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8話

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「久し振りの楽しい時間だったな」

まだ、西の空に太陽があるが、夕闇はそこまで迫ってきている。
外灯に火が入り、ぼんやりと石畳を照らし出す。
寮に帰るかと歩きながら、ふと見付けた小さな雑貨屋。
その出窓に置かれた小瓶に目が行った。
丸い瓶の中に詰められているのは白い飴。
すっと鼻に抜ける爽やかな風味の物だと思い出した。
昔、煙草を吸う同僚から貰って美味いと思って常備していたが、そう言えばいつからか買わなくなった……あぁ、中途半端に残っていたのは、幼かったラーサティアにあげたのだったなと懐かしくなり、俺はその店の扉を潜っていた。

いらっしゃいませと、元気な声に迎えられて迷わずに窓際に向かうが、そこに置かれたのはイミテーションでそれはそうかと笑う。
太陽があたれば、陽射しが強いときには溶けてしまうのだから。

「店主、此処にあるミントのキャンディはあるか?」

声を掛けると、はぁいと間延びした返事があった。
店主が背中の棚から出してきた瓶は三種類あり、ひとつには窓際と同じ白いキャンディ。
ひとつは緑と黒の縞しまのキャンディ、ひとつはカラフルな色鮮やかなキャンディだった。

「どれも、ミントのキャンディが入っていますよ?白はミントキャンディだけ、縞しまはチョコミントキャンディ、こっちはフルーツミントキャンディです。食べ比べてみますか?」
「チョコミントを貰ってもいいか?」
「構いませんよ」

どうぞと差し出された一粒を受け取って口の中にいれると、甘くも爽やかな香りが鼻を抜けていく。

「みっつとも貰いたい」
「包装はどうしますか?」
「しなくても大丈夫だ」
「少しお待ちくださいね」

そんなやり取りをしてから、三種類のキャンディを買い上げた。
当分はデスクワークのお供になるなと思いながら、少し可愛らしい紙袋を手に店を出てそのまま寮に向かう。
門を抜けると玄関に向かう脇道にラーサティアが見えた。
誰かと話をしているらしい。
その胸には何か大切そうに抱いているものがあった。
話している相手の顔までは薄暗くなっているから見えはしないが、きっと同じ騎士なのだろう。
だいぶ騎士団に馴染んだなと安心した瞬間、あの吐き気に襲われた。
何故だと思う暇もない。
競り上がってくる吐き気に俺は建物の脇に逃げるように走り暗闇の中で吐いた。
むせかえるような花の香りは花を吐ききるまで続いたのだった。
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