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番外編
夢で会えたら 12
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シャル君を連れてノイエ領へ行く準備も整い、いよいよ出発するというその前日、シェラさんが
「今夜がシャルと過ごせる最後の夜ですね。殿下とユーリ様にシャルの、親子三人水入らず・・・と言いたいところですがレジナスの息子のラーズとも兄弟仲が良い分、シャルはレジナスのことも大変慕っているようですので特別な寝室をご用意しました。」
と、それまで過ごしていた寝室とは別の部屋へと私達を案内してみせた。
なぜに今日だけ?と不思議に思いながら、シャル君を抱っこしたリオン様とそれを見守るレジナスさんも一緒だ。
「えっ、なんですかこの部屋!」
両開きの扉を開けてまず目に飛び込んで来たのは、奥の院の私の寝室にあるのと負けず劣らずの大きなサイズのベッドがどーんと部屋の真ん中にある光景だ。
キングサイズのベッドを二つくっつけたようなその大きさに、リオン様に抱かれているシャル君は目を輝かせて喜んだ。
「おっきなベッド!とうさま、ボクをおろしてください‼︎」
そうせがんで下に降ろしてもらうと、さっそくシャル君はベッドへダイブしている。
「ふかふかです!ひろくてすてき‼︎」
きゃあ、と楽しそうな声を上げてベッドの上をころころと何度もでんぐり返しをしては移動している。
一応ベッドの端から転げ落ちないようにエル君が見てくれているので、その間にこれはどういうことかと私達はシェラさんに聞いた。
リオン様が
「シェラ・・・レジナスのことも考慮した特別な寝室ってことは、僕達三人だけでなくレジナスも加わって今夜はこの部屋で寝ろってこと?」
そう確かめればシェラさんはそういうことです、と頷いている。
いや、そりゃあ私達三人に体の大きなレジナスさんまで一緒に寝るなら確かにベッドはこれくらいの余裕が必要だけど。
「なんで今夜だけこんなことを⁉︎」
声を上げた私にレジナスさんも「そうだ、意味が分からない」と同調した。
「今回はシャルに充分な愛情を与えて帰ってもらうのが目的なのでしょう?であれば、おそらく普段は自分の息子であるラーズの面倒を主に見ているだろうレジナスにも、自分にだけ愛情を向けられるというのはシャルにとってはとても嬉しいことだと思うのです。」
エル君を相手にベッドの上ではしゃいでいるシャル君を優しい目で見ながら微笑んだシェラさんはそう説明した。
そういえばシャル君、レジナスさんの膝の上に座るラーズ君が羨ましいって言ってたっけ。
「ええー?実の父親である僕だけじゃダメなのかい?これまでだって、毎晩ユーリとの真ん中にシャルを挟んで眠らせては寝物語におとぎ話とか色々話してあげてたんだけどなあ。」
リオン様がねぇユーリ。と、ちょっとだけ不満そうな声を上げた。
確かにシャル君が現れてからのリオン様は忙しいはずなのに朝食を一緒に食べ、夕食の時間にも必ず戻って来て私達と一緒にご飯を食べていたし、なんなら3時のおやつの時間にも顔を出してくれた時がある。
リオン様が政務をしている王宮からこの別邸までは距離があり、本当なら奥の院から王宮に向かう時よりも朝早く出て夜遅く帰って来てもおかしくないのに。
そして夜は必ず私との間にシャル君を挟んで川の字で寝ていたのだ。それだけでもシャル君はかなり嬉しそうだったけど。
『とうさまたちといっしょにねむれるのうれしいです!ボク、おにいちゃんだからこの頃は自分のおへやでひとりでねるれんしゅうをしているの。』
と初めて一緒にここで眠った日に教えてくれた。
こんなに小さいのに両親と離れてもう一人で寝てるなんて寂しくないのかな、と後でリオン様に話したら
『かりにも王族の一人だからね。この位の歳なら自立心を養うためにそういう事もしている頃だよ。』
と教えてくれた。もちろん、何かあった時のために完全に一人じゃなくて乳母も控えているそうだけど。
それでも一人で寝るのは寂しいだろうと、ここにいる間はシャル君をぎゅっと抱きしめるようにして一緒に眠っている。
そうして朝目が覚めた時には、リオン様が私ごとシャル君を抱きしめて朝を迎えていることも多く、それをシャル君は
「ちょっとくるしいけどあったかいです」
とあの青い目を朝からキラキラ輝かせて笑ってくれていた。だから今まででも充分満足してくれてると思うんだけど・・・。
だけどシェラさんは、
「シャルに聞いたところ、レジナスとは一度も添い寝をしてもらった記憶はないそうです。ですからこれは良い思い出になると思います。」
と言う。いつのまにシャル君とそんな話を?
「いくら自分の息子でないとはいえ、まったく薄情な男ですねぇ」
と説明のついでに嫌味を言ってわざとらしく肩をすくめたシェラさんにレジナスさんは、
「いや、それは多分俺の体が大きいから押し潰しそうで怖くて添い寝をしないとかそういう理由が必ずあるはずだ。ユーリの前でわざと人を貶めるようなことを言うな!」
と嫌そうな顔をした。
「残念、さすがにお見通しですね」
レジナスさんの反論にシェラさんがつまらなそうに言ったものだから、
「お前なあ・・・!」
訓練場でそのふざけた態度を取れなくなるほど疲れるまで鍛えてやる、とレジナスさんが一歩踏み出した。
するとシェラさんはおっと、と軽やかにその一歩分後ろに下がる。
「ですがあなたと添い寝をしたことがないのは本当のことですので、今夜はぜひシャルに良い思い出を残してあげて下さい。オレは明日の出立に向けた準備の最終確認のため、今夜は奥の院に戻りますので。」
そう話して私に笑顔を向けると
「ではユーリ様、明日の朝またお支度に参りますのでそれまで失礼いたします。良い夜をお過ごしください。」
そう綺麗なお辞儀をしてあっという間に姿を消してしまった。レジナスさんに本格的に怒られる前に逃げたな?
そんなやり取りを見ていたリオン様は、
「まったく、相変わらず人を食ったようなことをするよね・・・。ふざけてるけど、洞察力も配慮もずば抜けているから怒るに怒れないし」
と小さくため息をついた。まあ確かに、レジナスさんに対しては悪ふざけみたいな事をするけどシャル君への気遣いは本物だ。
シェラさんなりに、シャル君に良い記憶を残してあげたいんだろう。それなら私もその気持ちに応えないと。
「えっと・・・レジナスさんがシャル君を潰しそうで怖いって言うなら、いつものように私とリオン様の間にシャル君を挟んでレジナスさんは私の隣に寝ましょうか?」
二人を見ながらそう提案する。
「やっぱり俺もここで寝るのか?」
レジナスさんはまだ戸惑っているけども。
「将来の練習だと思えばいいんじゃないですか?いつかシャル君と、・・・それにラーズ君も含めて五人で一緒に同じベッドで眠れたらいいですね!」
頭の中にその様子を思い描けば、あの奥の院の大きなベッドも大き過ぎることはないような気がして来た。
「あ、もしかして前陛下が私の寝室のベッドをあんなに大きく作ったのもそのため⁉︎」
まさかそんな将来のことまで見越してあの部屋とベッドを贈ってくれたんだろうか。
「さすが前陛下です!」
思わずそう言ったら、
「いや、それは違うと思うぞユーリ・・・」
レジナスさんが躊躇いがちになぜかうっすらと頬を染めて否定して、リオン様は呆れたように口を開いた。
「父上にそんなに先の事まで見越した高尚な計画性はないよ。下衆な想像力の元に伴侶の定員七人サイズってところまでしか考えてない」
「リオン様‼︎」
まだリオン様が話している途中なのになぜかレジナスさんが慌ててその言葉を遮った。珍しい。
「伴侶が七人って何ですか?それって勇者様のレンさんのことですよね?私とどんな関係が・・・?」
「何でもない、忘れてくれ!」
レジナスさんが赤くなったまま、あからさまにはぐらかす。リオン様も、
「そうそう、ユーリの伴侶は僕ら四人だけだからね。まあそのうち意味が分かるだろうし、今は気にしなくても大丈夫。それよりもそろそろ夕食の時間だから、寝室の準備はシンシア達にまかせて僕らは食事を取ろうか。」
とにっこり微笑んだ。その笑顔がなんか怪しいんだよね・・・?
だけどその時の私は夕食という言葉に気を取られ、なぜ奥の院のベッドがあんなに大きいのか、なぜ伴侶が四人と言う意味がそれに関係しているのかをそこまで深く考えることはなかった。
その意味を文字通り、自分の身をもって知ることになるのはそう遠くない先のことだったんだけど、その時の私はそんな事を知る由もないのだった。
「今夜がシャルと過ごせる最後の夜ですね。殿下とユーリ様にシャルの、親子三人水入らず・・・と言いたいところですがレジナスの息子のラーズとも兄弟仲が良い分、シャルはレジナスのことも大変慕っているようですので特別な寝室をご用意しました。」
と、それまで過ごしていた寝室とは別の部屋へと私達を案内してみせた。
なぜに今日だけ?と不思議に思いながら、シャル君を抱っこしたリオン様とそれを見守るレジナスさんも一緒だ。
「えっ、なんですかこの部屋!」
両開きの扉を開けてまず目に飛び込んで来たのは、奥の院の私の寝室にあるのと負けず劣らずの大きなサイズのベッドがどーんと部屋の真ん中にある光景だ。
キングサイズのベッドを二つくっつけたようなその大きさに、リオン様に抱かれているシャル君は目を輝かせて喜んだ。
「おっきなベッド!とうさま、ボクをおろしてください‼︎」
そうせがんで下に降ろしてもらうと、さっそくシャル君はベッドへダイブしている。
「ふかふかです!ひろくてすてき‼︎」
きゃあ、と楽しそうな声を上げてベッドの上をころころと何度もでんぐり返しをしては移動している。
一応ベッドの端から転げ落ちないようにエル君が見てくれているので、その間にこれはどういうことかと私達はシェラさんに聞いた。
リオン様が
「シェラ・・・レジナスのことも考慮した特別な寝室ってことは、僕達三人だけでなくレジナスも加わって今夜はこの部屋で寝ろってこと?」
そう確かめればシェラさんはそういうことです、と頷いている。
いや、そりゃあ私達三人に体の大きなレジナスさんまで一緒に寝るなら確かにベッドはこれくらいの余裕が必要だけど。
「なんで今夜だけこんなことを⁉︎」
声を上げた私にレジナスさんも「そうだ、意味が分からない」と同調した。
「今回はシャルに充分な愛情を与えて帰ってもらうのが目的なのでしょう?であれば、おそらく普段は自分の息子であるラーズの面倒を主に見ているだろうレジナスにも、自分にだけ愛情を向けられるというのはシャルにとってはとても嬉しいことだと思うのです。」
エル君を相手にベッドの上ではしゃいでいるシャル君を優しい目で見ながら微笑んだシェラさんはそう説明した。
そういえばシャル君、レジナスさんの膝の上に座るラーズ君が羨ましいって言ってたっけ。
「ええー?実の父親である僕だけじゃダメなのかい?これまでだって、毎晩ユーリとの真ん中にシャルを挟んで眠らせては寝物語におとぎ話とか色々話してあげてたんだけどなあ。」
リオン様がねぇユーリ。と、ちょっとだけ不満そうな声を上げた。
確かにシャル君が現れてからのリオン様は忙しいはずなのに朝食を一緒に食べ、夕食の時間にも必ず戻って来て私達と一緒にご飯を食べていたし、なんなら3時のおやつの時間にも顔を出してくれた時がある。
リオン様が政務をしている王宮からこの別邸までは距離があり、本当なら奥の院から王宮に向かう時よりも朝早く出て夜遅く帰って来てもおかしくないのに。
そして夜は必ず私との間にシャル君を挟んで川の字で寝ていたのだ。それだけでもシャル君はかなり嬉しそうだったけど。
『とうさまたちといっしょにねむれるのうれしいです!ボク、おにいちゃんだからこの頃は自分のおへやでひとりでねるれんしゅうをしているの。』
と初めて一緒にここで眠った日に教えてくれた。
こんなに小さいのに両親と離れてもう一人で寝てるなんて寂しくないのかな、と後でリオン様に話したら
『かりにも王族の一人だからね。この位の歳なら自立心を養うためにそういう事もしている頃だよ。』
と教えてくれた。もちろん、何かあった時のために完全に一人じゃなくて乳母も控えているそうだけど。
それでも一人で寝るのは寂しいだろうと、ここにいる間はシャル君をぎゅっと抱きしめるようにして一緒に眠っている。
そうして朝目が覚めた時には、リオン様が私ごとシャル君を抱きしめて朝を迎えていることも多く、それをシャル君は
「ちょっとくるしいけどあったかいです」
とあの青い目を朝からキラキラ輝かせて笑ってくれていた。だから今まででも充分満足してくれてると思うんだけど・・・。
だけどシェラさんは、
「シャルに聞いたところ、レジナスとは一度も添い寝をしてもらった記憶はないそうです。ですからこれは良い思い出になると思います。」
と言う。いつのまにシャル君とそんな話を?
「いくら自分の息子でないとはいえ、まったく薄情な男ですねぇ」
と説明のついでに嫌味を言ってわざとらしく肩をすくめたシェラさんにレジナスさんは、
「いや、それは多分俺の体が大きいから押し潰しそうで怖くて添い寝をしないとかそういう理由が必ずあるはずだ。ユーリの前でわざと人を貶めるようなことを言うな!」
と嫌そうな顔をした。
「残念、さすがにお見通しですね」
レジナスさんの反論にシェラさんがつまらなそうに言ったものだから、
「お前なあ・・・!」
訓練場でそのふざけた態度を取れなくなるほど疲れるまで鍛えてやる、とレジナスさんが一歩踏み出した。
するとシェラさんはおっと、と軽やかにその一歩分後ろに下がる。
「ですがあなたと添い寝をしたことがないのは本当のことですので、今夜はぜひシャルに良い思い出を残してあげて下さい。オレは明日の出立に向けた準備の最終確認のため、今夜は奥の院に戻りますので。」
そう話して私に笑顔を向けると
「ではユーリ様、明日の朝またお支度に参りますのでそれまで失礼いたします。良い夜をお過ごしください。」
そう綺麗なお辞儀をしてあっという間に姿を消してしまった。レジナスさんに本格的に怒られる前に逃げたな?
そんなやり取りを見ていたリオン様は、
「まったく、相変わらず人を食ったようなことをするよね・・・。ふざけてるけど、洞察力も配慮もずば抜けているから怒るに怒れないし」
と小さくため息をついた。まあ確かに、レジナスさんに対しては悪ふざけみたいな事をするけどシャル君への気遣いは本物だ。
シェラさんなりに、シャル君に良い記憶を残してあげたいんだろう。それなら私もその気持ちに応えないと。
「えっと・・・レジナスさんがシャル君を潰しそうで怖いって言うなら、いつものように私とリオン様の間にシャル君を挟んでレジナスさんは私の隣に寝ましょうか?」
二人を見ながらそう提案する。
「やっぱり俺もここで寝るのか?」
レジナスさんはまだ戸惑っているけども。
「将来の練習だと思えばいいんじゃないですか?いつかシャル君と、・・・それにラーズ君も含めて五人で一緒に同じベッドで眠れたらいいですね!」
頭の中にその様子を思い描けば、あの奥の院の大きなベッドも大き過ぎることはないような気がして来た。
「あ、もしかして前陛下が私の寝室のベッドをあんなに大きく作ったのもそのため⁉︎」
まさかそんな将来のことまで見越してあの部屋とベッドを贈ってくれたんだろうか。
「さすが前陛下です!」
思わずそう言ったら、
「いや、それは違うと思うぞユーリ・・・」
レジナスさんが躊躇いがちになぜかうっすらと頬を染めて否定して、リオン様は呆れたように口を開いた。
「父上にそんなに先の事まで見越した高尚な計画性はないよ。下衆な想像力の元に伴侶の定員七人サイズってところまでしか考えてない」
「リオン様‼︎」
まだリオン様が話している途中なのになぜかレジナスさんが慌ててその言葉を遮った。珍しい。
「伴侶が七人って何ですか?それって勇者様のレンさんのことですよね?私とどんな関係が・・・?」
「何でもない、忘れてくれ!」
レジナスさんが赤くなったまま、あからさまにはぐらかす。リオン様も、
「そうそう、ユーリの伴侶は僕ら四人だけだからね。まあそのうち意味が分かるだろうし、今は気にしなくても大丈夫。それよりもそろそろ夕食の時間だから、寝室の準備はシンシア達にまかせて僕らは食事を取ろうか。」
とにっこり微笑んだ。その笑顔がなんか怪しいんだよね・・・?
だけどその時の私は夕食という言葉に気を取られ、なぜ奥の院のベッドがあんなに大きいのか、なぜ伴侶が四人と言う意味がそれに関係しているのかをそこまで深く考えることはなかった。
その意味を文字通り、自分の身をもって知ることになるのはそう遠くない先のことだったんだけど、その時の私はそんな事を知る由もないのだった。
応援ありがとうございます!
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