45 / 63
嫌になるほど愛してる
しおりを挟む
身じろぎすると太腿を割り開かれ、内腿に熱い手が這った。
「んぅ……っ」
逃げる芳乃の舌を、暁人の舌がすぐに捉えて舐め、擦ってくる。
口内を舌でかき回され、腰を跳ねさせると暁人の指が下着にかかり、ねじり下ろしてきた。
「お願い……っ、や……っ」
「『嫌』? 俺の事、生理的に無理ですか? 俺みたいな男に、抱かれたくない?」
「~~~~っ、意地悪っ!」
絶対そんな事はないと分かっているくせに尋ねてくるので、芳乃は涙混じりの声を上げ、彼の胸板を叩いた。
拒絶され、泣かれ、叩かれているのに、暁人はその瞳の奥にゾクゾクとした愉悦を得ている。
「俺の事、好きでしょう?」
「…………っ、嫌になるほど、愛してる……っ」
泣き崩れた芳乃の手から、力が抜ける。
そのまま、彼女は両手で顔を覆って嗚咽していた。
服を乱されたまま、芳乃は子供のように泣いた。
今まで我慢していた感情がすべて決壊し、彼女を押し流している。
ウィリアムに婚約破棄された心の痛みは、帰国してから癒えていたはずだった。それを昼間レティによって掘り返され、グレースへの申し訳なさと共に耐えがたい痛みとなっている。
父を失った悲しみ、借金を抱えてしまった重責。
やっと好きになれたと思った人は、妻帯者だった。
自分に同情して悲劇のヒロインぶるのは良くないと分かっていても、ここまであらゆる事が揃いすぎると、有名大学を卒業した才女とてどうにもならない。
「……幸せに……っ、なりたいだけなのに……っ、好きな人を、好きでいたいだけなのに……っ」
激しく体を震わせて嗚咽し、芳乃はごく当たり前の事を望む。
彼女の上で四つ這いになっていた暁人は、溜め息をついたあとに芳乃の隣に寝転び、抱き締めて頭を撫でた。
優しくされ、頼っていいのか分からない。
けれどボロボロになった芳乃は、藁にも縋る思いで暁人の胸板に額をつけ、洟を啜った。
気が済むまで泣いたあと、ベッドの上でぼんやりしていると、暁人がホットミルクを作ってくれた。
少しだけ蜂蜜の入ったそれをありがたく飲み、芳乃は吐息をつく。
「……私、暁人さんを傷つけていましたか? 『思い出していない』と言われても、心当たりがなくて……。本当に、ごめんなさい」
落ち着いてから、まず彼に謝ろうと思った。
少しずつ自分が傷つけた周囲の人々に謝罪し、前に進んでいきたいと思ったからだ。
「芳乃先生」
いきなりそう呼ばれ、彼女は目を丸くした。
暁人を見ると、眉を寄せて苦笑いしている。
「大学生の時に、家庭教師をしていましたよね?」
「え……、ええ」
言われて、社会人になってからの怒濤のホテル業界の向こうにあった、マイペースな大学生生活を思い出した。
確かにT大学時代、芳乃はアルバイトとして家庭教師をしていた時期があった。
「でも、どうして……」
それまでの感情をどこかに置いてきたと思うほど驚いた芳乃は、しげしげと暁人を見つめる。
「……ここまできたら、仕方ないか」
彼は苦く笑い、〝昔〟の事を語り出した。
**
神楽坂暁人は、神楽坂グループの御曹司と生まれ、育った。
母親の旧姓は仁科と言い、母親の家もまた、代々続くホテル業を営んでいた。
両親は同じ業界の中でお見合いをしての結婚だったが、うまく夫婦生活を送り長男として暁人が誕生した。
神楽坂グループは古くからの家柄も相まって、彼が通うのはエスカレーター式の富裕層向け学校だった。
周りにいる異性は政治家や資産家の娘たち。
時に告白される事もあったが、両親の姿を見て「お見合いはつまらない」と思っていたからこそ、暁人は自分と似た空気を持つ女子生徒に興味を持たなかった。
芳乃と出会ったのは、暁人が高校生の時だった。
「んぅ……っ」
逃げる芳乃の舌を、暁人の舌がすぐに捉えて舐め、擦ってくる。
口内を舌でかき回され、腰を跳ねさせると暁人の指が下着にかかり、ねじり下ろしてきた。
「お願い……っ、や……っ」
「『嫌』? 俺の事、生理的に無理ですか? 俺みたいな男に、抱かれたくない?」
「~~~~っ、意地悪っ!」
絶対そんな事はないと分かっているくせに尋ねてくるので、芳乃は涙混じりの声を上げ、彼の胸板を叩いた。
拒絶され、泣かれ、叩かれているのに、暁人はその瞳の奥にゾクゾクとした愉悦を得ている。
「俺の事、好きでしょう?」
「…………っ、嫌になるほど、愛してる……っ」
泣き崩れた芳乃の手から、力が抜ける。
そのまま、彼女は両手で顔を覆って嗚咽していた。
服を乱されたまま、芳乃は子供のように泣いた。
今まで我慢していた感情がすべて決壊し、彼女を押し流している。
ウィリアムに婚約破棄された心の痛みは、帰国してから癒えていたはずだった。それを昼間レティによって掘り返され、グレースへの申し訳なさと共に耐えがたい痛みとなっている。
父を失った悲しみ、借金を抱えてしまった重責。
やっと好きになれたと思った人は、妻帯者だった。
自分に同情して悲劇のヒロインぶるのは良くないと分かっていても、ここまであらゆる事が揃いすぎると、有名大学を卒業した才女とてどうにもならない。
「……幸せに……っ、なりたいだけなのに……っ、好きな人を、好きでいたいだけなのに……っ」
激しく体を震わせて嗚咽し、芳乃はごく当たり前の事を望む。
彼女の上で四つ這いになっていた暁人は、溜め息をついたあとに芳乃の隣に寝転び、抱き締めて頭を撫でた。
優しくされ、頼っていいのか分からない。
けれどボロボロになった芳乃は、藁にも縋る思いで暁人の胸板に額をつけ、洟を啜った。
気が済むまで泣いたあと、ベッドの上でぼんやりしていると、暁人がホットミルクを作ってくれた。
少しだけ蜂蜜の入ったそれをありがたく飲み、芳乃は吐息をつく。
「……私、暁人さんを傷つけていましたか? 『思い出していない』と言われても、心当たりがなくて……。本当に、ごめんなさい」
落ち着いてから、まず彼に謝ろうと思った。
少しずつ自分が傷つけた周囲の人々に謝罪し、前に進んでいきたいと思ったからだ。
「芳乃先生」
いきなりそう呼ばれ、彼女は目を丸くした。
暁人を見ると、眉を寄せて苦笑いしている。
「大学生の時に、家庭教師をしていましたよね?」
「え……、ええ」
言われて、社会人になってからの怒濤のホテル業界の向こうにあった、マイペースな大学生生活を思い出した。
確かにT大学時代、芳乃はアルバイトとして家庭教師をしていた時期があった。
「でも、どうして……」
それまでの感情をどこかに置いてきたと思うほど驚いた芳乃は、しげしげと暁人を見つめる。
「……ここまできたら、仕方ないか」
彼は苦く笑い、〝昔〟の事を語り出した。
**
神楽坂暁人は、神楽坂グループの御曹司と生まれ、育った。
母親の旧姓は仁科と言い、母親の家もまた、代々続くホテル業を営んでいた。
両親は同じ業界の中でお見合いをしての結婚だったが、うまく夫婦生活を送り長男として暁人が誕生した。
神楽坂グループは古くからの家柄も相まって、彼が通うのはエスカレーター式の富裕層向け学校だった。
周りにいる異性は政治家や資産家の娘たち。
時に告白される事もあったが、両親の姿を見て「お見合いはつまらない」と思っていたからこそ、暁人は自分と似た空気を持つ女子生徒に興味を持たなかった。
芳乃と出会ったのは、暁人が高校生の時だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
613
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる