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36話

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「あの、ニクス様やはり歩きますから……」

困ったように眉を下げたラーサティアを俺は見上げていた。
一緒に出掛けたいと言うラーサティアを抱き上げて運ぶことで一緒に出掛けることを許可したのだが、他人の目が気になるようでラーサティアは恥ずかしそうに俯いていた。

「まだ歩けないだろう?部屋の中だけでも息が上がっているのだからな」
「えっ……」

何故知っているのだろうかとラーサティアの瞳が俺を捉える。

「狭い家の中だ、小さな物音で何をしているのかがだいたいわかる」

だが、まだ部屋の中だけでも動くのがやっとなラーサティアはそれでも外に出たいと言う。
確かに寝てばかりだと息が詰まるのはわかる。
王宮に行けば、患者搬送用の車椅子があるが、そんなものを使うなら少しでもラーサティアに触れていたい。
それを伝えてしまっていいか旬順してから俺はそっとその形の良い耳へと囁いてみた。

「こうしていれば寒くないし、サティと触れていられるからな。サティが嫌だと言うのなら別の方法を考えるが……俺は嬉しい」

その言葉に、ラーサティアの視線がゆっくり上がる。

「狡い、ニクス様にそう言われたら嫌だなどと言えないじゃないですか……」

白い肌がほんのりと赤みを帯びた。

「怖くないのなら、身支度を整えてから出掛けようか、今の格好では少し寒いかもしれないからな」

抱き上げていたラーサティアを椅子に座らせる。
世話をするのもだいぶ慣れてきた。
ラーサティアの為に揃えた靴や衣服。
細々こまごまとした櫛などの小物。

「サティ、先ずは髪からか」

流れる水のような真っ直ぐな髪に櫛を入れる。
引っ掛かる筈もないのだが、丁寧に櫛を入れてから軽く編む。
王宮の侍女に教わったのだ。
こうすれば、引っ掛かることも少なくなるのだと。

「ニクス様、何処でこんなことを……」

いつも、騎士団にいるときは1つに結わえる姿しか見たことがなかったため、王宮の侍女がラーサティアの髪を左右に結っていたのを見て理由を聞くと、頭の後に結うと首に負担がかかることと、華やかにするとナーサティアの顔が綻ぶからだと聞きこうしてラーサティアの髪に触れるようになって、自分の手で色々な姿をさせてやりたいと思うようになったのだ。
だから、流行りの髪型も少しずつ学んだ。

「折角だからな、愛らしく装わせようと思ってな?俺の恋人なのだと……回りに知って貰いたいから」

ラーサティアには、伝えたいことを我慢しないと決めたのだ。
些細なことでも言わなければならないことは言う。
言わないことで後悔はしたくないと思うようになったのだ。

「ニクス様」

困ったようにラーサティアの目が伏せられる。

「こんなことを言われるのは嫌か?言わないことで後悔をしたくない。サティを愛していることを知って欲しい」
「……ニクス様、今までそんなことを仰る方ではなかったのに……嬉しくて心臓が止まりそうです」
「それは困るが、慣れてくれ」

そう言い、ラーサティアは顔を手で覆い、俺は声を上げて笑った。
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