伝統民芸彼女

臣桜

文字の大きさ
21 / 34

一時の平和

しおりを挟む
 月曜になって忌引きも明け、登校だ。
 今日午前中のうちにハヤテの遺体を共同火葬場へ連れて行くと言っていたので、飯を食ってから少しの間、北の部屋で俺はハヤテに別れを告げた。もうクロの姿は見えないが、槐たちの話では彼女は無垢な魂なら確実に綺麗な場所へ連れて行ってくれるらしい。だからそれを信じて、俺はハヤテに最後の挨拶をするのだった。
 出がけにひい婆ちゃんの部屋を覗くと、興味を隠さないギンが付いてくると言い出す。
「いいじゃろう。家人の事は槐と藤紫に任せておけい。わしは『すくーるらいふ』というものに興味がある」
「まぁ……いいけど、学校で独り言はホントにヤバイから、人がいる時に話し掛けてきたりしないでね」
「よし、約束じゃ」
 カラリと笑ってギンは約束のつもりなのか小指を立ててみせ、俺は居間に向かって「行って来ます」と言ってから外へ出た。
 七海はちょっと前に家を出ていて、俺はママチャリの後部にギンを乗せ出発する。振り向けばちゃんとギンは横向きに座って、俺の胴に手を回しているのも感じているのに、重量だけは全く感じない。不思議なもんだ。
「ふっふっふ……こうしていると、青春映画のようじゃのう」
「昔の少女漫画ではそういう表現があったみたいだね。でも今は二人乗りは禁止されてるよ。ギンが普通の人間だったら多分俺乗せてないよ」
「ふむ、拓也は意外と真面目じゃの」
 しばらく平らな道路を走って、その間に民家や店のガラスに映る自分の姿をチラッと見ても、そこに映るのは俺の姿だけでギンは映っていなかった。
 なのに背中にはほんのりとギンの胸が当たっている感触があるから、不思議で堪らないし役得だと思っていた。
「のう、拓也はがーるふれんどはおるのか?」
「女友達はいるけど、付き合ってる子はいないよ」
「ふぅん……、ではわしがなってやろうかの」
「……ナニイッテルンデスカ」
 やばい。これはギンに弄られる雰囲気だ。
「ふふん、拓也も年頃の男じゃから女子に触りたいと思っておるんじゃろ。その点わしらは美女ぞろいじゃし、姿も変わらぬ。拓也一人のハーレム状態じゃぞ」
 くっそ……。後ろを向かないでも、ギンが意地悪そうにニヤニヤしてるのが分かる。
「第一、そんな目でギンたちの事を見たら、ひい婆ちゃんに申し訳ないし槐が怖いよ」
 確かに美少女だな、とか美人だなとかは思ってるけどさ。特に藤紫の『綺麗なお姉さん』具合は凄まじい。彼女が普通の人間だったら、絶対にモデルとか女優とかになってると思う。それとも……銀座とかで凄い人相手にしてるとか。
「なんじゃ、詰まらんの」
 そう言ってギンは俺の背中に顔を押し付け、背後からスーッと息を吸い込む音が聞こえた。
「なにしてんの、ギン」
「拓也はいい匂いがするのぉ」
「なに言ってんだよ、俺はなんも匂わないよ。藤紫の方がずっといい匂いするだろ」
「違うぞ、拓也。主は主の匂いがする。我ら九十九神や清らかな魂とは違う、この世とあの世の狭を見る者だけの香りなのじゃ」
「ふ……ふぅん」
 不思議なもんだ。ごく普通の男子高校生に、この世の者じゃない美女が「いい匂い」って言うなんて。ていうか恥ずかしいよ。
「やはり拓也は年頃の男じゃの。若い頃の絹は笑顔を浮かべて、『もっと嗅いだら?』とわしらを抱き締めたもんじゃ」
「ふぅん……。ねぇ、ギン。もう少しひい婆ちゃんが若かった頃の話をしてよ」
「いいじゃろ」
 それから俺は学校に着くまで、後ろに乗ったギンが楽しそうにひい婆ちゃんとの思い出を話すのを聴いていた。
 ギンはなかなか大きな声で話すんだが、周りの人は誰も聞こえない。俺は返事をするのを控えていたけど、それはギンも分かっていたみたいだ。おかげで俺は余計な邪魔をされる事なく、ひい婆ちゃんと彼女たちの思い出を聞く事ができた。

 俺の忌引き明けの初登校は、思ったよりも普通の一日だった。俺のひい婆ちゃんが死のうがほとんどのクラスメイトには関わりのない事で、俺の家に遊びに来た事のある友達だけが、「お疲れさん」と声を掛けてくれた。
 その他は普通の学校である。
 休んでいた間のノートは友達が貸してくれた。放課後に図書室に寄って今読んでいるシリーズものの返却と新しい巻を借りて、コンビニに寄ってノートのコピーを取ってから友達と別れ、また自転車に乗って家に帰る。
 部活には入っていなくて、代わりにと言ってはなんだが生徒会の臨時雑用みたいな事をしている。正式なメンバーではなくて、学校祭とか忙しい時に要員が足りない時の有志だ。
「最近、天気が続いてるなぁ」
 荷台にはやっぱりギンが乗っていて、一日をかけて現代の高校生の生活を楽しめた彼女はご機嫌だ。
「拓也、わしもあのせーらー服というのを着てみたいの」
「えぇ? ギンは着物が似合うから、そのままでいいよ」
「拓也は女心が分かっておらんのぉ。女という生き物は常に洒落たものを好むものじゃ。自分に似合う物が分かっていても、専門外のものにも興味を持つ。そんな事では『彼女』ができてもすぐに呆れられてしまうぞ」
 学校にいる間、ギンは好き勝手に色んな生徒の話を聞いていて、随分と情報を仕入れたらしい。もともと呑み込みの早い性質なのか、帰る頃には様々な若者語や今流行りの知識を口にしている。コンビニに寄った時も興味津々だったから、今度また連れて行けとか言われそうだな。
「そんな事言われても、女心なんてまだ分かんないよ!」
 手稲駅より北側まで下りると、道は平たんになって自転車を漕ぎやすくなる。耳元で風が鳴るのを聞きながら、俺は前方の北の空に向かって声を張り上げた。

**
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

処理中です...