もう恋なんてしない

前世が蛍の人

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序章

ミラ、精霊達と舞う

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ートス…トス……トス…トン。
用意された舞台を静かに、優しく、労るように…。
ミラは不思議と落ち着いていた。
管楽器が鳴り響く。
音に合わせ精霊達が舞台の上を私と踊る。


ようこそ精霊達の宴へ!
皆があなたを歓迎しているわ、ほら
聞こえるかしら 喜びで溢れてるわ
さぁこちらに入らして
私と踊りましょ(踊りましょう)

風よ草木を揺らし私と舞い踊れ
水は大地を潤し命の源となって
火よ情熱を宿し私を奮い立たせ
闇は暗闇を引き連れそっと私を包み込み
光が傷ついた身体と心を癒す

皆があなたを待っていたわ、ほら
見えるかしら 喜びで満ちているわ
さぁこちらに入らして
私と歌いましょ(歌いましょう)

風が見えぬ刃を纏った竜巻となって邪悪なものを退け
時に水は無慈悲な凍てつく雨となってそれを穿ち
火は燃え盛る業炎となってそれを浄化し
闇は先の見えぬ深淵を生みそれを待ち続け
やがて光はそれが持つ心の臓を貫く

だから私達は 心穏やかに生きていける
彼らと共に歩んで来た 手と手を取り合って
昔も 今も これからだって
皆であなたを見送るわ、ほら
信じるかしら 別れを惜しんでいるわ
さぁこちらに入らして
私と眠りましょ(眠りましょう)

風の優しさと 水の美しさと 火の力強さと
闇のここちよさと 光の柔らかさを
一つの歌にして あなたに贈ろう
目が覚めたらあなたの物語がうまれる
今度会えたなら あなただけの物語を聞かせて

たった一つの物語を


終わった、間違えずに踊れた。
一礼した後、奥へ下がったその時、割れんばかりの拍手が彼女の耳に聞こえた。

「ミラっ!!」

「バーバラさん…?なんで泣いているの。」

「そんなのっ、感動したからに決まってるじゃない…っ!こんなに…こんなに上手くなって、あんたを誇りに思うわ!!」

「バーバラさん…。」
不謹慎だと思ったけど。
笑いながら涙を流した彼女の姿がとても綺麗で優しかった。
私とは大違いだと思えた。
その後、沢山の仲間達に「おめでとう」と言われ沢山もみくちゃにされた。
初めてこんなに喜ばれた私は今、どんな顔をしてるだろう。
嬉しいはずなのにどこかでもやもやしていた…。

★★★

その日の夜、眠れずにいた私はセラフィにお願いして星空が一望できる場所まで連れてってもらった。
1日晴れた日の夜は雲一つない空で、星が宝石箱から零れ落ちたかのように輝いていた。

「………。」

『我が主、寒くないか?』
心配そうに毛布をかけてくれるセラフィに私は、

「ねぇ…分からなくなっちゃった、自分の気持ちが…。」
俯いていた顔を上げる。

「皆、私の舞いに感動してくれて嬉しいはずなのに、心のどこかで素直に喜べない自分がいるの。

本当は私に同情して無理にそう言っているんだとか、私を喜ばす為に嘘をついてるのかなって。
こんな風に思ってしまう自分って最低だよね……。」
ミラは星空を見上げながら心境を語る。

『…、………。』
セラフィは何も言えずにいた。
彼女が言わんとしている事があまりにも痛々しいからだ。
王妃としての教育を受けている彼女は嫌というほど人間の表裏を知り、心許せる友は愚か家族すらも信用出来ずに育ってしまった。
唯一の救いが婚約者の王子の存在だったが結果は最悪だったと言えよう。
そんな中で人間の一体何を信じろと言うのだ。

『このような時にハーディー殿がいれば良いのだか…、彼女のように助言できぬがそれでも良いのか?』

「私の傍に一番寄り添っていてくれたのはセラフィでしょう?」
考えながら少しずつセラフィが話しを始める。

『我が主は長きに渡り、腐りきった人間達に囲まれ生き続けてきた。

…裏切られる悲嘆と落胆を知っているからこそ貴女は躊躇われているのでないのか?』

セラフィの言う通りだ。
信じて裏切られるのが、怖い。あの時のような思いはもう嫌。

だけど本当は…信じたい。
矛盾しているけれどこれが私の本心。

「だからもやもやしてるのかな…?」

『我が主の望むままに動けば良い、我らは常に貴女と共にある。』

「思うままに、ね。
ーはぁ~あっ…嫌な事ばかり考えちゃうね、でも…相談にのってくれてありがとう。不安を言葉にすると楽になるって本当なんだね。」
ヴォルフが教えてくれた心が軽くなる方法を思いだし試した結果、もやもやしなくなった。

『明日の昼頃にルーゼ王国に入国するそうだ、我が主もそろそろお身体を休められよ。』

「自由時間があったら少し人の生活を見てみたいねっ。」
セラフィは笑みを浮かべ、『ならば座長に願い出て見るか。』と言ってくれた。


明日朝一番にキュスラさんにお願いしよう。


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