛下が良いワインを持ってきてくれたかと楽しみにしていましたよ」
「残念ながら、持ってきてないな」
「あーあ、陛下が悲しみますよ」
「俺は一応、仕事中なんだけどね」
「陛下がお酒が好きだと知っているのに、アルヴィンは薄情な男ですねぇ」
「どうせデリートもワインのおこぼれに預かりたかっただけだろ」
「バレましたか?」
「――――あの」
私を挟み、アルヴィンとデリート侯爵が親しげに会話をするのを黙って聞いていたが、もう我慢の限界だった。
「お二人は……知り合いなんですか?」
どう聞いても、お互いを知っているようにしか聞こえない会話だが、確認のために尋ねた。
「僕とアルヴィンは幼馴染なんですよ」
「幼馴染……」
前から薄々、アルヴィンがただ者では無いと思っていた。思ってはいたけど、あまり深く考えもせず、過ごしてきた。デリート侯爵と幼馴染って、いや、アルヴィンって一体何者!?
私を見て微笑むアルヴィンが、今まで一番、意地悪に見えた。
「陛下、フィオナ様とアルヴィンを連れて来ました」
「入れ」
扉を開いた先には、陛下が立派な椅子にどっしりと座って待ち構えていて、デリート侯爵とアルヴィンは何も言わずに、その両隣に控えた。
「よく来たな、フィオナ。今日はフィオナに、今回の功績を称えようと思い、こうして呼び出した」
「功績とは、カルディアリアム領のことですか?」
「そうだ。あのままローレイ……《クィクリー》伯爵のご子息に任せていれば、領地は取り返しのつかない腐敗に追い込まれただろう。ローレイから爵位を取り戻し、領地運営を回復させたフィオナの手腕は素晴らしい」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
ウィスキー陛下からこうして直接、賛辞を頂けるなんて思ってもみなかったし、素直に嬉しい。嬉しいけど、私は他のことが気になってそれどころじゃない!
「陛下、フィオナ様はアルヴィンのことが気になっているんじゃありませんか?」
「なんだ、まだ話してなかったのか」
「ええ、ギリギリまで黙っていた方が面白いかと思いまして」
わー、いい性格してるー! やっぱりアルヴィンは意地悪ね!
「では改めて自己紹介しますね、フィオナ様。俺は陛下の命によりカルディアリアム領を調査していた、オルメシア帝国の監査員です」
「監査員?」
「ええ、《アルヴィン=プラティス》。プラティス公爵家の四男になります」
「公爵令息!?」
「あはは、驚き過ぎですよ、フィオナ様」
「驚くに決まってるよね!?」
待って待って待って待って。何で? 何で公爵令息がそんな、忍び込むような真似を!?
「プラティス公爵家は代々、オルメシア帝国の監査員として問題のある領地に出向き、原因の特定を行ったり、解決に導いたりしています。その為に、プラティス公爵家に生まれた子供達は、社交界デビューするまではその姿を公表せず、監査員としての経験を積むことになっていて、俺の正体を知る者は数少ないんですよ」
「社交界デビューするまでって……アルヴィン、もう二十歳過ぎてるでしょう? 私より年上よね?」
「俺は四男だからね、この仕事が性にあってたし、陛下に頼んで長くさせてもらってるんだ。俺は優秀だから、ね?」
それは否定しないけども! いや、頭が全然追いつかないけど、つまり、カルディアリアム伯爵家には、オルメシア帝国から監査が入っていたってこと?
「ローレイは好き放題し過ぎですよ。そりゃあ、帝国に目をつけられても仕方ありません」
仰る通りで。ってことは、私が動かなくても、どっちにしろ、ローレイは失脚してたってことね。
「陛下に命じられてカルディアリアム領の役所に入り込み、調査をしていたんだけど、そこに、フィオナ様、君が予想外の行動を起こし始めた」
夫に逆らえない、気弱な伯爵夫人だと聞いていたのに、爵位を奪い返し、領地の立て直しを始めた。
「それで急遽君に近付いて、様子を探ることにしたんです。フィオナ様が本当にカルディアリアム伯爵に相応しいのかどうかを確認するためにね」
「……そうだったのね」
感想
あなたにおすすめの小説
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@コミカライズ決定異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
「病弱な妹に婚約者を譲れ」と言われたので譲った結果、実家は破滅したようです
たると「マリアベル。君との婚約を棄させてほしい。……いや、正式には、僕の婚約者を、ルサルカに変更することに、君の同意をもらいたい」
部屋の空気が、ぴたりと止まる。
妹のルサルカは、ジュリアンの肩に顔を寄せ、可憐に震えてみせた。
「お姉様、ごめんなさい……。でも、私、ジュリアン様なしでは生きていけないの。ジュリアン様も、私を愛してくださって……。お姉様には、ハルデン侯爵夫人の座は重すぎると、ジュリアン様もおっしゃって……」
「お前には、長女としての義務がある。ルサルカの幸せを第一に考えるのが、お前の役目だ。ジュリアン殿は、我が家にとっても最高の婿殿となる。あの子の身体のことも考慮し、ハルデン家が全面的にサポートしてくれると約束してくださったのだ。お前は一歩引き、妹の門出を祝うのが筋というものだ」
(祝う……?)
私の婚約者を奪い、私の名誉を泥に塗れさせ、その上で、笑顔で祝福しろと言うのか。
この瞬間、マリアベルの心は決まった。
「また簡単に作れるだろう?」従妹に潰された結婚記念日の贈り物を軽視した夫の末路~プラズモリシスによる侯爵夫人との決別~
水上侯爵夫人のエリアーヌは、柔和な顔立ちを持ち、誰に対しても人当たりの良い笑みを浮かべる夫、ジュリアンの外交的成功を裏から支え続けてきた。
ある日、夫はエリアーヌからの結婚記念日の贈り物を従妹に無造作に与え、握り潰させてしまう。
「少し潰れたくらいで大げさだよ。また簡単に作れるだろう?」
悪びれもせず笑う夫の言葉に、限界を迎えていたエリアーヌの感情は完全に剥離し、彼女は別れを告げて家を出た。
その後、従妹が起こしたある出来事のせいで、夫は窮地に立たされてしまう。
彼が迎える末路は果たして……。
王太子殿下、最初の一曲は私ではないのですね 〜我慢をやめた公爵令嬢は、婚約指輪をお返しいたします〜
ゆぷしろん 王太子カーティスの婚約者フローラは、彼に何度も「君なら分かってくれる」と我慢を強いられてきた。王宮の茶会や演奏会、誕生日の晩餐までも、殿下は王弟の落胤であるサビーナを優先し、フローラの傷を見ようとしない。ついに生誕舞踏会の最初の一曲まで奪われた彼女は、周囲の視線にさらされながらも笑顔の裏で限界を迎え、婚約解消を決意する。
翌日、王妃の前でこれまでの扱いを訴えると、サビーナもまた殿下の都合のよい言葉に利用されていたと判明。カーティスは自分の甘えと無責任さを認めきれず、国王は婚約解消と王太子活動の停止を命じる。
フローラは誰かの都合に合わせ続ける人生をやめ、自分の心を優先する穏やかな日々を取り戻す。そして、彼女を一人の人として尊重するルシアンの手を取り、初めて自ら望んだ新たな未来へ歩み出していく。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕 家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
『泣かないんですか?』婚約破棄された会計監査見習いの私は、王子の脱税額をそろばんで弾きます
他力本願寺「貴様との婚約は破棄する!」
会場の視線が私に集中した瞬間、私は静かに微笑んだ。
「殿下、お尋ねしてもよろしいですか。
貴方が今夜のために国庫から流用なさった
八万四千二百三十七ゴルド——その端数の銅貨三枚は、
どちらに消えたのでしょう?」
会場が、静まり返った。
——だって殿下。
私、王宮会計監査局の見習いなんです。
数字は、嘘をつきません。
嘘をつくのは、いつだって、数字を書く人間の方です。
***
王宮会計監査局の第三等見習官であるエルナ・ヴァルトハイムは、公金横領の疑いがある第二王子フィリップを内偵するため、地味な令嬢を装い婚約者として監視を続けていた。
しかし、算術を忌み嫌う愚かな王子は、自らの罪にも気づかず、卒業舞踏会の場でエルナを糾弾。見目麗しい男爵令嬢との「真実の愛」を語り、身勝手な婚約破棄を突きつける。
「私が泣くと思って、わざわざこの場をお選びになったのですか?」
国庫を食いつぶす不正な支出の数々を、三年間鍛え上げた完璧な記憶力と算盤で、一銅貨の狂いもなく暴き立てるエルナ。
無慈悲な数字の羅列と証拠を前に、王子と男爵令嬢、そして欲深い共犯者たちは次々と崩れ落ちていく。
そして、完璧な断罪劇を見届けたエルナの直属の上司——王位継承順位第一位のレオンハルト殿下が、ついに歩み出てきて……?
※数字と規律を愛する冷静沈着なヒロインが、愚かな王子を容赦なく追い詰める爽快な「ざまぁ」短編(前6話)です。