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閑話・夏の日の恐怖
しおりを挟む夏と言えば怪談だな~という発想で思い浮かんだ話です。
「・・・若い侍従と不倫をしていた幼な妻は夫の従者によって釘抜きで歯を全部抜かれた後、生きながらにして壁に埋められてしまったのです」
エレオノーラが、幼な妻の霊が夫に許しを請う為に彷徨っているという言い伝えがある城の話をしたり。
「財宝を発掘する為に古代遺跡を訪れたのだが、仲間の一人が封印を破ってしまったらしく、ゴーストに追いかけられて・・・。あの時は本当、大変だったな~」
「レイモンド、お前達を追いかけていたゴーストはどうやって祓ったんだ?」
「逃げ込んだ教会の司祭に祓って貰いました」
新人冒険者に毛が生えた頃の自分が体験した事をレイモンドが話したり。
「林間学校の時に宿泊したホテルの空き室であるはずの隣の部屋から、自分達がいる部屋の壁を叩く音が聞こえてきて、その日は一晩中寝る事が出来なかったわ」
美奈子が中学生の頃に体験したという心霊現象を話したり──・・・。
『夏と言えば怪談がお約束よね!』という美奈子の一言が切っ掛けで、ロードクロイツ家では自分が体験した、或いは誰かから聞いた怖い話を披露していた。
「紗雪さんだったら、私達以上に怖い話を知っているんじゃないかしら?」
「そうね・・・。私は生きている人間が一番恐ろしいという体験をした事があるわね」
これは元の世界の、自分の家の近所に住んでいたお兄さんとお姉さんの話だと前置きした上で、紗雪は語り始める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
自分が住んでいる家の近所に、筋骨隆々の人と可愛い人がいた。
筋骨隆々の人は、幼い頃は同級生達と比べたら小柄であったらしくそれが原因で虐められていたのだが、幼馴染みである可愛い人が発破をかけた事で自分を鍛え身体能力を高める事に努めた。
「その結果がこれです」
今から式神にその人の姿になって貰いますね
紗雪が四人の瞼に手を翳して自分の霊力を注ぐ。
「す、凄い・・・」
「ま、眉毛がない・・・」
「腕と太腿が丸太のようだわ・・・」
四人は感嘆の声を上げる。
式神が変身したのは、二メートル越えの長身に、極限まで鍛え上げられた鋼のような肉体を持つ、これぞ正に武神と讃えたいくらいの人物だった。
「な、何と言えばいいのか・・・その、紗雪さんの家の近所に住んでいたお兄さんって、まるであの〇王様そのものなのね」
己が最強と認めた男との死闘を繰り広げた後、あの名台詞を口にしながら拳を振り上げて往生しそうだわ
「美奈子さん?この人はお兄さんじゃないわ。女性・・・つまりお姉さんよ」
何ーーーっ!!!
「しかも、お姉さんは見た目に反して家庭的だし、声だって女性のものよ?」
これがお姉さんの声です
「「「!!!」」
「声があのキャラだ!?」
近所のお兄さんに変身している式神が発した声は、あるアニメの主人公のものだった。
見た目が筋骨隆々のお兄さんなのに女性である事もそうだが、声が何たら〇ーンだったのだ。
低くて威厳のある声を想像していた四人は驚愕せざるを得ないでいる。
「「こ、恐い・・・」」
「紗雪殿!筋骨隆々のお姉さんの幼馴染みという可愛い人はどのような御方だったのだ!?」
すっかり怯えてしまっている両親の気を反らす為、レイモンドが紗雪に問い掛ける。
「可愛い人?こんな人よ」
紗雪が式神に変身するように命じる。
「幼馴染みは随分と可愛らしい人なのね」
可愛い人がツインテールの美少女である事にエレオノーラは安堵する。
「でも、この人の見た目は女性だから勘違いしてしまうかも知れませんが、実際は男性ですよ」
しかも声だって重低音だったりします
「「「!!!」」」
「け、〇王様・・・」
何たら〇ーンの見た目でありながら、声が葬儀まで営まれたあのキャラである事に美奈子は腰を抜かすしかなかった。
生きている人間が一番恐ろしい
正にその通りだと、紗雪の言葉を肌で感じたレイモンド達であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日の朝
「父上!?母上!?どうなされたのですか!?」
「レイモンド・・・」
朝食を摂る為に食堂へとやって来たレイモンド達であったが、目の下にある隈を隠す事なく現れたものだから、顔を合わせるなり互いに声を上げて驚く。
「実は紗雪殿の近所のお兄さんとお姉さんが夢に現れたのだ・・・」
「父上はまだマシな方です。俺に至っては二人の子供が夢にまで登場しましたからね・・・」
見た目はツインテールをしている某〇王様なのに、鈴を転がしたような声だったのだ。
「「子供・・・」」
今まで生きてきた中で、あれ程の悪夢は見た事がないと頭を抱えて悩むレイモンドに対して、ランスロットとエレオノーラは慰める言葉が見つからないでいる。
「あなた、レイモンド。あの二人に子供がいるのかどうかをサユキさんに聞いてみたらどうかしら?」
居ないのであれば、レイモンドの単なる夢で済む話ですもの
「そ、そうだな・・・」
どうか、あの二人に子供が居ませんように!
席に着いた三人は神に祈る。
だが、現実は残酷なもので、三人の問いに対して紗雪から返って来た答えは『二人の間には子供がいる』であった。
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