29 / 40
竜帝の後始末・捕縛される愚かな令嬢
しおりを挟む
ようやく愛しい番をその手に取り戻し、皇城へと帰還を果たした竜帝ジークバルト。
その腕の中には、真紅の外衣に包まれる竜帝の愛しい番が眠る。
紅色の髪が、殊に美しい花姫アリーシア。
皇城の地下に造られた転移門を通っての帰還。
後ろには当然、出迎えに赴いた筆頭守護騎士のロンバルトが控える。
竜帝は皇城の一角を占める己れの宮へと足を進めるも、突如現れた貴族の令嬢に行手を阻まれる。
私的なこの場所へと上がれるのは、主に血族や王族。更には、特別に許された者に限られる。
「ー陛下! お逢いしとう御座いました……!」
満開の花のような微笑みで、竜帝へと勢いよく駆け寄る令嬢。
鮮やかな真紅の衣装を翻し、艶やかな銀糸の髪がふわりと靡く。令嬢が纏う鮮やかな真紅の衣装は、竜帝が普段から纏う外衣に、まるで申し合わせたかのようにも見える。
貴族令嬢の中でも、かなりの美しい部類には入る。
「ー控えて下さい。ディアナ様」
その令嬢の前へと立ちはだかる守護騎士ロンバルト。
守護騎士の後ろで、端然と佇む竜帝の眼差しは冷ややか。竜帝は、突如現れた令嬢を一瞥するも、すぐにその金眼を逸らす。
今の竜帝の美しい金眼を向けられるに値するのは、他でもない己れの番だけ。美しい花姫アリーシア。
更に云えば、番との刻を邪魔された竜帝からは、明らな不快さが滲み出る。
僅かに、瞳を閉じる竜帝。非情な思いに至る。
(ーいつまでも過去の恩恵を笠に来ては、傍若無人に振る舞うこの女も、それに縋るこの女の母も……最早不要。余の愛しい番の妨げにしかなるまいー)
常に竜帝の想いを汲むのが、この守護騎士ロンバルト。
どうやら、すでに竜帝の想いは理解している様子で、竜帝に代わり相対する。
とうに過ぎ去った過去の栄光に縋り、好き放題する令嬢。先代竜帝からの負の産物。
今代竜帝の竜后が見つかった今こそ潮時。
守護騎士ロンバルトの相貌には、薄っすらと皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「そこをお退きなさい、ロンバルト! 騎士風情が無礼よ……! この私を誰だと思っているの!」
ディアナと呼ばれた令嬢は、声高に叫ぶ。
「ーなら申し上げます。貴女はただの一令嬢に過ぎません。陛下の温情により、今でもこうして登城を許されてはおりますが、さすがにこの場所にまで来られるのは、いささか度が過ぎておられます」
「……なっ! 」
令嬢ディアナは、怒りに美しい顔を歪ませる。それでも引く様子を見せないのは、自尊心の高さゆえ。
「ーよくもっ! 私の叔母は先代竜帝陛下の番様なのよ!……それに、私はいずれ竜后となる運命……貴方如きが、私の行手を阻む事は赦されなっー……」
ひゅっ! と守護騎士ロンバルトの剣先が令嬢ディアナの目先へと向けられる。
少しでも動けば、深く刺さりかねない。
「……ひっ!」
令嬢ディアナの額の眉間からは、僅かな血が滴り落ちる。
「いやっ、私の顔が……!」
深層の令嬢であれば、血を見る事も流す事にも、慣れていないのは当然の事。
思わず、その場へとへたり込む令嬢ディアナ。腰を抜かし、無様にも床へと尻もちを付く。
先程の威勢は何処へやらー。
「ー陛下、お赦しいただければ、私が処分致します」
「ひっ!!」
令嬢ディアナからは、更なる悲鳴が上がる。
「ー構ん。斬って捨てよ。その女は、もはや害にしかならん。母親共々処分しろ。ーだが、ここでは殺るな。神聖な番との刻を血で染めたくはない。ロンバルト、後はおまえに任せる。好きにやるが良いー」
守護騎士ロンバルトに、無情にも告げる竜帝は、すでに令嬢には見向きもしない。
愛しい番だけを視界に捉え、颯爽とこの場を後にする竜帝。
後には、守護騎士ロンバルトが残る。
「……なぜ、どうしてよ……! 私は竜后になるのよ。お母様がそう仰っていたわ……だから、番になる為の施術までしたのにー……それなのに、どうしてー……!」
「それこそ不敬。偉大な竜帝陛下を謀ることは、謀叛と同じ。ーましてや、番様に成り済まそうなどとは、愚かな行動をしたものだ。貴女方親子は、万死に値する。もはや処刑は免れない。恥を知りなさいー」
いつの間に現れたのか。
竜帝専属の守護騎士が二人。しかも影の守護騎士。
長であるロンバルトに呼ばれ、その場へと片膝を付き、無言のままに待機している。
合図と共に、激しく抵抗する令嬢ディアナを即座に縛り上げる二人の影の守護騎士。
令嬢ディアナの虚言に塗れるその口には、戒めの為とばかりに、重い鉄製の口枷が嵌められる。その口は一生封じられる令嬢ディアナ。
罪人となった謀叛人には、これ以上、話す必要もなければ、弁明すら必要とされない。
そのまま牢獄へと連れて行かる令嬢ディアナは、まさか思うまい。
恋焦がれる竜帝の后になる事だけを夢に見ていた令嬢ディアナ。久しぶりに登城したその日に捕縛され、無情にも冷たい牢獄へと連行される。
恐らく、明日が命日となる。
その腕の中には、真紅の外衣に包まれる竜帝の愛しい番が眠る。
紅色の髪が、殊に美しい花姫アリーシア。
皇城の地下に造られた転移門を通っての帰還。
後ろには当然、出迎えに赴いた筆頭守護騎士のロンバルトが控える。
竜帝は皇城の一角を占める己れの宮へと足を進めるも、突如現れた貴族の令嬢に行手を阻まれる。
私的なこの場所へと上がれるのは、主に血族や王族。更には、特別に許された者に限られる。
「ー陛下! お逢いしとう御座いました……!」
満開の花のような微笑みで、竜帝へと勢いよく駆け寄る令嬢。
鮮やかな真紅の衣装を翻し、艶やかな銀糸の髪がふわりと靡く。令嬢が纏う鮮やかな真紅の衣装は、竜帝が普段から纏う外衣に、まるで申し合わせたかのようにも見える。
貴族令嬢の中でも、かなりの美しい部類には入る。
「ー控えて下さい。ディアナ様」
その令嬢の前へと立ちはだかる守護騎士ロンバルト。
守護騎士の後ろで、端然と佇む竜帝の眼差しは冷ややか。竜帝は、突如現れた令嬢を一瞥するも、すぐにその金眼を逸らす。
今の竜帝の美しい金眼を向けられるに値するのは、他でもない己れの番だけ。美しい花姫アリーシア。
更に云えば、番との刻を邪魔された竜帝からは、明らな不快さが滲み出る。
僅かに、瞳を閉じる竜帝。非情な思いに至る。
(ーいつまでも過去の恩恵を笠に来ては、傍若無人に振る舞うこの女も、それに縋るこの女の母も……最早不要。余の愛しい番の妨げにしかなるまいー)
常に竜帝の想いを汲むのが、この守護騎士ロンバルト。
どうやら、すでに竜帝の想いは理解している様子で、竜帝に代わり相対する。
とうに過ぎ去った過去の栄光に縋り、好き放題する令嬢。先代竜帝からの負の産物。
今代竜帝の竜后が見つかった今こそ潮時。
守護騎士ロンバルトの相貌には、薄っすらと皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「そこをお退きなさい、ロンバルト! 騎士風情が無礼よ……! この私を誰だと思っているの!」
ディアナと呼ばれた令嬢は、声高に叫ぶ。
「ーなら申し上げます。貴女はただの一令嬢に過ぎません。陛下の温情により、今でもこうして登城を許されてはおりますが、さすがにこの場所にまで来られるのは、いささか度が過ぎておられます」
「……なっ! 」
令嬢ディアナは、怒りに美しい顔を歪ませる。それでも引く様子を見せないのは、自尊心の高さゆえ。
「ーよくもっ! 私の叔母は先代竜帝陛下の番様なのよ!……それに、私はいずれ竜后となる運命……貴方如きが、私の行手を阻む事は赦されなっー……」
ひゅっ! と守護騎士ロンバルトの剣先が令嬢ディアナの目先へと向けられる。
少しでも動けば、深く刺さりかねない。
「……ひっ!」
令嬢ディアナの額の眉間からは、僅かな血が滴り落ちる。
「いやっ、私の顔が……!」
深層の令嬢であれば、血を見る事も流す事にも、慣れていないのは当然の事。
思わず、その場へとへたり込む令嬢ディアナ。腰を抜かし、無様にも床へと尻もちを付く。
先程の威勢は何処へやらー。
「ー陛下、お赦しいただければ、私が処分致します」
「ひっ!!」
令嬢ディアナからは、更なる悲鳴が上がる。
「ー構ん。斬って捨てよ。その女は、もはや害にしかならん。母親共々処分しろ。ーだが、ここでは殺るな。神聖な番との刻を血で染めたくはない。ロンバルト、後はおまえに任せる。好きにやるが良いー」
守護騎士ロンバルトに、無情にも告げる竜帝は、すでに令嬢には見向きもしない。
愛しい番だけを視界に捉え、颯爽とこの場を後にする竜帝。
後には、守護騎士ロンバルトが残る。
「……なぜ、どうしてよ……! 私は竜后になるのよ。お母様がそう仰っていたわ……だから、番になる為の施術までしたのにー……それなのに、どうしてー……!」
「それこそ不敬。偉大な竜帝陛下を謀ることは、謀叛と同じ。ーましてや、番様に成り済まそうなどとは、愚かな行動をしたものだ。貴女方親子は、万死に値する。もはや処刑は免れない。恥を知りなさいー」
いつの間に現れたのか。
竜帝専属の守護騎士が二人。しかも影の守護騎士。
長であるロンバルトに呼ばれ、その場へと片膝を付き、無言のままに待機している。
合図と共に、激しく抵抗する令嬢ディアナを即座に縛り上げる二人の影の守護騎士。
令嬢ディアナの虚言に塗れるその口には、戒めの為とばかりに、重い鉄製の口枷が嵌められる。その口は一生封じられる令嬢ディアナ。
罪人となった謀叛人には、これ以上、話す必要もなければ、弁明すら必要とされない。
そのまま牢獄へと連れて行かる令嬢ディアナは、まさか思うまい。
恋焦がれる竜帝の后になる事だけを夢に見ていた令嬢ディアナ。久しぶりに登城したその日に捕縛され、無情にも冷たい牢獄へと連行される。
恐らく、明日が命日となる。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
173
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる