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宴会は出会いの場。
それが結婚の宴ならなおさら。
お酒もたくさん用意されているし、新郎新婦の姿で会場の空気が幸せに酔っているようなものだから。
男女の距離も縮まりやすいというのはわかる。

それでも、まだ名乗りあっていないのに腰に手を回してくるこの男は。
ちょっと、さすがに近すぎる。
しかも、そんなに酔っている様子でもないのに自然に体を寄せてくる。
こういうのに慣れている、っぽい。

それだけで、「あの人」じゃないと突き放せたらまだ良かったのに。

「で?おたくの望みは何?クリーム?呪符?」

「望みって程じゃないけど、もう一度会いたかったから。お礼を言えてなかったし、それに名前も」

「名前……ねえ。
で、どこまで許してくれるの」

「どこまでって」

「何をしても、いつになってもやらせてくれないんなら、これ以上知り合う必要ないと思って。
他の子を探しに行きたいんだけど」

あれ、これ
クズじゃないか?

よく考えなくても、腰に手を回したまま言う事じゃないような。

手をつねって振り払った。
「ごめんなさい、人違いだったみたい。さよなら」

「変わってないな。それくらい気が強い方があんたらしい。さっきだったらホイホイ男に押しきられそうだったもんな」

ヒラヒラと手を振って、男は離れた。

全く残念そうにされないのも、癪にさわるけど。

顔見知りの副団長のセルジオが通りがかったので
聞いてみた。
「ねえ、あれ誰?」

「あー、ジオスだな。来てたんだ」

「あの男、すごく失礼なんだけど」

「ジオが?ここにいたときはむしろ、消極的すぎるくらい内気な奴だったんだけどな」

「全然!女の子を探しに来たって言ってたわよ。」

「城下で働いてるって聞いたけど。そんな冗談も言えるくらい、まあ人と関わって暮らせているなら良かった」

セルジオが笑みを浮かべているので不思議だった。
「冗談も言わない人だったの?」

「まあ、魔術師を辞めるにはそれなりの理由があるからね。カインみたいな天才のそばにいると、自分の力のなさを感じるよ。私も魔術師としては弱いから、辞める奴のことは気になる。」

「図々しいくらい、ふてぶてしい態度でしたけど」

「苦労して揉まれたのかもね。それに、女の子を探してたのは本当かも。辞める前に何か女性用に作っていたよ。」

ハンドクリームとか、私以外にも渡してたってこと?

あいつ、許さない。

「セルジオさん、これ戻しといてください」

グラスを押し付ける。

「カトリーヌさん?怖い顔してるけど、まさか」

「ちょっとアイツに、文句言ってきます!」

「待って!
えっとね、もしかしたら役に立つかもしれない。誤解されてるのならジオは、すぐ顔が赤くなるから耳とか首とか見て。あと、嘘をつくときに視線がよく動く。それからわざと拗ねたみたいな口調になるけど、八割は
照れ隠しだから」

そんな、可愛いわけない。
余計に腹がたってくる。

「カトリーヌさん指ポキポキ止めて!それ格闘家のやるやつだから!」

「ふふふ、大丈夫ですよ。民間人相手ですからね、殴りはしません」
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