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7月
この世界のイケメンは総じてどうかしている(確信)
しおりを挟む「しー。声が大きいよ」
「むぐっ! だ、だって……っ!」
口を塞がれ、潜めた声に叱責される。その声量につられて、俺も小声で抗議した。
いやいやいや。だからなんでそうなるの!?!?!?
「前も同じような事こと言ってたけど、キ、キスがペナルティっておかしいよ……っ」
御礼の次はペナルティでキス???
男同士で一体どんな思考回路してんだよっ!!!!
「おかしい? そうかな。だって姫は俺にキスするの嫌でしょう」
「……イヤです」
「ほら、立派なペナルティでしょ。姫が喜んで出来ることじゃ意味ないし」
……なるほど? 確かに一理ある。
って、なに丸め込まされそうになってんだよ、俺……!
「っ、で、でもでもっ! 仁紫くんは本当にそれでいいの?!」
「なにが?」
「なにがって……僕から、その、されるの、嫌だとか……」
「むしろ大歓迎ですけど♡」
「ううう~~~~っ」
なんでだよっ!!!!!!!!
くそっ。やっぱり攻略対象は、総じて頭のネジが狂ってる。
せめて頑張ったらご褒美をくれる……とかであればやる気も出るというものだが、それこそ仁紫には何のメリットもないだろうし、提案したところで一蹴されるに決まってる。
「それとも、したことない? キス」
「そ、それは……っ」
あるわい! 全部男とだけどな!!
揶揄うような口調に思わず言い返しそうになるけれど、それは墓穴というもの。すんでのところで我慢して、悔しさのあまり唇を噛み締めて思考を巡らせる。
「……他にないの? えっと、例えばジュースをおごるとかっ!」
「嫌なら全問正解できるように頑張って。間違えなきゃ良いんだから、ね? はい、続きするよ」
「う、うううう……」
結局その後も、いろいろな代替案をあげてみるものの全て却下され続け、失意のままに件の確認問題を解くことになるのだった。
静かな室内に、仁紫が赤ペンを走らせる音だけが聞こえる。
「二十問中、六問間違い……か」
「…………」
「七割正解は今までで一番の出来だね」
「っ、じゃあ……!」
お褒めの言葉をいただき、思わず輝く瞳で仁紫を見つめる。
うん、と一つ頷いた顔も満面の笑みのである。これならば……!!!
「よく頑張ったね。でもペナルティはペナルティでちゃんとやらないと」
なんでだよ~~~~~っ!!!!!!!!!!
「ほ、本当にするの……?」
「もちろん。約束だから」
そっかぁ。仁紫はちゃんと約束守れるいい子なんだねぇ。
たまには破ったって構わないんだよ~???
むしろ俺はそれを望んでますよ~~???
「ここが個室でよかったね。誰かに見られる心配もないし、恥ずかしくないでしょう?」
そういう問題じゃねぇんだよ……。いやしかし、これまでの相手のことを考えると、人目を気にしてくれるだけマシと考えた方がいいのか?
カーテン一枚挟んだ向こうに人がいるというのに尻に指を突っ込んできたり(浅黄)、誰が来てもおかしくない日中の校舎裏で無理やりちんこを擦ってきたり(緑川)、親戚や常連の面前で恥ずかしげもなくベロちゅーかましてくる男(黒瀬)に比べたら、かなり常識的なのでは???
っていうか俺の周り、本当に碌な野郎がいないな……!!!!
改めて突きつけられた現実に涙が出てくるぜ。
よーし。こうなったらたかがキスの一つや二つだ。
ここは変にごねて自体が悪化する前に、腹を括ってさっさと済ませてしまう方がいいのかもしれない。
「……目を、瞑ってくれる……?」
とはいえ、じっと見られている中でキスをするのも何とも気まずくて。俺は何とか搾りだした声でそう願った。……これが最大限の譲歩だ。
「ふふっ、はい。どーぞ」
肩を揺らして笑った仁紫が、スッと瞼を閉じる。
くっそ~~……黙っていれば憧れちゃうようなイケメンなのに。なんでこの世界のイケメンは変態しかいないんだ。
(キス……キスくらい大したことない……っ)
スーハーと深呼吸を繰り返して気合いを入れた俺は、意を決して自分の唇を仁紫のものにくっつけた。
突き出した唇がむにゅん、と歪む。おかしな気分になる前にパッと身体を離すと、回数をカウントした。
「い、一回……っ、おわり。つぎ、二回目ね……?」
「ストップ」
「ひゃわっ!?」
あと少しで触れる……という直前に、突然仁紫が目を開けた。至近距離でばちりと目が合ってしまい、素っ頓狂な声が飛びだす。
「っ、見ちゃだめだってば……っ」
かぁぁっと頬に熱が集まっていくのが、鏡を見なくてもわかる。
まじまじとこちらを見つめている仁紫の視線が、「これくらいで照れてんの? まじで?」と言っているような気がして、一層焦りのようなものが募っていく。
べ、別に恥ずかしがってなんかないし!!! 全然余裕だし……!!!!!
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