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6話 煌びやかな宝石の意味

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「カナリア様は、まだダンスを続けますか?」

 騒ぎが起きた事で、ダンスは一時中断していましたが、私達のダンスを皮切りに再開していて、生徒達は各々がペアを組み、踊り初めていてる。
 流石に、騒ぎを起こした張本人であるキールとメアリーは、踊りに参加せず、ただ黙って、2人で壁の隅っこで佇んでいますが……あらあら、先程までとは立場が逆転してしまいましたわね。

「いえ。私はもう結構ですわ」

 辺りを見渡せば、今まで私に見向きもしていなかったクセに、隣国の皇女だと分かった途端、私を、次のダンスに誘おうと、沢山の男子生徒達が、こちらの様子を伺っているのが分かる。
 踊る気が無いと分からせる為に、ハッキリと断言しておかなくては。

「そうですか。でしたら、お疲れでしょうし、休める部屋を用意しておりますので、そちらでお休み下さい」

「……いいのですか?」

 一応、卒業式なので、途中で生徒が抜けてもいいものなのか、心配になる。

「はい。貴女がトリワ国の姫君だと明かすのは、本来、卒業式が終わる直前の予定でしたのに、式途中で明かしてしまいました。約束を違えてしまったのはこちら側ですから」

 私が、主に出した条件ですね。
 3つ目。トリワ国の姫君だと明かすと、権力に群がる虫が沢山出てきそうなので、卒業式まで、身分を明かさない。
 私は目立つのは嫌いですし、媚びを売られるのも面倒ですし、チヤホヤされるのも苦手です。
 だから、最後の最後で、締めのご挨拶のつもりで、軽ーーーく、身分を明かしてお終いにするつもりだったのですが、あの馬鹿おとーーーキールの所為で、大々的に途中で姫君だとバレてしまいました。

「お気にならさずに。少なくとも貴方は、私を助けに来てくれたのでしょう?」

 ケイ王子がダンスのお誘いに来て下さったのは、皆様の前で、キールやメアリーから身に覚えの無い罪で糾弾されている私を、救おうとして下さったから。

「感謝していますわ」

 ええ、本当に感謝しています。じゃないと、私の万能なメイド、マリアが、そろそろ本気で飛び出して来るんじゃないかと思って、ヒヤヒヤしていました。

 そのまま、ケイ王子は私の手を取ると、ダンスホールから連れ出し、用意してくれた部屋までエスコートをしてくれた。



「……っぅ!許せない…!」
 そんな2人を、睨むように目で追う、メアリーの姿。

「何よ!絶対私の方が可愛いのに…!私の方が、チヤホヤされるべきなのに!」

 (ちょっと産まれが良いだけのクセに、私よりチヤホヤされるなんて、おかしい!私の方が、チヤホヤされるべきなの!実際、キール様だって、私を選んでくれたんだから!)

「許さない…許さない…許さない…!」

 メアリーは、2人の姿が見えなくなるまでずっと、苦い表情で親指の爪を噛み締めた。





 ケイ王子に案内された部屋で、1人になったカナリアは、ソファに腰掛けながら、深いため息を吐いた。

「疲れましたわ…」

 卒業式の前日から、立て続けに色々な事が起きた気がする。
 まさか、婚約破棄を言い渡されるとは、流石に予想していなかった。

「呆れた公爵子息ですこと」

 卒業まで大人しくしていれば、こちらから穏便に婚約破棄を申し出たので(どちらにせよ、貴方の態度の悪さを理由にしますけど)、改めてメアリーと婚約出来ましたのに。
 少なくとも、こんなに大事にはならなかった。

 別に対した事じゃないと、気丈に振舞ってはいたけれど、その分、体は疲れていみたい。座ったソファはとても柔らかくて、座り心地が良い。気をつけないと、このまま寝てしまいそう。
 この部屋は、学園内の応接室かしら?貴族が通う学園なだけあって、とても綺麗な部屋ね。高そうな絵や、花瓶、机、椅子。座っているソファも、きっと高級な物なのでしょうね。

「折角、私はヒントを出しましたのに。意味がありませんでしたわね」

 それが、私が今日、身にまとっているドレスや、装飾品の数々だった。
 いち子爵令嬢が身に付けられる以上の価値がある物を、私は今日、身にまとっていた。見る人が見れば、すぐに、私がただの子爵令嬢では無い事に気付いたでしょう。
 実際、私が誰からもダンスのペアに選ばれず佇んでいるのを見て、観覧席からは、ざわめきが聞こえた。
 キールやメアリーさんは、私に恥をかかせるのが目的で、誰からも誘えない惨めな女を演出したつもりでしょうが、観覧席にいた、私の身に付けている物の価値が分かる貴族の方々からは、《何故、こんなに高級な物を身に付けいる、明らかにただ者では無い私を、誰もダンスに誘わないのか》ーーっとのざわめきで、貴方達はそれに全く気付かないどころか、思惑通りに、惨めで人望も魅力も無い女であるとアピール出来たと大喜び。
 そのまま、あの茶番劇を最後まで繰り広げましたものね。

 メアリーは元より、公爵家であり、良い物を見慣れているハズのキールも、目先の、私を排除する事しか考えていなかったのか、見抜け無かった。
 果たして、生徒の中で、これらの価値に気付いた方はいらしたのかしら?

「ふふ。公爵家の奥様は、いち早く気付いておりましたのにね」

 息子の方はさておき、母親の物を見る目は確かなようで、私が登場してからはずっと、目を輝かせて、私の身に纏う宝石達を見つめていらしたものね。
 私が公爵家に嫁げば、これらの宝石も、私経由で手に入るとでも夢を見ていらしたのかしら?まぁ、その目録は全て、貴女達のご子息の手により、砕かれてしまいましたけど。
 キールは今頃、父親、母親、両名から、強いお叱りを受けているだろう。


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