カラスの鳴く夜に

木葉林檎

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出張編

2話

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事務所に戻ると影山さんは早速地図を持って声をかけてきた。

「清水の実家…わりと遠いようです。
さっきマップブックで確認して住所照らし合わせて印つけておいたんですが…
この事務所からなら高速乗っても片道5時間程かかりますね。」

影山さんは分かりやすい様に
丁寧に赤いペンで線を引き印を付けてくれていた。

「まじかよ。
遠いなー…でもまあ行くしかねえよな。
清水本人の香典で払ってもらわねえと
まあ3人で運転変わりながらだと大丈夫だろ?」

黒崎さんはそう言って自分の椅子に座る。

「私も運転できますよ…?」

私がみんなに声をかけるも1度こっちを見て目線をまた地図に戻してしまった。

「俺の車よりもう少しデカい車を鳥飼に借りるか。」

「社長の車も十分デカいっすけどね。」

どうやら私の言葉は聞こえてないらしい。

「あ、あの!私いれたら4人で運転して行けますね!」

私が再び声をかけるも…

「交代で休憩する時に寝るってなったら
俺の車じゃ少し狭いだろ。」

社長は当たり前のように私の言葉を遮断し

「でも社長…。
鳥飼に借りたら高くないですか?」

と、まさかの影山さんまで私の言葉を聞いてくれない。

「え、みんな無視ですかー!?」

私が大声を出すと社長は私を睨みつけてくる。

「お前の運転は不安だから誰も任せたくねえ。黙ってろ」

「そ、そんな…社長に言われて
頑張って免許とったのに…。」

「俺らを殺したいのか?」

私は自分の頬を膨らませて大人しく自分の椅子に座った。

「とりあえず鳥飼に電話してくれ。
レンタカー用意する方がデータに残るし厄介だ。
それに梨乃から鳥飼に頼めば少しは安くしてくれるだろ。」

膨れた私の頬を指でつつきながら優しく笑って社長が話しかけてくる。

「…わかりました。
じゃあ私が電話しますね……。」

私は携帯を取りだして鳥飼さんに電話をかける。
そう言えばお世話になって
新しい事務所になったあの日から鳥飼さんは事務所に来なくなってしまった。

電話を掛ける指が思わず止まってしまう。
何故こんなに緊張しているのだろう…。


「梨乃?」

社長に声をかけられて私は通話ボタンを押した。
「すぐに聞いてみます…。」

受話器に耳を当てるとすぐに繋がる。

「もしもし…衣笠です。
今少しお時間いいでしょうか?」

「衣笠さんどうしたの?」

鳥飼さんの声のトーンが少し高い気がした。

「すみません。折り入ってお願いがありまして…。」

「ん?まさか僕の所で働く気になった?」

「いえ、少し大きめの車を用意して貰えませんか?
少し必要になってしまって…」

「え?衣笠さんが運転するの?」

「…いえ、私は運転しないんですけど…」

そこまで言うと何かを察したのか。

「なるほどね。君を使って少しでも安くしようって魂胆か…」

私は何も答えない。

「まあ…君に頼まれたら嫌だって言えないしね。
いいよ。わかった、1番大きい車貸してあげる。
ちょっと鴉越にかわってもらえる?」

私は何も言わず社長に携帯を渡した。

「お前も梨乃と話せたから良かったろ。
最近顔も見せねえし
梨乃のせいで少しは人間らしさ取り戻したんじゃねえの?
フッ、…ああ。頼む。
いや…それは無理だ。じゃあな。」


何を話したのかはわからない。
社長が電話を切って私に返してきた。

「お前のお陰で今回は無料タダでいいとさ。」

「あの鳥飼が金取らねぇとか…梨乃お前やるなー!」

「別に…ただ電話で話しただけですよ…。」

「でもまあ、これで車は準備できた。
あとは俺達も遠出する準備するぞ。」

社長にそう言われてみんなが動き出す。

「私はここに残りましょうか?
運転しないし地図も読めないし…
邪魔になるだけだろうから…」

社長が私の顔を覗き込んで見てくる。

「俺達みたいな男だけで行けば警戒される。
女のお前が1人いるだけでも
相手の信用度は変わってくるだろ…?」

「…社長、顔近い……!」

「出る準備するか?」

「はい……。」

私は圧に負けて準備をすることにしたのだった。




***



すぐに向かう理由はただ一つ。
警察に拘束されていた時間が長かったこと、
葬儀に間に合うように現れることで
残された遺族の判断力が落ちている今が一番回収しやすいこと…
デメリットは向かうことによる動力だけだ。

一番大きい車を貸してあげると言われて
届いたのは真っ黒なハイエースで
鳥飼さんではなく別の人が届けてくれた。

さすがに大きすぎるんじゃ…なんて思ったけど皆が何も言わないから私も何も言わなかった。

一番後ろに乗って私はぼんやりと過ごす。
運転席から離れているせいで
暖房が後ろまで届かず心做しか少し寒い…。

「梨乃?毛布乗せてただろ。」 

バックミラーで社長は私の様子を度々確認しているようだ。
社長の横には黒崎さんがいて地図を見ている。

その間に影山さんは仮眠を取っていた。

そんな私は全く寝れない…。
なにかする訳でもなくずっと窓の景色を眺めていた。

高速道路に乗ると暫くは地図もいらない。
その間に黒崎さんも助手席で休んでいるようで寝息が聞こえてきた。

今起きてるのは私と運転している社長だけだ。

高速に入ると景色はずっと変わらない。
車内では小さくラジオが流れているだけ。

そのあと2時間ぐらい走っただろうか…
社長はサービスエリアのパーキングに車を止めた。

車が止まることで2人も目が覚めたようだ。

みんなが1度車からおりるから私も合わせておりる。
「トイレなら今のうち済ませておけよ」
社長にそう声をかけられてトイレに向かう
深夜のサービスエリアは何だか寂しい気持ちになってしまう。

「じゃあ次は俺が運転するから影山、案内宜しく。」

「わかりました。じゃあちょっと自販機でコーヒーだけ買ってきますね。」

「じゃあ俺も行くわ。」

影山さんと黒崎さんが自販機に向かうから何となく私も一緒について行った。

「梨乃ちゃんはココアでいい?」

「ありがとうございます…。」

3人で車に戻ると社長は後ろのシートを倒して簡易ベットのように2枚あった毛布の1つを下に敷き寝やすくしていた。

「社長、休む気満々っすね…!」
ブラックコーヒーを飲みながら黒崎さんは笑って言う。

社長は何も言わずにその場に寝転ぶと
私に隣へ来るよう指示してくる。

「一緒に寝るぞ。」

何で彼はこんなにも一々、私のことをドキドキさせてくれるのだろうか。

私は何も言わずに毛布の中に潜り込み社長の腕枕にすっぽりとハマる。
私にはちょうどいいスペースも社長は身長が高いから少し狭そうだ。

「社長…おっぱじめるのだけはやめてくださいよ?」

黒崎さんが笑いながら冗談でそう言った。

「どうだろな」

社長もそれに乗っかって返事を返す。

「やめてください…!」
私は恥ずかしくなって社長の胸に顔を埋める。

さっきまで眠気なんか無かったのに
社長の温もりを感じて安心した私は
段々と睡魔に襲われる。

そしていつの間にか私は眠っていたのだった。





***



「んぅ…」

静かに俺の腕の中で眠る彼女を見て
俺は何も言わずに髪を撫でていた。

さっきまで後ろの席で暇そうにしていてバッチリと起きていたのに
俺に身を任せると安心したのか
すぐに寝息が聞こえてきて、そんな彼女が堪らなく愛おしい。

運転席と助手席にいる2人は
俺達の様子を全く気にしてないようだ。

だけど誰にも彼女の可愛い寝顔を見られたくなくて
俺は毛布でそっと彼女の寝顔を隠した。
もう少し…もう少しだけ俺だけが彼女の寝顔を見つめていたい…。

自然と顔が綻ぶのは彼女のせいだ。

俺には少し狭くて寝心地は最悪だけど
彼女の温もりを感じ自然と眠気に襲われる。
俺はもう…
梨乃なしでは生きていけないだろう…。

最後にもう一度ギュッと彼女を抱きしめて俺は離れないようにと…
そのまま眠りの世界へ吸い込まれていった。
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