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墓参りと、決別【後日談】
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今日は、ジャックと一緒に墓参りに来た。エドガー様が教えてくれたのだ。エリザベスも、他界したと。妊婦に伝えるのを躊躇ったそうだが、後から知る方が辛いだろうとの事で、教えて頂いたのだ。
最初は、なんとも思わなかった。けど、何日か眠れない日が続いたから、ジャックの提案で、墓参りする事にした。
「ソフィ、ちゃんと区切りをつけよう? ソフィが期待した家族の愛は、両親や妹からは得られなかった。でも、オレが居るから。オレも家族の愛は知らない。でも、ソフィの事は誰よりも愛してるんだ。もうすぐ家族も増える。これ以上ソフィに負担がかかるなんて嫌だ。墓参りして、お前らなんかもう知らないって言ってやろうよ」
「私もジャックの事を愛してるわ。それは間違いないし、幸せなの。子どもも楽しみなの。この幸せは、あの人達が居たらあり得なかった。望んで捨てたのは私なの。なのに、死んだと聞いたら、ショックだったの。どうしてなのか、全く分からないの」
私はジャックの前で初めて、両親の事で泣いた。お腹が空いて泣く事はあったが、孤児院に来た時にはとっくに両親にも妹にも、使用人にも冷めていたから、ショックに思った自分に戸惑っていた。
「ソフィは、愛されたかったんだよね?」
「……ジャックが充分愛してくれてるわ」
「それはもちろんそうだけど、親と妹に愛されたかったんでしょう?」
「分からない……いつからか期待する事はなくなったし、自分でなんとかしないと死ぬからその事だけで頭がいっぱいだったの。でも今幸せに暮らしてたらふと、過去の事を思い出す事が増えたの」
「それはまだ、ソフィが割り切れてないからだよ。お墓参りで割り切れるかは分かんないけど、オレがついてるから。だからオレと結婚したってご挨拶に行こう?」
こうして、私は両親と妹の墓参りに来た。実は来るだけで大変だった。私は妊婦だから、移動も負担がかからないようにして貰えた。私はもう仕事はおやすみしてるから良いけど、ジャックは仕事の調整とか大変だったんじゃないかしら?
心配でエドガー様に聞いたら、
「問題ないよ。ジャックは優秀だし、その分仕事は前倒しでしてるからね。それに、僕に借りを作る分には大歓迎だよ」
と、言われてしまった。なんだか申し訳なくて、やっぱり辞めようかとも思ったけど、ジャックが譲らなかった。
「……お父様、お母様、エリザベス。私は結婚したわ。もうすぐ子どもも産まれる。ねぇお母様、エリザベスが産まれる前はわたくしの事も可愛がってくれてたわよね? どうして、わたくしは要らなくなったの? どうして、お父様は助けてくれなかったの? エリザベスは、どうして私の物を取ることしかしなかったの!!!」
「はじめまして、ミリィの夫です。貴方達が要らないと言ったんですから、もう返せません。ミリィは、僕の家族です。貴方達の愛情は、全てエリザベスさんに与えられましたから、オレがその分ミリィを、いや、ソフィを愛します」
「……そうね、ジャック、ここにもうひとつ墓を建てるわ。わたくしの、ミリィの墓を」
墓は平民になった両親にしては立派だったが、エドガー様の手配だったらしい。一応家族だったからとの事だ。後日ミリィの墓も建てて、花を添えたらようやく、心のわだかまりが溶けていくのを感じた。
今まで私は、自分の気持ちに蓋をしていたんだと思う。ジャックの愛に甘えて見ないふりをして過ごしていた。これからは、両親の事や妹の事で心を迷わせる事はない。だって、私はソフィだもの。
「ミリィはもう居ない。貴方達と死んだ。私の名前はソフィ、家族はジャックと、これから産まれる子どもよ」
「……ソフィ、行こうか」
「ええ! ジャック愛してるわ!」
「オレもソフィの事愛してるよ。そうだ、妊婦も食べられて、しかも美味しいお菓子を用意したんだ! はい、あーん」
「美味しいわ! 幸せだわ! こんな味初めて! さすが貿易会社の支店長ね!」
「ふふっ、オレと結婚して良かっただろ?」
「もちろん! ジャックとじゃないと結婚しなかったわ!」
「……エドガー様と結婚しようとしたくせに」
「え? 私穏便な婚約破棄調べてたくらいエドガー様の事なんとも思って無いけど?」
「聞いてないぞ、それ! ソフィ取られたくなくて、エドガー様暗殺しようとしたんだけど!」
「……あんさつ?」
「それは初耳だねぇ、主人に牙を剥くとは、悪い部下だ。まぁ、返り討ちにしたけどねぇ」
「エドガー様! この度はお墓の手配、ありがとうございました」
「どういたしまして。ミリィは、家族と一緒に眠っているんだね」
「はい! 私はもうソフィです! ジャックと家族を作ります」
「良かったねぇ、ジャック」
「……ありがとうございます、あと、すいませんでした」
「ああ、そうだ。君たちの居た孤児院は、来月から寄付を受け付けないから寄付するなら今月までにしてね。ちょうど帰ってきてるんだし、挨拶もしてきたら? ソフィのお家は、孤児院でしょう?」
「確かにそうですけど、どうして寄付受付しないんですか? まさか、孤児院なくなっちゃうんですか?」
「大丈夫、残るよ。孤児院の運営を寄付に頼るのは当たり前なんだけど、寄付の額で子ども達に影響が出るのは良くないからね。孤児院で、きちんとお金を稼いで運営費を出せるようにしたんだよ。ジャックが」
「……え?!」
「最初のお金は、エドガー様と侯爵家が出したでしょうに」
「でもその投資したお金も先日全額返済しただろう?」
「……オレだけがやったわけじゃなくて、孤児院の仲間とやったんですよ」
「そうなの!? ジャックすごい! すごいわっ!」
孤児院に着いて、院長達とおしゃべりする。みんな、ジャック達を褒めていて私まで嬉しくなる。孤児院の運営は、ジャックや仲間たちが頑張ってこれからも定期的な稼ぎを出せるし、蓄えもあるそうだ。寄付を受付すると、寄付した相手が無茶を言っても聞かないといけないのが悩みだったが、これからはそんな事はないと嬉しそうだ。
「うちの両親は、寄付もしないのに無茶ばかりで申し訳ありません」
「あら? ソフィには関係ないでしょう? ミリィはもう居ないのだから」
院長の悪戯っぽい顔を見て思う。会社にも両親が迷惑をかけたようだから、改めて謝罪をしたが同じ事を言われた。そうだ、もう私はソフィだ。改めてお礼を言い、もう考えない事にする。以前は、それでも心にシミのようなものが浮かんでいたが、今はそんな事はない。
「ソフィ、結婚おめでとう!」
式に来れなかった仲間たちも、私達を祝福してくれた。久しぶりにガールズトークに花が咲いて、ジャックとエドガー様の会話は聞こえなかった。
「これで、ソフィの気がかりはもうないからねぇ。ジャックの独占欲には恐れ入るよ」
「……うるさいっすよ。ご主人様」
最初は、なんとも思わなかった。けど、何日か眠れない日が続いたから、ジャックの提案で、墓参りする事にした。
「ソフィ、ちゃんと区切りをつけよう? ソフィが期待した家族の愛は、両親や妹からは得られなかった。でも、オレが居るから。オレも家族の愛は知らない。でも、ソフィの事は誰よりも愛してるんだ。もうすぐ家族も増える。これ以上ソフィに負担がかかるなんて嫌だ。墓参りして、お前らなんかもう知らないって言ってやろうよ」
「私もジャックの事を愛してるわ。それは間違いないし、幸せなの。子どもも楽しみなの。この幸せは、あの人達が居たらあり得なかった。望んで捨てたのは私なの。なのに、死んだと聞いたら、ショックだったの。どうしてなのか、全く分からないの」
私はジャックの前で初めて、両親の事で泣いた。お腹が空いて泣く事はあったが、孤児院に来た時にはとっくに両親にも妹にも、使用人にも冷めていたから、ショックに思った自分に戸惑っていた。
「ソフィは、愛されたかったんだよね?」
「……ジャックが充分愛してくれてるわ」
「それはもちろんそうだけど、親と妹に愛されたかったんでしょう?」
「分からない……いつからか期待する事はなくなったし、自分でなんとかしないと死ぬからその事だけで頭がいっぱいだったの。でも今幸せに暮らしてたらふと、過去の事を思い出す事が増えたの」
「それはまだ、ソフィが割り切れてないからだよ。お墓参りで割り切れるかは分かんないけど、オレがついてるから。だからオレと結婚したってご挨拶に行こう?」
こうして、私は両親と妹の墓参りに来た。実は来るだけで大変だった。私は妊婦だから、移動も負担がかからないようにして貰えた。私はもう仕事はおやすみしてるから良いけど、ジャックは仕事の調整とか大変だったんじゃないかしら?
心配でエドガー様に聞いたら、
「問題ないよ。ジャックは優秀だし、その分仕事は前倒しでしてるからね。それに、僕に借りを作る分には大歓迎だよ」
と、言われてしまった。なんだか申し訳なくて、やっぱり辞めようかとも思ったけど、ジャックが譲らなかった。
「……お父様、お母様、エリザベス。私は結婚したわ。もうすぐ子どもも産まれる。ねぇお母様、エリザベスが産まれる前はわたくしの事も可愛がってくれてたわよね? どうして、わたくしは要らなくなったの? どうして、お父様は助けてくれなかったの? エリザベスは、どうして私の物を取ることしかしなかったの!!!」
「はじめまして、ミリィの夫です。貴方達が要らないと言ったんですから、もう返せません。ミリィは、僕の家族です。貴方達の愛情は、全てエリザベスさんに与えられましたから、オレがその分ミリィを、いや、ソフィを愛します」
「……そうね、ジャック、ここにもうひとつ墓を建てるわ。わたくしの、ミリィの墓を」
墓は平民になった両親にしては立派だったが、エドガー様の手配だったらしい。一応家族だったからとの事だ。後日ミリィの墓も建てて、花を添えたらようやく、心のわだかまりが溶けていくのを感じた。
今まで私は、自分の気持ちに蓋をしていたんだと思う。ジャックの愛に甘えて見ないふりをして過ごしていた。これからは、両親の事や妹の事で心を迷わせる事はない。だって、私はソフィだもの。
「ミリィはもう居ない。貴方達と死んだ。私の名前はソフィ、家族はジャックと、これから産まれる子どもよ」
「……ソフィ、行こうか」
「ええ! ジャック愛してるわ!」
「オレもソフィの事愛してるよ。そうだ、妊婦も食べられて、しかも美味しいお菓子を用意したんだ! はい、あーん」
「美味しいわ! 幸せだわ! こんな味初めて! さすが貿易会社の支店長ね!」
「ふふっ、オレと結婚して良かっただろ?」
「もちろん! ジャックとじゃないと結婚しなかったわ!」
「……エドガー様と結婚しようとしたくせに」
「え? 私穏便な婚約破棄調べてたくらいエドガー様の事なんとも思って無いけど?」
「聞いてないぞ、それ! ソフィ取られたくなくて、エドガー様暗殺しようとしたんだけど!」
「……あんさつ?」
「それは初耳だねぇ、主人に牙を剥くとは、悪い部下だ。まぁ、返り討ちにしたけどねぇ」
「エドガー様! この度はお墓の手配、ありがとうございました」
「どういたしまして。ミリィは、家族と一緒に眠っているんだね」
「はい! 私はもうソフィです! ジャックと家族を作ります」
「良かったねぇ、ジャック」
「……ありがとうございます、あと、すいませんでした」
「ああ、そうだ。君たちの居た孤児院は、来月から寄付を受け付けないから寄付するなら今月までにしてね。ちょうど帰ってきてるんだし、挨拶もしてきたら? ソフィのお家は、孤児院でしょう?」
「確かにそうですけど、どうして寄付受付しないんですか? まさか、孤児院なくなっちゃうんですか?」
「大丈夫、残るよ。孤児院の運営を寄付に頼るのは当たり前なんだけど、寄付の額で子ども達に影響が出るのは良くないからね。孤児院で、きちんとお金を稼いで運営費を出せるようにしたんだよ。ジャックが」
「……え?!」
「最初のお金は、エドガー様と侯爵家が出したでしょうに」
「でもその投資したお金も先日全額返済しただろう?」
「……オレだけがやったわけじゃなくて、孤児院の仲間とやったんですよ」
「そうなの!? ジャックすごい! すごいわっ!」
孤児院に着いて、院長達とおしゃべりする。みんな、ジャック達を褒めていて私まで嬉しくなる。孤児院の運営は、ジャックや仲間たちが頑張ってこれからも定期的な稼ぎを出せるし、蓄えもあるそうだ。寄付を受付すると、寄付した相手が無茶を言っても聞かないといけないのが悩みだったが、これからはそんな事はないと嬉しそうだ。
「うちの両親は、寄付もしないのに無茶ばかりで申し訳ありません」
「あら? ソフィには関係ないでしょう? ミリィはもう居ないのだから」
院長の悪戯っぽい顔を見て思う。会社にも両親が迷惑をかけたようだから、改めて謝罪をしたが同じ事を言われた。そうだ、もう私はソフィだ。改めてお礼を言い、もう考えない事にする。以前は、それでも心にシミのようなものが浮かんでいたが、今はそんな事はない。
「ソフィ、結婚おめでとう!」
式に来れなかった仲間たちも、私達を祝福してくれた。久しぶりにガールズトークに花が咲いて、ジャックとエドガー様の会話は聞こえなかった。
「これで、ソフィの気がかりはもうないからねぇ。ジャックの独占欲には恐れ入るよ」
「……うるさいっすよ。ご主人様」
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