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第七章:追録 ヨナスの夢は夜開く

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ゆっくりと意識が浮かび上がり、覚醒する。

ぱちぱちと目を瞬いて気付けば、そこは公爵城の
私の部屋のベッドの上だ。

布団の上に身を起こして窓の外を見ればまだ
空には星が静かに輝いている。

・・・確か、カイゼル様を助けるためにお酒を
飲んで大きくなって。酔っ払ったまま
グノーデルさんの力を使った後は戻ってから
鏡の間でリオン様に文句を言った。

その後、すごく眠くなって寝てしまったはずだ。
なんだか頭痛がする。そういえばお酒の度数、
強そうだったしなあ。少し痛む頭のまま、
自分の姿を見降ろして確かめてみればまだ
あの大きい姿のままだった。

服はこの大きい姿に合ったナイトドレスだから
侍女さんが眠りやすいように着替えさせて
くれたんだろう。そっと頭の後ろに手をやれば
シェラさんの作ってくれたあの薔薇の花みたいな
素敵な髪型も解かれている。残念。

その時だった。音もなく寝室の扉が開いて、
水桶を手にしたシェラさんが部屋に入って来た。

「ユーリ様。目が覚めたんですね。」

まさか起きているとは思わなかったのだろう、
珍しく目を丸くして驚いている。
その格好も、いつもきっちり隊服を着込んで
いるところしか見たことがないのにこれまた
珍しく白いシャツを腕まくりしていて、
黒パンツ姿のラフなものだ。
夜だからだろうか。

「今起きたところです。夜中なのに私の面倒を
見てくれてたんですか?あんなに大変な事が
あった後なのになんだかすみません。」

「夜中というか、もうすぐ夜明けですね。
それよりも、面倒だなんてとんでもない。
オレ以外にユーリ様のそのお姿のお世話を
させたくないですから、むしろご褒美ですよ」

微笑むその目元が色っぽい。ご、ご褒美って。

「ええ・・・」

理解できないなあ、と首を傾げる私に近づくと
サイドテーブルに水桶とタオルを置いた
シェラさんは私ににっこり微笑んだ。

「汗をかかれていませんか?もしよろしければ
お体を拭いて清めますが。」

「やっ!それは無いでしょう‼︎汗はかいてないし
もしそうだとしても自分で出来ますからっ‼︎」

ほぼ成人女性と同じ姿なのにシェラさんに
その体を拭かせるとか有り得ない。
慌ててぶんぶん首を振る。

「そうですか・・・」

シェラさんが残念そうにしているのが怖い。
あれ?もしかしてこれ、今起きてなかったら
知らないうちにシェラさんに体を拭かれて
しまってたんじゃないだろうか。

「では、お体はともかくお顔を清めさせて
もらえますか?もう眠くないのでしょう?」

あ、いつものやつね。それならいいか。
お願いしますと言えばシェラさんはいそいそと
嬉しそうにタオルを手に私の顔を優しく拭いた。

「・・・本当にシェラさんは、騎士さんなのに
こんな事から髪を結うのまで、何でも器用に
こなしますよね。前職が何なのか気になります。」

目を瞑ってされるがままになっていると、
くすりとシェラさんが笑いをもらしたのが
分かった。

「そうですね・・・要人のお世話全般と言うか、
奉仕というか。命じられれば何でもしなければ
いけなかったので、ありとあらゆる事を
させられましたね。」

「へぇ~奉仕。そんなのもあったんですか。」

奉仕活動・・・ボランティアかな?
やれと言われれば無給で働かなきゃいけないとか
大変な職場にいたんだなあ。ブラック企業か。

「大変だったんですね。ちなみに奉仕って
どんなのがあったんですか?」

異世界のボランティア事情が気になる。
やっぱり孤児院のお手伝いとかかな?

何気なくそう聞いた私の言葉に、なぜか
シェラさんの手がぴたりと止まった。

「・・・気になります?」

「え?あ、ハイ。」

「試してみます?」

「え?」

すいと私の顔からタオルが取り払われた。
パチリと目を開けると、私の横でシェラさんが
あごに手を当てて思案していた。

「・・・そうか、嫌な思い出はユーリ様に
上書きしてもらえばいいのか。オレの女神なら
それも可能かも知れない。」

ぶつぶつとそんな事を呟いていたかと思うと
パッと顔を上げて今までになく色気を滲ませた
笑顔で私に向き直った。嫌な予感しかしない。

「シ、シェラさん?別に無理しなくても」

「いえ、むしろオレのためにもぜひユーリ様に
ご奉仕させて下さい。」

そう言って、失礼しますと私に断りを入れると
自分のシャツのボタンに手をかけそれを
脱ぎ捨てて上半身裸になった。

すらりと引き締まった、ネコ科の獣のように
しなやかな身体が露わになる。

「え?何で脱いでるんですか⁉︎」

「オレの着ているものが奉仕の邪魔になっては
いけませんので念のためです。」

あれよあれよと言う間に、シェラさんはそのまま
のしりと私のベッドに上がり込むと、座る私の
足を跨いで膝立ちした。

「え?何ですかコレ⁉︎奉仕?っていうか、
ご奉仕って言いました⁉︎」

「ユーリ様にご奉仕できるなど、まるで
天にも昇る心地です。一生懸命務めさせて
いただきますね。幸い、侍女達が起き出して
くる夜明けまではまだだいぶ余裕があります。
これなら時間の許す限りじっくりゆっくりと
お相手が出来ます。ちなみに奉仕と言っても
一線は超えませんので安心してオレに
身を任せて下さいね。」

そう言ってぺろりと口の端を舐め上げると
膝立ちの姿勢から一転して私の横に両手を
つき四つん這いになると口付けて来た。

驚いて引き結ばれた私の唇をシェラさんの舌が
優しくなぞり、その指が私の長い髪を
耳にかけてくれて、ついでにその耳の後ろを
そっと撫でられた。

そのくすぐったいようなむず痒いような刺激に
思わずひゃ、と口が開くとそれを待って
いたかのようにシェラさんの舌がすかさず
入って来る。

そのまま優しく歯列をなぞられ、舌を絡められて
お互いの唾液が混ざり合う。くちゅり、と言う
音を立てて離れた唇をシェラさんはもう一度
舐め上げると身を起こし膝立ちして微笑んだ。

笑顔はいつも通り優しげなのに、唇を舐める
その仕草は獲物を前に舌舐めずりをする
獣のように獰猛な美しさがある。

「オレの女神の口付けは何とも言えず
甘いですね。奉仕しなければいけないのに、
うっかりオレの方が溺れてしまいそうです。」

「な、な・・・‼︎」

奉仕ってそういう意味⁉︎自分は何という
墓穴を掘ったのか。
呆然とする私の唇の横を流れる唾液を、
シェラさんが優しく拭う。

「さて、オレがする奉仕は口と指の二つが
あるんですがいかがいたしましょう?
今のご様子ですと、清らかなオレの女神に
一度に二つの奉仕はさすがに刺激が強過ぎる
ようですし・・・口にします?それとも指で?」

何が⁉︎口も指も、一体何をされるのか想像も
つかない。ただ、どっちを選んでも碌なことに
ならない事だけは分かる。

顔を真っ赤にして、ぱくぱくと口を開いて
何も答えられない私にシェラさんは小首を
傾げてまた考えている。

そんな可愛げのある仕草をしても騙されないぞ。
絶対どっちも選ばないんだから!
そう思っていたら

「・・・では口と指、それぞれ少しずつ
試してみてから選びますか?
大丈夫そうでしたら両方と言っていただいても
いいですよ。」

とんでもない提案をして来た。

「む・・無理ですそんなの!」

「いつもの小さなお姿のユーリ様でしたら
どちらにしてもご負担がかかって難しいと
思うのですが、今のお姿は成人されている
女性そのものですし、大丈夫だと思いますよ?」

ぎしり、とベッドがしなる。
シェラさんが再び私の目の前に迫っていた。

私を跨いで膝立ちしていたはずのその片膝が、
いつの間にか薄いシーツに包まれた私の
両膝の間を割って入ってきていた。
更には両手もシェラさんにしっかりと掴まれ
布団の上に縫い止められている。

その端正で色気のある顔が目前にせまり、
泣きぼくろが印象的な金色の瞳がとろりと
蕩けるように私を見つめていた。

「まずは口から」

耳元に口を寄せて低く艶のある声でそう
言われるだけでもなんだか背中がぞくぞく
するのに、囁かれたその耳たぶに優しく
歯を立てられる。

「ふあぁっ・・・⁉︎」

その刺激にびくんと肩が震える。

「おや、ユーリ様は耳が弱いんですね。
少し加減しましょうか?」

そう言うと甘噛みをやめて耳の後ろから耳たぶ、
耳そのものまでを丁寧に舐め上げてきた。

くちゅりと湿った音がして、耳の穴にまで
舌が入って来ると背中だけでなくお腹の
奥の方までなんだかぞわぞわしてくる。

シェラさんはそのまま丹念に私の耳を
両方とも舐め続けた。
時折り強弱を付けて優しく耳たぶを
吸い上げるようにもされてしまう。

あまりにも執拗に続けられたので、
ついに耐え切れず私は声を上げた。

「待っ・・・加減する、って・・・っ、
う、うそ、うそついた・・ぁっ‼︎」

何だかよく分からない刺激に変になりそうで、
ポロポロ涙をこぼして抗議する。

「泣き顔までとても美しいだなんて、さすが
オレの女神。でも気持ち良さそうですよ?
顔が蕩けておられます。それに、こんなに
可愛らしい抗議をされたのも初めてです。
何というか奉仕しがいがありますね。」

泣き顔なんてみっともないだけだと思うのに、
何故かシェラさんは私の頬を両手で大切そうに
包み込んでうっとりと満足気に私の泣き顔を
見つめている。ひどい。

「まだ耳にしかご奉仕していませんが、
もう少し他の場所に試してみてから
口はやめて指にしましょうか?」

譲歩してるんだかしてないんだか、
よく分からない提案をされた。

もはや思考力が欠片も残っていなかった
私はそれがどんな意味なのか、それによって
どんな目に合わされてしまうのかも分からずに
シェラさんの言うことにただコクコクと頷いた。

・・・それが間違いの元だとも気付かずに。
























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