傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ

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「簡単な舞踏会なのだけど」


私はそれを聞いて、少しぼうっとしてから、頭がハッと冴えた。それから顔を横にブンブン振った。


「い、行きません!行けません!」

「まあ、そこはエミリアさんに任せるよ。エリーゼとファミールに一応社交ダンスを教えておいてください。では」


ジャック様はそのまま部屋から出て行ってしまった。私は苦い顔をして、俯いた。実は、社交ダンスは全くできないのだ。部屋に籠って毎日のように勉強ばかりしていたから、社交ダンスなどほとんど踊ったことがない。子爵家の娘でありながら、恥ずかしい以外の言葉が出てこない。



次の日に、白い薔薇は、赤、黄色、青色に、花弁が変化していた。枯れるか、枯れないかの、ギリギリの位置にあったので、私はホッとした。

そして、いつものようにエリーゼ様が私の部屋にやって来た。今日はファミール様も一緒だ。


「エミリア、期待はしてないけど、薔薇の色は変わった?」

「変わってるわけないだろ。兄上に取り入るために、ついた嘘さ」


二人は全く期待していないようで安心した。これでとても期待でもされていたら、私の心臓はバクバクだ。私は小さな花瓶に薔薇を入れて、二人に見せた。


「どうでしょうか。白い部分が残ってしまったのですが、それなりに色が付いたかと」


エリーゼは目を輝かせて、その薔薇を見ていた。ファミールはポカンとして、薔薇を見ている。


「すごいわ!とっても綺麗だわ!私貴方になら、勉強を教えてもらってもいい!」


エリーゼの事は丸め込めたようだ。エリーゼは薔薇を見て、とても嬉しそうにしている。


「こんなの、絶対本物じゃない!きっと偽物の花だ!それに色を塗ったのだろ!」


ファミールはエリーゼから薔薇を無理やり取ると、まじまじと花弁を見て、それから薔薇を花瓶から取った。薔薇の茎は、縦に三等分に切られている。


「な、なんだこれ」

「なんで切られてるの?」


二人は頭の中がハテナらしい。ので私は咳払いした。


「では、マジックの種明かしです。植物は根から水を吸って、植物全体に水を行きわたらせます。そこで、ファミール様!どうして三等分されているのでしょうか」


私はファミール様にそう質問を投げかけた。そしてこれだけでは答えてくれないと思うので、私は付け足した。


「ファミール様なら、答えられると思うのですがね。まあ、分からないなら分からなくて大丈夫ですよ。だってまだ五歳ですからね」


ファミール様は私に煽られたことで、ムキになったのか、薔薇の茎や、薔薇を見て、ずっと何か考えている。


「いいじゃない。ファミール、エミリアに教えてもらいましょ」

「…色、絵の具を薔薇に吸わせたのか!」

「大正解です。絵の具を薔薇に吸わせました。それも超高い絵の具です。発色が良い絵の具じゃないと上手くいかないんですよね」


ファミール様は分かっても、エリーゼ様はちんぷんかんぷんのようだ。


「先ほど私は、植物は水を吸って、その水を体中に渡らせると言いました。なので色の付いた水を吸わせると、花にも色が付くのですよ」

「じゃあ、なんで赤い薔薇は赤いままなのかしら。土の中に赤い絵の具があるからかしら」

「それはもっと、難しい話です。いわゆる遺伝子ですからね」

「なんでエミリアはそんなにいろんな話を知っているの?」


ファミールが目を輝かせて聞いて来た。この子は頭が良いから故に、プライドも高く、人の事を見下す癖がある。けれどもまだ子供だ。そこまで頑固じゃないし、可愛いものだ。


「私は商人のお友達が居ます。そのお友達は私に色々な本を優先的に回してくれました。なので私は色々知っているのですよ」

そこに私はまた付け加えた。

「それと、悪魔の知り合いもいます。その悪魔は私の目を失明させました。なぜ悪魔がそう言う事をしたか、分かりますか?」

「バカだったからでしょ?」ファミール様が言った。

「意地悪したかったのよ」エリーゼ様が言った。


二人はそれぞれ答えて、私は小さく笑った。


「どちらもです。何も知らないと言う事が世界で一番の大罪です。知ることで、人の事を知ることも出来ます。知れば、人に優しく出来ます。何も分からないで、分かった気になり、してはいけないことをする。そういうことをしないために、お二人は勉強するのです。私もお二人を知りたいです。お二人も知りたいことを私に尋ねてください。そうすれば私はお二人を支え、お二人の立派な未来を切り開く架け橋になりましょう」


そうするとパチパチと、誰かが部屋へと入ってきた。


「素晴らしい演説、息子の判断は間違っていなかったようだ」


入って来たのは、立派な髭を生やした中年ぐらいの男性だった。エリーゼと、ファミールは目を輝かせていた。


『お父様!』

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