どうせ政略結婚だから、と言われた話

仙桜可律

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ブルーノ17歳

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「お前は良いよな、ほぼ決まってるようなものだろ」

友人から何度目だろう。
ブルーノは曖昧に笑った。
「アルテ嬢は可愛いし、何よりおっとりしてガツガツしてないし、他の男の心配もない。過去に恋愛経験もない。
良いよな、お前。
しかも、意外と胸が……」

「切るぞ?」

よりによって剣術の授業中に下らない話を始めたのだから、脅して黙らせても教師には見逃してもらえるだろう。
「ごめんっ!そんな怒るなよ」

アルテをそんな目で見るなんて、あり得ない。

小さい頃はなぜか時々遊びに来る可愛い子、くらいに思っていた。

それが大人達の話で
『将来もしかしたらお嫁さんになるかもしれない子』
だとわかった。
嬉しかったと同時に怖くなった。
もし嫌われたり泣かれたりしたら、結婚しないと言われる。
大人になるまでの長い時間、アルテや周りの大人達から品定めされるんだろう。
領地は馬を育てていた。
毛並みや性質、脚力で出荷先が決まる。遺伝的に速く走るはずの馬でも、体格が思ったより育たなければ軍馬ではなく馬車用になる。

自分がそんなふうにアルテにふさわしいか、気に入られるかどうかで価値が決まるのかもしれない。

十代前半の反抗期には屈辱的に思われたし、アルテと居るのが心地悪かった。
友人達は結婚したい令嬢として美人で有名だとか可愛らしいとか、
単純に『他の男に自慢できる令嬢』を狙うのがかっこいいという風潮があった。

ブルーノはそういう気にもならなかった。
そのガツガツしてない態度が令嬢たちから落ち着いているとか大人っぽいと良いように解釈されたらしい。
時々誘われたら街へ付き合ったりしていた。

16歳、17歳になってくると友人達も本格的に婚約をする者が増えてきた。

そのあたりから、だんだんと
「ブルーノはいいな、アルテ嬢がいて」
と言われることが増えてきた。

有名な令嬢にはライバルも多い。自由恋愛で失恋をして、身の丈にあった現実的な婚約者を求めているようだった。

それに、アルテも変わった。
時々エスコートをするが、アルテがドレス着て髪を結い上げているのを見ると、別人のように見えた。
もし初対面だったら、お近づきになろうと声をかけていたかもしれない。
幼い顔を大人っぽく見せるために髪を結い上げたのだろうか。細い首と儚げな雰囲気、少し垂れたアクアマリンのような瞳、蜂蜜のような髪。

夜会で少し離れたら心細そうにして、ブルーノが戻ったらホッとした様子で小さく手を振ったり
ドレスを誉められたいのか、そわそわしてるから
「まあ、悪くないんじゃないか。似合ってないこともないし」

と言ったら頬を膨らませたり。
 内面がわかりやすくてギャップがいい。
ギャップといえば、柔らかそうな体をしている。守ってやりたいのに溺れてしまいたいような、少女と大人のアンバランスさが色んな男の視線を集めてしまう。
なので、本当にアルテと出掛けるのは憂鬱だった。

『ほぼ決まってるからいいな』だと?
他の男は牽制できても、確実に決まってないから。
兄を牽制することはできない。

『他の男の心配もないし、恋愛経験もない』

アルテはいつも優しい兄に懐いていた。俺はわざと離れたり嫌われるほうが楽だと思ってたから

『おっとりして、ガツガツしてないし』

アルテが子供っぽいままなら、年の近い俺と決まっていたかもしれない。
大人っぽくなったら兄とも似合ってしまう。

『意外と胸が』

……兄は、むっつりだ。


兄が本気を出してアルテに求婚したら婚約はすぐにでも成立するだろう。
そうなればアルテが兄嫁だ。

そんな辛い思いをするくらいなら初めから好きになったりしたくない。
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