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3話

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「悪かったな、時間を取らせて」

俺はコーヒーを飲み干してから立ち上がる。
どんな病かは何となくわかったが、まだ医療の分野では未知の部分もあるようで、他にも何か自分で調べなければと決意する。

「いえ、あまりお役に立てず申し訳ありません」
「また、何かわかったら教えて欲しい」
「畏まりました」
「ご馳走さま、コーヒー美味かった」

ヘーゼルナッツとバニラの香りが鼻へと抜けた。
平然とした顔をして見せながら医務室の扉を抜けると膝からくずおれそうになった。
原因不明。

本気マジか」

今まで大きな病気などほぼしたことがない。
いや、皆がかかる抗体を作る病は一通り掛かって、その痕は残っているが幼いときに掛かったからか記憶はない。

「取り敢えず体調は悪くはないから何とかなるか」

熱があるわけではないし、先程みたいな吐き気もない。
花を吐くような前兆もないから大丈夫だろうが、花を吐くタイミングだけでもわかればいいのだけれど。
参ったなと思いながら部屋へ向かうその途中で呼び掛けられた。

「ニクス団長」

その声はラーサティアだった。

「どうした」

穏やかな男性にしては高めの声。
手には何か書類を持っていた。

「隊長からお預かりしてきました」
「そうか、入っていくか?」

自分の執務室の扉を開くと、先程処理を終えた書類を運ぶようにと言われたらしい。

「いいのですか?団長室は初めてです」

王宮の最深部ですら入ったことがあるであろう王族が騎士団長の執務室が珍しいと言う。

「特に鍵は掛けていないし皆にも気軽に来て欲しいとは言ってあるが、やはりなかなか入っては来ないな」
「そうですか?うわぁ、広くて綺麗ですね」

綺麗なのは当然。
騎士見習いの時に徹底して整理整頓を叩き込まれる。

「では、書類を預かろう」
「お願い致します」

書類を預かるとまだ物珍しそうに見ていたラーサティアは、ふと我にかえるとにこりと笑って頭を下げた。

「団長、ありがとうございました!失礼します」

さらりと揺れた髪からふわりと花の香りがした。

「あぁ、ありがとう」

椅子に座りながら出ていくのを見送った瞬間、込み上げてくるものがあり、扉が閉まった瞬間昨日と同じ花を吐いた。
ぱたりぱたりと落ちた花。
ラーサティアにこんな姿を見られなくてよかったと少し安堵しながら落ちた花を片付ける。
これからどうなるのか不安を抱えながらもこなさなければならない書類に視線を落とした。

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