後宮にて、あなたを想う

じじ

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136 悲しい決断

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「紅霞の両親に彼女を救えるだけの薬があることを告げた時の彼らの反応は、私の予想よりも遥かに複雑な物でした。単純に喜ぶと思っていた私はなんと浅はかだったのか、今では分かります。ですが…当時の私には彼らの表情の意味するところが理解できませんでした。」
「彼らはなんと?」
「娘には使えぬ…と。自分たちのために薬を隠していた…そんなことが分かれば、この村では生きていけなくなる、と泣いていました。
 まだ幼い州芳もいる中で村八分になどあえば、一家で路頭に迷うのが見えています。助けられるのに娘を助けないという決断をすることは、ある意味でただ助けられないと言うことよりも残酷でした。」
「それで、そなたはどうしたのだ」
「私は彼らを説得しました。薬をこっそり与えればいいと。ですが、彼らは頑なでした。娘の死を覚悟した紅霞の両親に私は一つの提案をしました。彼女の意思に反しないのであれば、紅霞を私の養女として連れて行きたい、と。
 二人とも泣いて感謝してくれました。村人達にどのように告げたかは分かりませんが…おおよそ、娘のように可愛がっていた紅霞がなくなって、その遺体と共に忽然と姿を消した、とでも言っていたのではないでしょうか。」
「…なるほどな」
「その後は近くの街で紅霞が回復するのを待ちました。元気になった紅霞は私のことを実父のように慕ってくれました。しばらくは彼女と旅をしましたが…彼女の将来のために都に戻ることにしました。」
「だが、都で共に暮らしてはいないな。後宮に仕えている間、どうしていたのだ」
「私の姉の家に預けておりました。」
「では、陳家への行儀見習いに預けられていたのも知っていたのか」

 問われた侍医は悔やむように、一瞬ぐっと目を閉じた。ゆっくり目を開けると悔恨を感じさせる声で話した。

「いえ…姉の息子が、私の甥ですが…紅霞に懸想したようなのです。甥には名家の令嬢との婚約の話があがっていました。二人が恋仲にならぬように、と私の知らぬ間に彼女を陳家に行かせたのです。」
「それは…」
「陳家の姉妹姫の噂もその頃はまだそれほどひどくなかったようですし、一概に姉だけを責められないことは分かっています。姉にしても甥の見合い話さえまとまってしまえば、また頃合いを見て手元に引き取るつもりだったようです」
「だが、実際は戻って来なかった」
「はい。甥の結婚後、紅霞を家に戻れるよう姉が陳家にお願いしたところ、姉妹姫がひどく嫌がったと…陳家のご当主は陛下もご存知のとおり、姫君に甘い方だったのでり」
「なるほどな。水月と湖月の望みで側に仕え続けていたにも関わらず、その二人の悪意によって紅霞殿は亡くなった。恨んで当然だな」

息を吐きながら皇帝がそう呟くと、侍医は一筋の涙を流した。
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