泥に咲く花

臣桜

文字の大きさ
上 下
16 / 58

第十四章

しおりを挟む
 上野駅に着いて桜のマンションへ向かうまでの道のり、速足で歩いていた歩幅はいつのまにか走り出していた。

 何だか嫌な予感がする。
 普段はそんなもの信じないのに。

 途中、こちらへ向かって走ってきた若い男性とドンッとぶつかってしまい、咄嗟に忠臣が「すみません!」と謝る。
「……」
「!?」
 男性は酷い顔色で、それでもギロリと忠臣を睨んでまた走ってゆく。
 忠臣の鼻を濃厚な甘い匂いが掠めて、それが彼を混乱させた。

 これは桜の匂いの筈だ。
 いつもふわりと優しく香るあの匂いが、こんな甘い毒薬の様な匂いで他の男から香るだなんて。

 不思議に思いながら、忠臣も桜のマンションへの道を急いだ。
 スニーカーを履いた足が、やけに重い。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,605pt お気に入り:3,343

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,594pt お気に入り:16,126

桔梗の花の咲く場所〜幼妻は歳上夫に溺愛される〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:117

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,081pt お気に入り:281

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21,030pt お気に入り:1,965

処理中です...