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32.嫉妬上等
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「けど、遅かったんです。ケネス殿下のなさる仕事は裏方ばかりなので、功績を知らない者が多く、ライアンがいくらケネス殿下がやったのだと言っても、信じる者はあまり居ませんでした。ケネス殿下の功績をライアンが訴えても、ライアンの功績にされてしまう。ライアンはそれが嫌でたまらなかったのです。なんとかケネス殿下に表舞台に出て頂こうと、1人しか許されないメイドをライアンが手配したりもしました。ですが、あまり良い子は居なかったようですね。ライアンの前ではとても良い子だったのですが」
「僕もあまりあの子達を信用してなかったからね。信用してくれない主人になんて仕えたくないでしょ。だから、僕の責任だよ」
「けど……ジーナは兄様に信用された……それが……なんだか悔しくて……」
「ジーナ様が信頼に足る人物か見極めたいと、部屋を訪ねたのです。ところが、ジーナ様はケネス殿下から勧められた本を夢中で読んでいた。ケネス殿下は本をとても大事になさっていて、誰にも触らせませんでした。ジーナ様がケネス殿下に忠誠を誓っているのは見れば分かります。大事な本を貸す程ジーナ様を信頼していると分かって、ライアンは嫉妬したんです」
「え、そんなにわかりやすいの?!」
「そうですね。わかりやすいです。ケネス殿下を馬鹿にした騎士達は、フィリップ様に扱かれて反省の弁を述べているそうですよ。あんなに侍女に慕われている王子だと思わなかった。訓練だって、お遊びだと思ったのに真面目にやっていた。第二王子は、噂とは違う凄い人だって騎士達が言ってました。それが侍女やメイドに伝わって広がってますね。騎士達に憧れるメイドや侍女は多いですから、騎士が誉めた人は好意的に見られます。噂は、女性を味方に付けられれば勝ちです。ジーナ様が誰彼構わずケネス殿下を賞賛しているせいもありますけど」
「え……そんな事してませんわよ?」
「してます」
「してるな。僕は長年欲しかった兄様の信頼を出会った瞬間に持って行ってしまったジーナに嫉妬したんだ。僕は兄様の信頼を得られなかった。ジーナ様、失礼な事をして申し訳ありませんでした」
「お詫びは、受け取りました。あの、わたくしからもひとつよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ケネス殿下は、昨日からお仕えしているわたくしよりも余程、ライアン殿下を信頼なさっておられます。わたくし、少しだけライアン殿下が羨ましかったのです。ケネス殿下があんなに信頼する方はどんな方なんだろうと思っておりました。何故か、敵意を向けられて驚きましたけど、わたくしに嫉妬して下さったなんて光栄ですわ!」
「……え、ほ、本当に?」
「わたくし、嘘は申しませんわ」
「本当だよ。僕はライアンを信頼してる」
「だって……僕の紹介したメイドはすぐ兄上がクビにするから……兄様は僕を信頼してくれてないんだと……」
「あの子達、ライアンの話ばかりするんだ。だからつい、遠ざけていたの。そしたら、僕を嫌ってしまうんだ。ちゃんと側に置いていれば、ジーナみたいに僕に仕えてくれたのかもしれない。でも、居心地が悪くて……ごめん、本音を言えば、僕はライアンに嫉妬してたんだ。だからあの子達が居ると嫌だった。出来の良い弟が、眩しくて仕方なかったんだ。子どもみたいでごめん」
「わかりますわ! わたくしも妹の方が可愛いとか、可憐だとか言われてつい社交界から遠ざかってしまいましたもの。でも、別に構わないではありませんか。嫉妬上等ですわ!」
「……ジーナ様、嫉妬上等ってどういう事ですか?」
「デューク様、わたくしは地味ですけど、妹のおかげで少しだけメイクが得意になりましたの。でも、どんなに頑張ってもわたくしはニコラのようにはなれません。ニコラにはニコラの、わたくしにはわたくしの得意な事があります。だから、ニコラの逆をいく事にしたのです。社交界では、わざと目立たなくして情報収集を行っておりますわ!」
「ちょっと待て! 社交界に出てるのか?」
「それはもちろん貴族の娘ですから、出ておりますわよ? 先日も夜会に出ましたわ。まぁ、王子様方が出られるような高貴なパーティーには出ておりませんけれど」
「おい! デューク! 情報が間違ってるぞ!!!」
「そんな事言われても……ほ、本当に社交界に出てるんですか?」
「ええ、ニコラとデューク様が踊っている姿も拝見した事がありますわ。あの頃はまだ目が良かったので、お顔もバッチリ覚えておりますわよ」
言葉を失っているライアンとデュークを不思議そうに眺めながら、ケネスはジーナに問うた。
「ねぇジーナ、嫉妬って良くないんじゃないの?」
「人間ですもの。嫉妬くらいしますわ。でも、嫉妬してもケネス殿下のように自分を高める事が出来れば素敵ですわよね」
「え……? 僕、何をしたっけ?」
「メモに書いてありましたわ! ライアン殿下のようにはなれないから、ライアン殿下の役に立つように仕事を多めにしていると!」
「あああ……あれはっ! 視察とか全部ライアンに押し付けてるから、せめて僕は裏の仕事は全部やろうと思って……」
「だからケネス殿下は素晴らしい方なのです! ネガティブな感情を持っても決して人にぶつけない。崇高なお方です!」
「ははっ……あははっ……そうだよ! 兄様は凄いんだ! なのに誰も分かってない。だから、僕が兄様を助けようと思ってた。けど、兄様は僕がそんな事しなくたって自分のやるべき事をやる人なんだ。そう、僕の兄様は、凄い人なんだよ!」
そう言って笑うライアンは、幼い頃から共に過ごしたデュークすら見た事のないすっきりとした顔をしていた。
「僕もあまりあの子達を信用してなかったからね。信用してくれない主人になんて仕えたくないでしょ。だから、僕の責任だよ」
「けど……ジーナは兄様に信用された……それが……なんだか悔しくて……」
「ジーナ様が信頼に足る人物か見極めたいと、部屋を訪ねたのです。ところが、ジーナ様はケネス殿下から勧められた本を夢中で読んでいた。ケネス殿下は本をとても大事になさっていて、誰にも触らせませんでした。ジーナ様がケネス殿下に忠誠を誓っているのは見れば分かります。大事な本を貸す程ジーナ様を信頼していると分かって、ライアンは嫉妬したんです」
「え、そんなにわかりやすいの?!」
「そうですね。わかりやすいです。ケネス殿下を馬鹿にした騎士達は、フィリップ様に扱かれて反省の弁を述べているそうですよ。あんなに侍女に慕われている王子だと思わなかった。訓練だって、お遊びだと思ったのに真面目にやっていた。第二王子は、噂とは違う凄い人だって騎士達が言ってました。それが侍女やメイドに伝わって広がってますね。騎士達に憧れるメイドや侍女は多いですから、騎士が誉めた人は好意的に見られます。噂は、女性を味方に付けられれば勝ちです。ジーナ様が誰彼構わずケネス殿下を賞賛しているせいもありますけど」
「え……そんな事してませんわよ?」
「してます」
「してるな。僕は長年欲しかった兄様の信頼を出会った瞬間に持って行ってしまったジーナに嫉妬したんだ。僕は兄様の信頼を得られなかった。ジーナ様、失礼な事をして申し訳ありませんでした」
「お詫びは、受け取りました。あの、わたくしからもひとつよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ケネス殿下は、昨日からお仕えしているわたくしよりも余程、ライアン殿下を信頼なさっておられます。わたくし、少しだけライアン殿下が羨ましかったのです。ケネス殿下があんなに信頼する方はどんな方なんだろうと思っておりました。何故か、敵意を向けられて驚きましたけど、わたくしに嫉妬して下さったなんて光栄ですわ!」
「……え、ほ、本当に?」
「わたくし、嘘は申しませんわ」
「本当だよ。僕はライアンを信頼してる」
「だって……僕の紹介したメイドはすぐ兄上がクビにするから……兄様は僕を信頼してくれてないんだと……」
「あの子達、ライアンの話ばかりするんだ。だからつい、遠ざけていたの。そしたら、僕を嫌ってしまうんだ。ちゃんと側に置いていれば、ジーナみたいに僕に仕えてくれたのかもしれない。でも、居心地が悪くて……ごめん、本音を言えば、僕はライアンに嫉妬してたんだ。だからあの子達が居ると嫌だった。出来の良い弟が、眩しくて仕方なかったんだ。子どもみたいでごめん」
「わかりますわ! わたくしも妹の方が可愛いとか、可憐だとか言われてつい社交界から遠ざかってしまいましたもの。でも、別に構わないではありませんか。嫉妬上等ですわ!」
「……ジーナ様、嫉妬上等ってどういう事ですか?」
「デューク様、わたくしは地味ですけど、妹のおかげで少しだけメイクが得意になりましたの。でも、どんなに頑張ってもわたくしはニコラのようにはなれません。ニコラにはニコラの、わたくしにはわたくしの得意な事があります。だから、ニコラの逆をいく事にしたのです。社交界では、わざと目立たなくして情報収集を行っておりますわ!」
「ちょっと待て! 社交界に出てるのか?」
「それはもちろん貴族の娘ですから、出ておりますわよ? 先日も夜会に出ましたわ。まぁ、王子様方が出られるような高貴なパーティーには出ておりませんけれど」
「おい! デューク! 情報が間違ってるぞ!!!」
「そんな事言われても……ほ、本当に社交界に出てるんですか?」
「ええ、ニコラとデューク様が踊っている姿も拝見した事がありますわ。あの頃はまだ目が良かったので、お顔もバッチリ覚えておりますわよ」
言葉を失っているライアンとデュークを不思議そうに眺めながら、ケネスはジーナに問うた。
「ねぇジーナ、嫉妬って良くないんじゃないの?」
「人間ですもの。嫉妬くらいしますわ。でも、嫉妬してもケネス殿下のように自分を高める事が出来れば素敵ですわよね」
「え……? 僕、何をしたっけ?」
「メモに書いてありましたわ! ライアン殿下のようにはなれないから、ライアン殿下の役に立つように仕事を多めにしていると!」
「あああ……あれはっ! 視察とか全部ライアンに押し付けてるから、せめて僕は裏の仕事は全部やろうと思って……」
「だからケネス殿下は素晴らしい方なのです! ネガティブな感情を持っても決して人にぶつけない。崇高なお方です!」
「ははっ……あははっ……そうだよ! 兄様は凄いんだ! なのに誰も分かってない。だから、僕が兄様を助けようと思ってた。けど、兄様は僕がそんな事しなくたって自分のやるべき事をやる人なんだ。そう、僕の兄様は、凄い人なんだよ!」
そう言って笑うライアンは、幼い頃から共に過ごしたデュークすら見た事のないすっきりとした顔をしていた。
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