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結婚の許し

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 王太子殿下と恐れ多くも謁見した後、今後について話し合った。
王太子殿下は、まじめで堅物だと思っていた側近のステファンの激変ぶりに、そうさせたエヴェリーナに興味が湧いたらしい。

家出については家庭の事情とステファンの不貞を勘違いしたと説明し、迷惑をかけたことをお詫びした。

「殿下、今すぐに婚姻許可証にサインをください。陛下にお願いしてください。」
「はあ?」
「結婚できなければ、僕は心労で仕事が手につかないかも…また休んで療養の旅に・・・」
「ああ、もうわかったわかった!ロイドの言うとおりだな!エヴェリーナ嬢が絡むとお前はお前じゃなくなるんだな。」
「ステファン様、そのように急がなくても・・・」
「いや、大至急した方がいい。何も僕は一秒でも早く自分のものにして安心したいとか、他人に見せないように合法的に屋敷に閉じ込められるとか思ってないよ?君が実家に帰らなくていいように、安心できる場所を作るために言っているだけだからね。」

王太子殿下は恐ろしいものを見るような目でステファンを見、
「お・・おお」
と言葉にならない声を発された。エヴェリーナもさすがに少し引いた。

長年側にいたステファンの狂気の片鱗を垣間見た王太子殿下は、速やかに書類を持ってこさせ、両家の家長のサインをもらってくるように言った。
二人のサインは恐れ多いことだが殿下が証人となり、この場で記入された。

 ステファンは一人でエルノー伯爵家に行き、サインをもらってくると言ってくれたが、一応血のつながった父である以上騒がせた謝罪と結婚の許しは得なければならないと思いエヴェリーナも実家に戻ることにした。

 応接間で対応した時、父はこれまでのことを謝った。
家出をして一人で生きていこうとするほど追い詰められていたとは思わなかったと頭を下げられた。
(・・・別にそれで家出したわけではないんだけど。) 

「いいえ、謝罪は必要ありませんわ。サインをいただければそれで。ああ、あと荷物も少し運ばせていただきます、残していったものはすべて処分してください。」
「エヴェリーナ!本当にすまなかった!テューネが引け目を感じないように彼女ばかり気にしてしまってお前が寂しい思いをしているのに気が回らなかった。」
父がなかなかサインをせず、謝罪の言葉ばかり述べているときドアの外が騒がしくなった。

ドアがいきなり空いたかと思うと礼儀も何もなく義母とテューネが飛び込んできた。
「ステファン様!先日のお詫びを申し上げたかったんですの」
ステファンは無表情で二人とエルノー伯爵をみた。
「お前たち!部屋から出るなといっておいただろう!」
「だって、お父様!ステファン様になかなかお会い出来ないんですもの。・・・お姉さまはどうしてここにいるの?」
二人こそなんでここにいるのだろう、領地に幽閉と聞いた気がするのだけれど。

「伯爵。どういうことですか?」
低い声でステファンが聞く。慌てて伯爵が言い訳めいたことを言う。
「領地から勝手に帰ってきたのだ。」
「当たり前です、大体なぜ私たちが領地に行かねばならないのです。エヴェリーナがいなくなったのならテューネが伯爵家を継ぐのですよ!勝手にのこのこ帰ってきてどういうつもりなの?」
「そうですよ、お父様。お姉さまは勝手すぎます!ね、ステファン様もお姉さまに振り回されてうんざりされてるんですよ。婚約は破棄して私と結びなおしてくださいませ!」
「お前たち、口を慎みなさい。誰が同席を許したのだ。当たり前のマナーでさえ身につけず、言いつけも守れないくせに何を言ってる!」

エルノー伯爵は二人に怒るが、日頃甘やかしてきたからこそのこの言動だろう。
「でもお父様!お父様もお姉さまの事、怒ってらっしゃったでしょう!」
「心配していただけだ!ともかく!お前たちは呼んでいない、下がってなさい。」
もっとごねて居座ると思われた二人はしぶしぶ出て行った。

エルノー伯爵は冷や汗をかきながらエヴェリーナとステファンに謝った。
「人の家のことに口を出す気はありません・・・が、エヴェリーナはこちらとは縁を切らせますのでそのおつもりで。」
「そんな!待ってくれ!私が父親として不出来だったことは反省している、しかしエヴェリーナのことも可愛い娘だと思っているんだ。戻ってきておくれ。本当に悪かった」
「・・・。お父様、家族の愛を欲しがってた幼いエヴェリーナはもうどこにもいませんわ。ですから何も謝る必要はありません。」
「エヴェ・・リーナ・・私を憎んでるのか?怒ってるのか?」
「いいえ、怒っていませんわ。ただ関心がなくなっただけですので。ですからあの二人を領地に閉じ込めることもありませんわ、これからいかようにもお過ごしくださいね。」
そういって本当に何も気にしていないように微笑んだ。

それがかえってエルノー伯爵を打ちのめした。
「・・・すまなかった。」
ペンをとると結婚許可証に目を通した。
「王太子殿下が?」
「殿下の前でサインをしましたから。」
「そうか・・・これからは幸せになってくれ」
そういってサインを記入し、書類をステファンに返した。

そこにメイドがお茶セットを運んできた。
「僕らはもう…」
辞退しようとしたが、これが最後になるだろうからと言われ再び座りなおした。

お茶を飲んでいると、今度はきちんとノックがあり、先ほどのことを謝りたいと二人がまた現れた。
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