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竜帝の後始末・捕縛される愚かな令嬢

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ようやくいとしいつがいをその手に取り戻し、皇城こうじょうへと帰還きかんを果たした竜帝ジークバルト。

その腕の中には、真紅しんく外衣がいいくるまれる竜帝のいとしいつがいが眠る。

紅色くれないいろの髪が、ことに美しい花姫アリーシア。

皇城こうじょうの地下につくられた転移門てんいもんを通っての帰還きかん
後ろには当然とうぜん出迎でむかえにおもむいた筆頭守護騎士ひっとうしゅごきしのロンバルトがひかえる。

竜帝は皇城こうじょう一角いっかくを占める己れのみやへと足を進めるも、突如とつじょ現れた貴族きぞく令嬢れいじょう行手ゆくてはばまれる。

私的してきなこの場所へと上がれるのは、おも血族けつぞく王族おうぞく。更には、ゆるされた者に限られる。

「ー陛下! おいしとう御座ございました……!」

満開まんかいの花のような微笑ほほえみで、竜帝へといきおいよくけ寄る令嬢れいじょう

あざやかな真紅しんく衣装いしょうひるがえし、つややかな銀糸ぎんしの髪がふわりとなびく。令嬢がまとあざやかな真紅しんく衣装いしょうは、竜帝が普段ふだんからまと外衣がいいに、まるでもうし合わせたかのようにも見える。

貴族令嬢きぞくれいじょうの中でも、かなりの美しい部類ぶるいには入る。

「ーひかえて下さい。ディアナ様」

その令嬢の前へと立ちはだかる守護騎士しゅごきしロンバルト。

守護騎士しゅごきしの後ろで、端然たんぜんたたずむ竜帝の眼差まなざしは冷ややか。竜帝は、突如とつじょ現れた令嬢を一瞥いちべつするも、すぐにその金眼きんめらす。

今の竜帝の美しい金眼きんめを向けられるにあたいするのは、他でもないおのれのつがいだけ。美しい花姫アリーシア。

更に云えば、つがいとのときを邪魔された竜帝からは、あきらな不快ふかいさがにじみ出る。

わずかに、瞳を閉じる竜帝。非情ひじょうな思いにいたる。

(ーいつまでも過去の恩恵おんけいかさに来ては、傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞うこの女も、それにすがるこの女の母も……最早不要もはやふよういとしいつがいさまたげにしかなるまいー)

つねに竜帝の想いをむのが、この守護騎士しゅごきしロンバルト。

どうやら、すでに竜帝の想いは理解している様子で、竜帝に代わり相対あいたいする。

とうに過ぎ去った過去の栄光えいこうすがり、好き放題ほうだいする令嬢。先代竜帝せんだいりゅうていからの産物さんぶつ

今代竜帝こんだいりゅうてい竜后りゅうこうが見つかった今こそ潮時しおどき

守護騎士しゅごきしロンバルトの相貌そうぼうには、薄っすらと皮肉ひにくめいた笑みが浮かぶ。

「そこをお退きなさい、ロンバルト! 騎士風情きしふぜい無礼ぶれいよ……! この私を誰だと思っているの!」

ディアナと呼ばれた令嬢は、声高こわだかさけぶ。

「ーなら申し上げます。貴女は一令嬢いちれいじょうに過ぎません。陛下の温情おんじょうにより、今でもこうして登城とじょうを許されてはおりますが、さすがにこの場所にまで来られるのは、いささかが過ぎておられます」

「……なっ! 」

令嬢ディアナは、怒りに美しい顔をゆがませる。それでも引く様子を見せないのは、自尊心じそんしんの高さゆえ。

「ーよくもっ! 私の叔母おば先代竜帝陛下せんだいりゅうていへいか番様つがいさまなのよ!……それに、私はいずれ竜后りゅうこうとなる運命さだめ……貴方あなたごときが、私の行手ゆくてはばむ事はゆるされなっー……」

ひゅっ! と守護騎士しゅごきしロンバルトの剣先けんさきが令嬢ディアナの目先めさきへと向けられる。

少しでも動けば、深くさりかねない。

「……ひっ!」

令嬢ディアナのひたい眉間みけんからは、わずかな血がしたたり落ちる。

「いやっ、私の顔が……!」

深層しんそうの令嬢であれば、血を見る事も流す事にも、れていないのは当然とうぜんの事。

思わず、その場へとへたり込む令嬢ディアナ。腰を抜かし、無様ぶざまにもゆかへとしりもちを付く。

先程の威勢いせい何処どこへやらー。

「ー陛下、おゆるしいただければ、私が処分致しょぶんいたします」

「ひっ!!」

令嬢ディアナからは、更なる悲鳴ひめいが上がる。

「ーかまわん。って捨てよ。その女は、もはやがいにしかならん。母親共々処分しょぶんしろ。ーだが、ここではるな。神聖しんせいつがいとのときを血で染めたくはない。ロンバルト、後はおまえにまかせる。好きにやるが良いー」

守護騎士しゅごきしロンバルトに、無情むじょうにも告げる竜帝は、すでに令嬢には見向きもしない。

いとしいつがいだけを視界しかいとらえ、颯爽さっそうとこの場を後にする竜帝。

あとには、守護騎士しゅごきしロンバルトが残る。

「……なぜ、どうしてよ……! 私は竜后りゅこうになるのよ。お母様がそうおっしゃっていたわ……だから、つがいになる為の施術せじゅつまでしたのにー……それなのに、どうしてー……!」

「それこそ不敬ふけい偉大いだいな竜帝陛下をたばかることは、謀叛むほんと同じ。ーましてや、番様つがいさまに成り済まそうなどとは、おろかな行動をしたものだ。貴女方親子あなたがたおやこは、万死ばんしあたいする。もはや処刑しょけいまぬがれない。はじを知りなさいー」

いつの間に現れたのか。

竜帝専属りゅうていせんぞく守護騎士しゅごきしが二人。しかもかげ守護騎士しゅごきし

おさであるロンバルトに呼ばれ、その場へと片膝かたひざを付き、無言むごんのままに待機たいきしている。

合図あいずと共に、激しく抵抗ていこうする令嬢ディアナを即座そくざしばり上げる二人のかげ守護騎士しゅごきし

令嬢ディアナの虚言きょげんまみれるその口には、いましめの為とばかりに、重い鉄製てっせい口枷くちかせめられる。その口は一生封いっしょうふうじられる令嬢ディアナ。

罪人ざいにんとなった謀叛人むほんにんには、これ以上、話す必要もなければ、弁明べんめいすら必要とされない。

そのまま牢獄ろうごくへと連れて行かる令嬢ディアナは、まさか思うまい。

恋焦こいこがれる竜帝のきさきになる事だけを夢に見ていた令嬢ディアナ。久しぶりに登城とじょうしたその日に捕縛ほぼくされ、無情むじょうにも冷たい牢獄ろうごくへと連行れんこうされる。

おそらく、明日が命日めいにちとなる。







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