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7月

キスはキスでしょうがっ! ※仁紫

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「姫、本気で言ってる?」
「えっ」
「今ので一回? 軽く唇と唇を触れ合わせただけで? それをあと五回繰り返すつもり?」
「だって、キ……キスって、そういうものでしょう?」

 違うとは言わせねぇぞ。これだって正真正銘キスだ!!!
決してズルじゃない。不服そうな顔をしている仁紫から目を逸らしているのは、ちょっと後ろめたいなぁなんて思っているからではないんだからなっ。

「あーなるほど。ここまで浮世離れしてるとは」
「? ほ、ほらっ。続きするから、はやく目瞑って……っ」
「曖昧な線引きで、ちゃんと定義を決めなかったのは俺のミス。だから一回目は許してあげる」

 あーーーよかったぁ。
 何とか誤魔化されてくれたっぽい? と胸を撫でおろしたのも束の間。

 ……ん?
 一回目……???



「キスっていうのはね、こういうことを言うんだよ」



「んんんーーーーーっ!?」

 え、と声を上げる前に引き寄せられた身体はきつく抱きしめられて、唇と唇が深く重なった。

「ちょ、に、しく……っん! んむ……っ」

 文句を言うために口を開けば食らいつくように貪られ、あっという間に舌を絡めとられる。
 やばい、やばいやばい。
 頭の中でガンガンと警鐘が鳴っている。力任せに藻掻いてみても掴まれた腕は簡単に引き剥がせそうもなくて、ただ無駄に暴れた結果、息が苦しくなるだけだった。

 じゅるるっと下品な音を立てて、根元から舌を吸われるだけで、ぞくぞくとした痺れのようなものが腰から背中を駆け上る。俺はもう、その正体が快感なんだって知っていたけど、必死に見ないふりをして。

「あ、んっ♡ んーーーっ、んーーーっ!」

 仁紫の器用な舌の動きに合わせて、びくびくんっと跳ねる腰を撫でられると、それだけで全身から力が抜けてしまう。最初のうちこそ抗おうと試みていたものの、気付けば与えられる口付けに夢中になって、荒い呼吸を繰り返すので精一杯だった。



 ***




 どれだけの時間が経ったのだろう。
 ふにゃふにゃになった身体を支えられ、痺れる舌がようやく解放された時には、俺はすでに口の端から垂れる涎を拭きとる元気すらなかった。

「ぷ、は……っ♡ はぁ、はぁ……っ♡」
「どう? 気持ちいい?」
「はぁっ♡ あ……っ、んゃ♡」

 内緒話をするみたいに、耳元で囁かれる。仁紫が言葉を発するたび、吹き込まれる吐息にふるりと身を震わせた。

「本当のキスっていうのは、こうやって粘膜を触れ合わせて、擦り付けて、相手の快楽を引き出すんだよ」
「っ、やぁ♡ や、だ……っ♡♡」
「唇くっつけただけでおしまい、なんて。ふふっ、子どもじゃないんだから」

 くすくすと肩を揺らして笑う仁紫に、俺だってそれくらい知ってるよと言ってやりたかった。残念ながらそう思っている最中も、俺の舌は目の前の男に絡め取られているわけで、実現することはなかったけれど。

「ん……っ、はぁっ♡ ぁん……っう♡♡」
「ね。こっちの方が、気持ちいいでしょ……」
「んっ、ん……っ♡」

 質問しておきながら答えを聞く気がないらしい。
 優しい声色に反して仁紫のキスは容赦がない。返事をする暇もないくらい、執拗に、何度も、何度も、何度も。俺の咥内で仁紫が触れてないところなんて、ないんじゃないかと思うほど、まさに言葉の通り蹂躙された。

「っ、ぁ♡ に、にしく……――」
「はい。もう一回練習ね」
「んぅーー……っ♡」

 隣に座っていたはずなのに、いつの間にか仁紫に抱えられている。落ちたら危ないから、なんて。最もらしい口ぶりで引き寄せられた腰のせいで、じんじんと痛いくらいに張り詰めた俺のちんこが仁紫の腹筋に擦れた。

「んっ♡ あっ♡ あ、あっ♡♡」

 俺がどんな状態になっているか、絶対に気付いてるはずなのに。どうして触ってこないんだろう?

(っちがう、ちがう。して欲しいわけじゃなくて……っ)

 仁紫が練習、なんて言うから悪い。
 赤塚の時と同じ態勢を取らせたりするから。
 だから、いつもいつも自分よりも俺のことばっかりイかせようとするあいつとの「練習」を思い出してしまって、物足りない……なんて思っちゃうんだ。

「はい。練習おしまい」
「んぁ……っ♡♡」

 あっさりとした様子で宣言するやいなや、仁紫は俺の身体を引き剥がした。そうなってはじめて、俺は自分から仁紫に身体を寄せて、その首に腕を回していたんだと気付く。

「どう? 覚えた?」

 今まで濃厚なキスを仕掛けてきた相手とは思えないほど、ごくごく冷静に、淡々と。いつもの数学の公式を読み上げるのと全く同じトーンで問いかけてくる。
 俺はぼんやりとした頭のまま、こくんと一回首を縦に振った。

「じゃあ今度こそ二回目、始めようか」
「に、にかい……? 次は四回目じゃ……」

 散々俺の唇を貪っていただろうと非難めいた声で訴えても、仁紫は意見を曲げない。

「ペナルティの内容は、姫から・・・キスする、だからね。さっきの二回は違うでしょ」
「そ、そんな……」
「まだ恥ずかしいなら、もう少し練習する? 俺は構わないけど」
「だっ、大丈夫! できる、から……っ」

 これ以上練習なんてしていたら、いつまで経っても終わらない。もうなんでもいいからこんなこと、早く終わらせないと。じゃないと俺は……――

「そう? じゃあ、二回目」
「は、いっ♡ ん♡ ん……っ♡」
「ふふっ、上手。ちゃんと息してね……?」

 皺一つなかったはずの仁紫のシャツがくしゃくしゃになるのを無視して、その胸元に縋りつき、楽しそうに弧を描く唇に舌先を伸ばした。



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