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第一章 塩対応な二人

第19話 大いなる誤解で好感度アップ!?

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「むむっ!? その声はつららちゃん?」

 何でタレント活動もしてない院瀬見がここにいるのかは今は気にしないでおくとして、新葉こいつをどうすればいいのやら。

 しかも俺の心配を無視して、俺にくっついたままで院瀬見に話しかけてるし。

「……そうですけど、お邪魔でしたらわたしはこれで失礼します。どうぞご存分に――」
「――ま、待って待ってー! そうじゃなくて、つららちゃんもどう?」
「はい?」

 一体何をほざくつもりなんだ。大いなる誤解をした今の院瀬見に何を言ったって効かないぞ。

「ぷはっ! ええい、あたしを放せー!」
「な、何を言って……」
「お黙り!!」

 勝手に抱きついてきたくせに無理やり離れるとか、自分勝手な奴め。しかもまたよく分からない令嬢が憑依しちゃってるし。

 この際だ、新葉に任せて見守るしかないな。

「え、あの……?」
「つららちゃんに言っておくね。あたしの横にぼけっと立っているこの子……翔輝くんはね、困った性癖の持ち主なんだよ!」
「せ、性癖?」

 おい、待て。何だそれは。

「定期的にあたしはもちろん、七ちゃんも協力してあげてるんだよ。本当に困ったちゃんなんだよー」
「それは……何なんですか?」
「うむっ! それはズバリ! あたしのような美少女に抱きつかれたい病なのさー!」
「…………」

 言葉を失う反応だな。間違ってはいないが自分から美少女と言うなんておかしいだろ。まあ院瀬見も名乗ってはいたが、まさか自分がそれを言われるとは思わなかったんだろうな。

 それに俺が美少女に抱きつかれたい性癖なら、初めましての時に、院瀬見に対して少しは愛想を良くしていたはず。矛盾ばかりのそんな馬鹿げた話に誰が信じるって話だ。

 嘘にも冗談にもなりはしない話――

「――そ、そうだったんですか!?」
「そうなのー。しかも美少女限定なのさ!」

 それもどうかと思うが、頼むから俺を憐れむ目で見ないで欲しい。

 まさかと思ってしまいそうなものの、賢い院瀬見のことだ。新葉のアホな話をまともに信じるわけがない。それに美少女限定というアホな理屈なら七先輩も含まれてしまう。

 だけどこんなアホなことを言われたら、さすがの七先輩も怒ると思うんだがどうだろうか。とはいえ新葉もだが、院瀬見も普通とはかけ離れた思考を持っているしどういう展開に進むのか見当もつかない。

 まさかだよな?

「美少女限定……それは推し女の子たちも含まれるんですか?」
「うんうん、そうなんだよー。でも翔輝くんはひねくれてるから、ターゲットは物凄く絞るし、わがままなんだよ。それに、ちょっと問題があってね」
「問題、ですか?」
「あたしたちが卒業しちゃったら、翔輝くんはもう誰にも頼れなくなっちゃうんだよー……可哀想な翔輝くんなんだよ」

 もはや呆れて何も言えないな。

「そこで! つららちゃんの登場はまさにあたしたちにとっての救世主! あたしは安心して翔輝くんを引きはがせたってわけなんだー」
「えっと、それってつまり……草壁先輩からの引き継ぎですか?」

 あり得ない話が成立してしまうとか、冗談か?

 院瀬見の反応といい、新葉のアホめいた話といい、本気で受け止めてないよな?

 それにしても、すぐ近くでペットボトルを持っていたはずの七先輩はいつの間にかいなくなっていた。新葉が俺にタックルをしてきた時点で退避してたんだろう。

「うんうん、こんな大事な役割はつららちゃんしかいないよ! でも無理強いはしないから、になったらでいいからね! そしたらこの子を思う存分に!」
「……今すぐのことじゃないなら分かりました」
「うぇっ!?」

 思わず変な驚きの声をあげてしまった。何でこんなアホな話に納得出来るんだ?

「こらこら、翔輝くん。そう興奮しちゃ駄目だぞ。つららちゃんの話を最後まで聞かないとね」

 お前が言うな。後で思いきり説教してやる。

「でも、わたしは草壁先輩と同じようにしたくないので、わたしはわたしのやり方でいいですか?」
「もちろんだよ! つららちゃんがその気になった、もしくは思い出した時に実行すればいいと思うよー」

 新葉の言葉に院瀬見は力強く頷いている。よく分からないが、新葉の一方的な俺への冤罪で院瀬見は理解して機嫌が直ったようだ。

「ところでつららちゃんはどうしてここにいるの?」
「それがですね、そこの南……男子生徒会の協力でサプライズお披露目をしますよね?」
「うんうん、楽しみだねー」

 そういえば新葉もサプライズでお披露目するんだろうか。今さらなことではあるけど、出たがっていたし出てもおかしくないと思うが。

「その、会場というか体育館でわたしのプロモ映像を流すので、一応、タレント活動扱いになるみたいなんです。選抜の時の映像が出るので、スタッフさんも協力してくれることになりまして、その扱いもあってわたしもここに出入り出来るようになりました」

 七先輩はモデルを中心にタレント活動をしてるけど、新葉はそれをしていないしするつもりもないと言っている。準優勝の時、活動することを匂わせてここに住んでるんだからズルいというか何というべきか。

 でもここに院瀬見が来たということは、今度のサプライズ以降は本格的に活動を始めるんだろうか?

 そうなると生徒会活動は、サプライズまでということになりそうだが。

「ほほぅ! じゃあ、七ちゃんみたいに今後は本格的に?」
「そうですね……それはまだ何とも――」

 ――ん?

 何で俺の顔を見てるんだ?

 もしかして生徒会活動のことを気にしてるとしたら、それは俺の口から厳しく言っておく必要があるぞ。

「あー、俺のことは……」
「あれ? じゃないですか。逃げずにそこにいたんですね」

 こいつ、新葉と俺とで態度が全然違うじゃないかよ。

「すぐ目の前にいたのに見えなかったとか、鈍いにも程があるだろ!」
「鈍重男子に言われたくないです」
「思いつきで生徒会活動を半端にやられても面倒だし、タレント活動をするつもりがあるなら自由にやったらいいんじゃないのか?」
「え、ちょっと、翔輝くんにつららちゃん? どうしてそんな――」

 つくづく院瀬見とは相性が悪いな。すぐに臨戦状態に突入出来てしまうとは。平和すぎる新葉が迷子の子犬みたいになってるじゃないか。

「……南がわたしにそういう態度を見せるなら、こっちにも考えがあります!」
「お利口さんの考えならいくらでも聞く」
「サプライズ以降だろうと完全共学化以降だろうと、わたしは生徒会活動をやめませんから! それに、共学化以降にやり直しを求めたいです」
「やり直し?」
「もちろん、生徒会長の座を! です」

 俺としてはどっちでもいいんだが、その相手が院瀬見だと話が全然変わってくる。女子だらけの生徒会だけは避けねばならないし、仮に院瀬見が会長になってもそれはそれでキツい。

「……ですので、南翔輝生徒会長さん」
「な、何だよ?」
「わたしを引き離そうとしても無駄、ですよ?」

 要するにサプライズだろうと何だろうと、こういうやり取りは継続するから覚悟しろと挑戦状を叩きつけてきているわけか。

「望むところだ! 遠慮なく院瀬見に命令するからな!」
「はい! 望むところですよ? 

 何で嬉しそうなんだこいつは。笑ってるじゃないか。でも、こういうやり取りが出来るのも案外楽しいかもな。

「ほほほぅ! 翔輝会長……ねぇ。むふふふ……翔輝くんとつららちゃんがねぇ」
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