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第5章 聖王都で明かされる真実

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 城下町だけでも広いので、人を探し出すのは大変です。
 ジャネットの口ぶりではエリーゼの居場所を知っているようですけど、なかなか教えてくれません。食事に デザートをつければ 考えるということですけど・・・・・・。


 私達は食堂で食事を楽しみました。 デザートも充実していて、店内も綺麗だから、女性が一人でも入りやすい雰囲気です。

「 ジャネット、約束通り エリーゼがどこにいるのか教えてください」
「 考えるだけで 教えるとは言ってない」
「それはすでに看破していたのに、ごり押ししますか・・・・・・」

 ジャネットはどうしても教えてくれません。 今回は敵対するつもりはないのですが、 一度本気で戦っていますからね。 エリーゼに警戒されているのでしょう。 それにしては、 ジャネットは平然と私達と一緒にいます。
 どういうつもりなのでしょうか。

「・・・・・・ ジャネットの目的は何ですか?」
「足止め?」

 どうして、 疑問形で答えるのでしょうか。 ジャネットは命令を実行しているだけで、 深い事情を全く知らされていないのでしょうか。
 足止めとは、私達に邪魔されたくない何かを実行しているのかも知れません。私達が聖王都に向かうことを知っていたとはのでしょうか。私は エリーゼのことを全く感じすることができなかったけど、彼女からは【神の眼】で 私のことを一方的に監視することができたのかもしれませんね。
 エリーゼは、魔族に復讐するために 悪事に手を染めているのでしょうか。ラック バード でそうしてきたように、 アレクシスでも何かをしでかしている可能性は高いです。 残念なことですけど、 彼女は目的の為ならば手段を選ばない人間ですからね。
 私は エリーゼを止めたいです。元々は心優しい子だったようですから、話し合って全うな道に戻してあげたいのです。

「 エリーゼは私がいても、 目的を果たせばジャネットと合流しますか?」
「いずれ エリーゼが迎えに来ることになっている。 それまでは自由行動。 暇だから遊べ」

 エリーゼが来るまで待つしかなさそうですね。
 ジャネットは表情が乏しいですけど、 つかみどころがなくてマイペースな性格をしていますね。洗脳されているとは 思えません。だけど、自分の意思で積極的に エリーゼの仲間になったとも思えないのですよね。

「 ジャネットはひょっとして、 お菓子をくれるからエリーゼの仲間になったのですか?」

 まさか、そんなわけないですよね。 私もお菓子の一つや二つで 安易に仲間になったりしません。 本当ですよ?

 ところがジャネットは、 小さく頷きました。

「ん。 エリーゼたくさんお菓子をくれた。 恩を返さなければいけない」
「 それだけの理由でですか? エリーゼは悪事に手を染めているのに?」
「 人は犯罪だと言うかもしれない。 でも、エリーゼは悪くない。 エリーゼ一人に責任を押し付けるのはおかしい。 もしもエリーゼが悪いというのならば、 みんな悪い」

 そうかもしれません。 エリーゼは被害者でした。 父親と母親を聖者に 殺されて、それを 魔族の幸せだと思い込まされているだけなのです。
 エリーゼ の父親と母親の命を救うことは 叶わなかったものかもしれません。しかし、 周りが彼女の心に寄り添うことはできたはずです。
 ジャネットの言うように、 エリーゼ一人だけを責めることはできません。

 もしもあの時にエリーゼの苦しみに気づいてあげて、 戦うのではなく真剣に話を聞いてあげられたら・・・・・・ 今のようにはなっていなかったのでしょうか。
 過去を振り返っても仕方がありません。 大事なのは今どれだけエリーゼに向き合えるかどうかです。

「あれ? ルナマリアさんじゃないですか」

 私が物思いにふけっていると、 一人の女の子が声をかけてきました。 それはシェリーでした。

「 シェリー ちゃん、久しぶり」

 クロードが一番に気づいて、 シェリーに明るく挨拶をしました。 シェリーも笑顔を返します。

「 クロード君もいる。まさか、 ルナマリアさんの仲間になったの?」
「そのまさかだよ」
「 強くなったんだね」
「いや、まだまだだよ」
「そうなんだ。でも、 ルナマリアさんに選んでもらえるなんてすごいよ。私も、もうすぐ勇者の選定を受けられるから、お互いに勇者として頑張ろうね」

 シェリーが無邪気に笑うと、 クロード は 曖昧な笑顔で首を横に振りました。

「僕は勇者じゃないよ」
「 アシュトン さんの補助をするために 修行をしているところなんだね?」

 シェリーは、 私がアシュトンからパーティーを追い出されたことを知らないのです。だから、 私がまだアシュトンの仲間だと思っているのでしょう。
 私は シェリーに事情を打ち明けることにしました。

「実は・・・・・・ 私は訳あって、 アシュトンとは別れたんですよ」
「 お似合いのカップルだったのに残念ですね・・・・・・」

 シェリーは自分のことのように悲しんでいます。
 いえ、 ちょっと待ってください。

「 私は アシュトン のことをそんな風に思っていませんよ」
「 すでに吹っ切れているのですね。 安心しました」

 シェリーは素敵な勘違いをしています。 どんなに否定しても聞く耳を持たないようです。 この件に関しては必死になって否定するだけ無駄のようです。
 
 シェリーは元気そうですね。 今のところ事件に巻き込まれたような様子もありません。 どうやら、彼女に関しては間に合ったようです。

「 シェリー、 しばらくは私たちと一緒にいませんか?」
「そうですね。選定の儀式までは自由行動なので、 こちらこそよろしくお願いします」

 シェリー のこの素敵な笑顔を守りたいです。 改めてそう決意しました。

 後は エリーゼと合流するのを待つだけですね。



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