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16. 集まれば、古今東西…。
集まれば、古今東西…。⑪
しおりを挟む本日も快晴だ。
昨夜、点呼に来た教諭は、揃いも揃って妙なポーズをしたまま動じないA組の面々を見てドン引きしたが、学年トップのクラスのやる事に異議は唱えず、理解できない自分が凡人なのだとちょっと自虐的に立ち去った。
他のクラスだったら、男子の部屋にいる女子たちを追い立てるところだろうに、それすらも忘れるくらいの衝撃だったらしい。
彼らにしてみれば、危なさをまったく感じさせない安全牌扱いをされた事に、複雑な思いを抱えながら、後から憤慨するのだが。
昨夜の女子部屋はヨガの話題で終始し、いつの間にかみんな寝入ってしまった。
今日も早い朝食を済ませ、三時間みっちり課題のプリントを消化し、歩行組が歩いて行く脇を走行組が山道を二往復する地獄の最終ランで、この野活もよいよ終わりに近づいて来た。
走行組はへろへろになって宿舎に戻るや、休む間もなくこぞって風呂に走り、シャワーを奪い合って汗を流すと、今度は食堂に走った。
食堂では歩行組が先に席に着いており、走行組が合流して、野活最後の食事が始まった。
湯上りで走ったせいか、汗が退かない十玖と太一がタオルで顔を拭き拭き席に着くと「忙しないねえ」と苦笑する苑子が言った。
「歩行組は楽でいいねえ。こっちは走って走って走って、しんどいったら」
大きなため息をついて太一が言う。
「おまえいきなりよく食えるな」
「…お腹減って」
太一は食欲減退しているのに、十玖の食欲はすこぶる良い。太一は十玖の茶碗に自分のご飯を半分乗っけて、「これもやる」とおかずの皿まで十玖に差し出す。
「太一、ちゃんと食べた方がいい」
「俺、小鉢と味噌汁あったらそれでいいわ」
すっかりグロッキーのようだ。
見回せば、そこかしこに同類がいる。
「だらしないなあ。太一これから毎日僕とトレーニングする?」
「やめれ。付け焼刃で十玖と同じ事したら、寿命が縮む」
心臓発作を起こすわ、と一人ごちて太一は味噌汁を啜る。美空が自分のおかずを十玖に取り分けようとして、「ダイエット禁止」と十玖にひと睨みされてすごすご引き下がり、苑子に「女心が分からない奴」と文句を言われている。
十玖は美空の二の腕を抓んで、「この感触が好きなんだもん」と言って美空に引っ叩かれていた。
昼食を終え、一休みすると帰り支度が始まった。
玄関前に集合し、苑子がきょろきょろと周囲を見回しているのを、美空が目に止めた。
「どうかした?」
苑子は美空を一瞥し、
「ここでのケジメはここで着けとこうと思って」
「ケジメ?」
「ん。ケジメ」
苑子はすっとその場を離れ、つかつか歩いて行く。それに気付いた十玖が美空に声を掛けた。
「苑子どうしたの?」
「ケジメ着けてくるって」
「ケジメ?」
視線で苑子を追い駆ける。彼女は顎をしゃくって常磐を呼び出していた。
「ケジメって常磐くんなんだ」
「その様で」
集団から離れ何やら話している。太一も気付いたようで、二人の隣に並んで様子を窺っていた。
常磐がパッと笑う。そして苑子の手を取り、ぶんぶん振り回した。彼女は酷く嫌そうにして離れようとしているのに、常磐が離さない。彼はこっちを窺っている十玖たちに気付いて、大きく手を振ると苑子を引っ張って向かって来た。
「橘、付き合ってくれるって」
声高に言った常磐に対して、A組男子から賞賛の声が上がった。鬼の苑子と付き合うと言うだけで、仏のような存在に見えてくるから不思議だ。苑子はそんな男子を睨み、
「まだ付き合うとは言ってない!」
「違うのッ!?」
「あんたを観察してから決めるって言ったの。人の話聞いてる?」
「観察するためにはやっぱ近くにいないとだろ? デートしような」
「…イラっとするくらいポジティブね」
「ありがとぉ」
へらへら笑っている常磐からぷいっと視線を外し、明後日の方を見る苑子の頭に大きな手が二つ。
「なによ」
十玖と太一の手を撥ね退けた。
「もし常磐が苑子の気に障る奴だったら、僕らがシメてあげるから。心置きなく観察して」
「そのための俺らだからな」
苑子の顔を覗き込んで微笑んだ。そして二人は常磐に向かってニヤリと笑う。
「俺らの姫姉さま、扱いには注意してよ?」
「苑子を傷つけるような事したら、僕らが黙っちゃいないからね?」
笑顔の下の得も言われぬ重圧に、常磐はこくこくと頷いた。
苑子はくしゃりと笑い、二人と腕を組む。
「やっぱあんたたちサイコーよッ!」
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