もう一人の私

音織かなで

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第1章 悪夢は突然に

第2話 同じ顔の来訪者

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「随分遅いな。何をやっていた?」

 玄関のドアを背にした「もう一人の私」は、当然のように私を非難してきた。

「え? え? どういうこと?」

 突然の驚きと恐怖で、私はパニック状態に陥った。

 相手は私と違って、明るすぎる髪色はもはや金髪だし、有名なファッション・
ブランド製らしき高そうなワンピースを着ている。隙のない派手なメイクも
ピアスも私とは程遠いタイプの人間のそれだ。

 でも元となる外見は確かに私。
 まるで意味が分からない。

 頭が混乱した私は、玄関先で固まってしまった。

「いいから部屋に入れろ。ずっと待っていたから疲れた」

 もう一人の私はただ立ち尽くしている私を尻目に、当たり前のように要求する
と、こちらの返事も聞かずにズカズカと室内に入ろうとする。

    1Kのワンルームなので、廊下を突っ切ればすぐに寝室兼リビングの八畳間に
辿り着いてしまう。
 危機感を覚えた私は、なんとかして追い出そうと、自分と同じ顔をした不審者
の前に立ち塞がった。   
  
「いや、意味が分からないし。不審者を部屋に入れるなんて出来ないから!」

 私の反応が予想外だったのか、相手も不満をあらわにする。
 
「不審者って、自分だぞ。意味が分からないのは、そっちの方だろう」
「自分がもう一人いて、はいそうですかって納得できる訳がないでしょう? 
本当は誰なの? 何が目的?」
「説明は後だ。まずは茶でも入れてくれ」
「断る!」

 相手の図々しい態度に、思わず私もムッとする。
 不気味とか怖いという感情よりも、負けていられないという競争心の方が勝り、
一歩も引かずに応戦する。

 だが結局、相手の方が一枚上手だったようだ。
 言い争っている間の隙をついて「もう一人の私」はするりと部屋の中に入りこん
でしまったのだ。

 部屋への侵入を許してしまったことに焦った私は、なんとか部屋から閉め出そう
と相手の後を追う。

「殺風景な部屋だな。ソファーがあるだけマシか」
「不審者に部屋のダメ出しをされたくない。早く出て行って!」
「断る。私は疲れた。休息させろ。話はそれからだ」

 あくまで強引な態度を崩さない「もう一人の私」は、そうこうしているうちに私の
定位置――ソファーの真ん中に陣取り、すっかり寛いでしまった。

 自分の顔だからか、余計に腹が立つ。
 予想外すぎる出来事に言葉も出ない私に、「もう一人の私」は再度促す。

「お前もリストラ宣告を受けて疲れただろう」
「……どうしてそれを?」
「後で話す。一旦茶でも飲んで落ち着こう。ついでに私の分も淹れてくれ。とりあえず
一服しよう」
「…………」

 なにはともあれお茶を入れろということらしい。
 相手も「もう一人の自分」なら、自分でお茶くらいれればいいのに……。    
 内心腹が立ちながらも、相手は自分で動く気配がまるでない。
 諦めて私は台所へと立った。
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