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4話

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「今日も1日無事に過ぎたか」

制服を脱いでシャワーを浴びるとさっぱりとした身体にはなったが、なかなか寝付く事ができず俺は寝台を出た。
あれから花を吐くこともなく、7日程経過したが今も体調は悪くは無い。
病を押して何かをしている人はこんなにも不安なのだろうかと思う。
いつどうなるのかわからない不安。
立て続けに起こった花を吐くと言う発作は成りを潜めていた。
このまま治ったと言ってくれ。
そう祈るも、恐らく無理だろうなとわかっている自分がいる。

「少し歩くか」

本当ならば発作を起こす可能性があるなら、静かに大人しく寝ていたらいいのだがここ数日はろくに身体を動かしていなかったため、随分と身体が鈍っている気がする。
元々俺は机仕事には向いていない。
それなのに何故騎士団長などという役職についているかというと、やる人がいなかったからなのだ。
先の大戦で数多くの騎士が散った。
足を怪我した前騎士団長は、孫が産まれたのだと理由をつけて辞めていった。
後は託したと俺を指名して。
本来、騎士団長は投票をおこなって決める事が多い。
今回に関しては立候補が他におらず、指名されてしまった俺がそのまま騎士団長となったのだ。

「良い夜だなぁ」

月は空を彩り、乾いた風が吹き抜けていく。
俺は呟くように空を見上げた。
無数の星が瞬いている。

「少し、剣でも振るか」

腰に下げた訓練用の模造刀。
刃を潰してあるから、切れることはないが当たれば痣になるくらいの痛さなのだが、騎士は毎日訓練をするため痛さを知っているから自ら当たろうとは思わない。
真剣とはほぼ同じかそれ以上の重さにしてあるそれは、振り回すのにちょうど良い。
シャリン。
小さな金属の音をさせて模造刀を鞘から引き抜いた。
ゆっくりと息を吐き出して刀を構える。
最近は行う事は無くなった円舞。
足を引き、腰を落としてゆっくりと空を切る。
しっかりと身体を使えば全身の筋肉を強化できるようになっている円舞は、御前試合や式典の時に選ばれた者が舞う。
団長となってからは時折訓練で見せる程度で、なかなか舞う事もない。
俺の体力の指標は、息が上がらず舞いきれるかどうかだ。
足を揃えて深呼吸をする。
息が上がらないから、どうやらそこまでは体力は落ちていない事に安堵してから俺は刀を鞘に収めた。
すると、背後から小さな拍手が贈られた。
後ろを振り向くと、立っていたのはラーサティアだった。
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