青と春の少年タロット〜どうやら世界には異能の力があるらしい〜

柄山勇

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第一章

十三話 弱点

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 静寂だったはずの教室に猛獣が現れいつの間にか過ぎ去った、文章で綴るならこのフレーズが相応しいだろう。猛獣が居なくなると同時にヘタッと篠崎さんが座り込む。薄く曇った眼鏡ガラスに水玉を浮かばせながら目先を俺に合わせてくる彼女。 

「教えて、どうしたらいいと思う?」 
「それは……」  
 
 正直、判断に困った。何に問題が存在したのか推測できないが、篠崎さんの性格上相手の嫌がることをやらないのは理解してる。
 話題を探しに行けと言ったのは俺なので、趣味の話柄でも掘り出したのかも。それで相手のデリケートの部分を傷つけたなら、本当にどうしようもない。 
 
 固まってしまった俺を見て、前髪が眼鏡にかかり更に落ち込む心構をする篠崎さん。急激にフェードインする空気、だが、それはパンパンという誰かの拍手によって打ち破られた。
 
「いつまで暗いのよ、ちゃんと何があったのか説明しなさい」 
「…、誰?」 
「雲斎桜莉。クラスメイトの名前は覚えなきゃダメよ、篠崎紬希さん」 
 
 自身の名前が言われた途端、不安げに覚える篠崎さん、その目つきを無視して雲斎は彼女に話しかける。 

「いいから、聞かせて。貴方が那覇士さんとどんな事を話したか」 
「…………分かった」 
 
 部外者である雲斎に話すのは筋違いだと思ったのだが、篠崎さんは話しだした。

 
 どうやら、初めは篠崎さんから話を持ちかけ那覇士がそれに応じていくというスタンスだったようだ。那覇士は、篠崎さんの初日見せた姿勢と現状の違いに驚嘆を催すも、会話は順調に進展しておりふと思い立った時には、双方の趣味の話になっていた。 

「趣味……ね」 
「まずいのか?」 
「ええ、とても。まさか二人揃って知らない感じかしら?」 
 
 現時点で何を指すのか読み取れないため、おそらく那覇士にとって重大な物事が把握できていなかったのだろう。俺も彼女も。 

「まあいいわ。続けて」 
「ん、わかった…」 
 
 篠崎さんはそう言って段落を振り分ける。 
   
 状況が変わったのはこのターンだった。那覇士さんの趣味は、読書と音楽鑑賞。
 まさにラノベに登場する完璧ヒロインの象形が誕生したと、篠崎さんは一人で盛り上がり、 自分も負けじと好きなラノベやアニメのことを喋った。その時の彼女の表情が寂しく羨ましそうに歪められてたのに気づかないまま、一人語りの如く永遠に口が止まらなくなってしまったらしい。 
 
 しばらくして那覇士さんから返事がなくなり、静けさが戻る部屋全体に恐怖を感じて俺にメールを送るも、直後に那覇士さんが怒鳴り散らかしたようだ。 

「なるほど、そのタイミングで俺らが来たってことか。一体どう言うことなんだろうな……
…ってうわあー」 
 
 辻褄が合うように考えを一顧しつつ、隣にいる雲斎をチラリと一瞥して、俺は体を震わせた。珍獣を眺める瞳で、雲斎が篠崎さんを眺めていたからである。 

「えっと、あの…どこか不味かった?」 
 
 残された空間の中、篠崎さんは雲斎に問いただす。ようやく彼女から目を逸らした雲斎は、苦虫を噛み潰したような顔でボソリと呟いた。 

「貴方、ふざけてるのかしら」 
「え、」 
「あの那覇士さんに、娯楽の類を引き合いに出すなんて自殺行為も甚だしい限りね。明日以降、口に出せば水遁パンチが繰り出されると思いなさい」 

 水泳部だけに、、、なんてつまらないギャグは燃やしておくとして、俺は雲斎に食いかかる。「いくらなんでも言い過ぎだ」と。 

 けれどその瞬間、冷めた目が向けられた。 

「驚いた、馬鹿が二人集まると滑稽ね。肝心な事実に気付かないまま、このまま堂々と学校生活を送っていくのだから」 
「ん、だと?」 

 屋上での小動物じみた口調は何処へ行ったのやら。俺はグッと掌を丸めてピキピキと怒気を全身に浸透をさせ全身を構えかける。真後から宥める声が聞こえたので仕方なく腕の力を抜くも心は変わらない。 

「…具体的に、どこが滑稽なんだ?」 
「那覇士さんに娯楽の話をしたところ」 
 
 食い気味に話す俺に、彼女は柄にもなく応えた。重ねて発される彼女の言葉に耳を傾ける。 

「いいわ。この際アタシが教えてあげる。那覇士さんの家庭状況と絡めて、ね」 
「家庭状況…?」 
「ええ。ま、ナガッチ辺りから流れてきた情報だけど」 
「プライバシーの侵害」
「うるさいわよ、篠崎さん。別に貴方にとって関係ない話ではないはずよ。那覇士さんと仲良くしたいと思うなら尚更」 
 
 ぐっと文言を詰まらせる彼女に打って変わり、俺は興味を示す。話の糸口を知りたがる俺に彼女は冷静に、ただゆっくりと話し始めた。 

「ざっと結論だけ下すと、那覇士さんの家庭環境は一般世帯の家庭とは少しかけ離れているわ。敢えて言うなら那覇士さんにとってそれは良いものではない」 
「家庭の事情なんてどこもそんなもんだろ」 
「ではそういう西岡。貴方に質問だけど、サンタクロースはいつから信じていたかしら?」 
 
 え、何? 急なハ○ヒ?っと目がまんまるになる俺は少し慌てふためく。 

「えーと、小学五年生かな」 
「篠崎さんは?」 
「中学二年生」 
 
 わーお、夢があるなっと感心するも、雲斎その答えに笑みを浮かばせるが二、三秒で切り替えて真剣な眼差しを表現した。 

「那覇士さんは、端から信じていなかった。サンタクロースも神様も宇宙人も非科学的なものは全て。両親からいない事として教えられ、娯楽の類も全て禁止されていたから」 
「どうして娯楽まで…?」 
「たぶん、理由なんてないでしょ。家庭方針に毎回明確な理由があるとは限らないし、漫画を禁止にする親だって純粋に漫画が嫌いなだけかも知れないわ。強いて言うなら勉強に集中してほしいという思いだけど、ならどうしてこんな中堅校なのか疑問が湧くわね」 

 ただ純粋に娯楽の類を禁止にしただけ。それらに興味を持たなければ話は違うが、抑制されるだけされといて、ずっと我慢を強要されたらどうなるか。 
 
 那覇士さんを知っていたら分かることだった。 
   後悔の念にかられるのは篠崎さんも同様らしい。彼女は申し訳なさそうに顔を俯ける。 

「私、怒らせちゃったのかな」 
「おそらくね。でも、その影には羨ましいという感情が潜んでいる可能性が高い」 

 そう言って見せつけるように人差し指を立て、俺と篠崎さんの焦点を引き付ける。雲斎は若干間を開けて、虚栄心を張りつけて大威張を振り散らした。

「そこで提案なんだけど、篠崎さん」 
「っ⁉︎」 
 
 無意識に後ずさりする篠崎さんに、彼女は親切に振る舞う。 

「西岡と色々約束を交わしているようじゃない? 今日見て感じたんだけど、それって貴方の学校生活に関することなんじゃないかしら。ズバリ、貴方の交友関係とか」 
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