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「2人とも、止めて下さいね」
「かしこまりました、聖女様」
「……くそっ!分かった、リーシャ」

 2人とも、リーシャの言う事は素直に従う。
「てか……お姉ちゃんが聖女って事は、お姉ちゃんの元・仲間の2人もーー魔王討伐時の英雄ってこと?」
 サクヤは恐る恐る、事実を確かめた。
「そうだな。改めて名乗ろう。俺は魔王討伐メンバーの1人、騎士ノルゼス。レナルドは、魔法使いだ」
「やっぱり?そうだよね。2人とも強いはずだよね!」

 2人が只者では無い事に気付いてくれてありがとうございます。これで、後にこの村に他の冒険者が来ても、比べられる事は無いでしょう。
 魔王討伐に選ばれた冒険者と、一般的な冒険者では、雲泥の差が有りますからね。

「リーシャはんが冒険者なのに何も出来へんかったんわ、リーシャはんの守護の魔法で、大勢の付き人同行で旅してたからやねんな」
「私の周りは、ある意味、どこかの街にいるより安全でしたから」
 魔王を討伐する前は、魔物の動きは活発で、強かったですし、色々な街や村で被害が横行していましたからね。

「それが、聖女様を窮屈に思わせてしまっていたなんて思いもしませんでした……本当に申し訳ございません」
「そんな…!私も、受け入れてしまっていましたし……あの頃は、聖女として、そうあるべきだと思っていましたから」
 再度、深く深く頭を下げるノルゼスに、リーシャは慌てて首を振った。

「ただ、これだけは言わせて下さい、聖女様。貴女はーー聖女として生きてきた自分には、何も無いと思われているかもしれませんが、聖女様に救われた人達は、沢山います」

 魔物に怯えていた時代に、突如現れた希望。
 聖女として相応しく、人々に寄り添い、守り、強くあるその姿に、魔物との戦いで辟易していた人達に、勇気を与えた。
「貴女を慕う者は、この世に沢山います。私もその1人です」
「ノルゼス…」
「あそこにいるレナルドも、貴方にまた救われた者の1人です。貴方が、大き過ぎる魔力を持って産まれた故に、魔力の暴走で苦しんでいた少年を救った」

 ここと同じような、小さな村。
 違いは、ここ、ヘーゼルとは違い、村人達はレナルドに冷たかった。幼いレナルドは、魔力の暴走で、家屋を破壊し、人々を傷付け、自分自身も、傷付けた。

「僕と同じ、魔力の暴走……それで…!」
 だから、同じように魔力の暴走で苦しんだサクヤに、優しくなったのだと確信する。

「あんな地獄みたいな場所で、俺を信じて手を差し伸べてくれたリーシャだけが、俺の全てだ!」
「レナルド…」

 そう言えば、まだ聖女として振る舞い始めた頃、冒険で立ち寄った村に、ボロボロの男の子がいた。あの子がレナルドだったのですね……ごめんなさい。全く気付いていませんでした。


「何にせよ、あの馬鹿王ーー王子様は、この私が責任を持って王都まで連れ帰ります。聖女様の正体がこの村に広まってしまった事は、本当に申し訳無くーー」
「大丈夫ですよ。王様にも、王都の守護の魔法を解こうとは思っていませんと伝えて下さい」
「はい。本当に申し訳ございませんでした。そして、もう1つ、1度、レナルドも連れ戻してもよろしいですか?」
「はぁ?!ふざけんな!何で俺が!!」

 急に自分も城に連れ戻すと言われ、キレるレナルド。
「お前、ここら辺一帯の魔物だけじゃなく、ここに来るまでの道中でも、魔物を殺しまくっただろ」

 ギクッと、レナルドの体が揺れる。
「……まさか、他の村でも、狩りが出来なくて困っている事になっているのですか?」
 現状、魔物も立派な食料源になっていて、この村でも、レナルドが魔物を殲滅し過ぎて、肉が取れず、今は魚で代行しているが、この村はまだ、川が近くにあり、魚を取りに行ける人材がいるから良い。
「はい」
 リーシャの問いに、ノルゼスはこくんと頷いた。
「待て!それと俺が城に戻る事に何の意味がーー!!」
「城に戻れとは言っていない。ただ、迷惑をかけた村の人達の生活が安定するまでは、お前が率先して、食料を届けるなりしろ!」

 この村には、まだイマルやサクヤがいて、何なら、元・聖女として絶対的守護の力を持つリーシャがいる。

「いいか?他の村には、そんな戦えたりする人材がいない場所もあるんだ!それなのにお前は!人畜無害な魔物まで殺してーー!!」
「わ!ワザとじゃない!喧嘩を売ってきたからー!!」
「巻き添えを食らった魔物も沢山いたなぁ?!」
 ギャギャーとまた言い争いが始まる。

「……ルド。行って来て下さい。村の人達に迷惑をかけるのは駄目ですよ」
「…っ…分かった…」
 鶴の一声であるリーシャの言葉で、観念したように、レナルドは項垂れながら、了承した。


 まだ馬車の中で、『俺の聖女に、俺以外に好きな人なんて出来る筈が無い!嘘だ!あれは嘘だ!』と泣き叫ぶ王子と、『絶対に帰ってくるからな!』と吐き捨て乗り込んだレナルド、そして、それ等を引率して連れ帰るノルゼス。

 村の人達は、突如現れた国の王子、英雄達を受け止めきれないまま、彼等をお見送りしたーーー。


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