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5話 幸運の花

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「店長?このお花どうしたんですか?」

店の前に沢山飾られた赤い花。それには見覚えが有って裕子はチクリと胸が痛んだ。

「デリルの花だよ!!!…………ほら半年前にエリュシオンの方々が西のドラゴン討伐に向かっただろう?……先週討伐は無事に成功したから来週から街を挙げてのお祭りだ。ユウは周囲に関心がなさ過ぎるんじゃないか?」

店長から告げられて裕子は、ああと思い至る。

(確か………凄い英雄が所属してるギルドだっけ?エリュシオン?……ふーん。凄いわねぇ、……………ドラゴン討伐。漫画や映画みたいだわ)

「…………どうしてこのお花何ですか?」

気になったので聞いてみる。この国の事を学んだ時に特にこの花が特別な意味を持つとは習わなかった。

(デリルの花。………………あんまり見たくないわね)

たった3回、一度目の痴漢事件を除けば2回しか会っていないのに裕子はディアの事を忘れられなかった。イケメンで好みのタイプだったからと言うのも有るけど彼が最後にまた会いに来るような事を言ったのが悪い。何日も楽しみにディアの事を考えていつ来るんだろうと首を長くして居た。そうしてディアの事を考える内に彼に恋をしてしまったんだと思う。趣味も合ったし彼のとろんとしたエロい顔はめちゃくちゃ好みだった。

「デリルの花は特に特別な意味は無かったけど英雄様がこの花を大変お好きなようだ。……………なんでも幸運の花なんだとさ」

そう言って店長は笑う。


(幸運の花ね……。………………そんな事無いわ)

裕子の気分は沈む。3ヶ月ディアが会いに来なくて裕子は忘れようと思った。なのにこの花を今日見て忘れようと誓ったあの日からまた3ヶ月振りに彼を思い出してしまった。

(……………………街中この花で溢れるのよね?最悪……………。またあの店に行こうかしら?新しい出会いが有れば……ディアの事は忘れられる?)

そう思うのだがあれから一度も足は店に向かなかった。


(…………………はあ)





◆◆◆◆◆◆





街を歩くとやはり何処もかしこも花で溢れていて裕子は視線を地面に向ける。

(…………この花……嫌いになりそうだわ)

街は賑わいそこかしこで英雄を称える声が響いていた。

ギルド、エリュシオン、SSSランクの英雄。

《鉄壁の守護騎士》

今回の討伐に一番貢献したのがその人らしい。白銀に輝く全身甲冑姿でその容姿も性別も名前も不明。2メートル近い巨体らしいが実は中身は美少女なのでは?と言う噂もあるらしい。どこの世界もそういう話が好きよねと裕子はクスリと笑う。

(……………凄い世界よね。……SSSランクの英雄、私には一生縁はないわね)

デフォルメされて飾られた騎士のぬいぐるみを眺めて裕子は思う。この世界にSSSランクの英雄は8人しかいないらしい。お城で学んだのだ。SSSとは強さを表すレベルの最高ランク。人間を辞めた化け物。そう言われるくらい強いらしい。その中でも今回の討伐に貢献したと言う鉄壁の守護騎士はその8人の中でも最強の防御力を誇るそうだ。

彼?彼女?それはわからないが守護騎士に攻撃を当てられる者はこの世には居ないとさえ言われている。攻撃力には欠けるそうだが守りに徹すれば最強なんだそうだ。

風に赤い花びらが飛ばされて裕子の目の前をハラハラと花びらが散る。


(………………………お祭りなんて早く終わればいいのに。英雄もドラゴン討伐もどうでも良いわぁ………)





◆◆◆◆◆◆




また数日が経った。朝早く店に向かうと何故か慌てた様子で店長が駆けて来た。

「ユウ!!!!君、一体何したの?!………………………警察がユウを出せって朝早くから来たんだよ……。もしや何か犯罪でもしたの?」

その言葉に裕子は一瞬ポカンとして、すぐに青ざめた。

(警察っ?!……………っ……なんで今更………もしかして……………ディア?)

心当たりはディアの件しか無い。どうして今更?そう思ってハッとする。

《痴漢行為》

2回目はディアからの提案だったがあの時は彼も性的な事に興味が有って勢いでしてしまったのかも知れない。そして後からよくよく考えてやはり裕子に対して怒りが湧いたのか、それとも誰かに打ち明けて通報するように言われたのか……考えると色んな可能性は有る。

(………………やっぱり後から後悔したのかしら?……………そう。だから会いに来なかったのね)

そう考えると胸が痛む。顔色を悪くした裕子を見て店長の顔色もドンドン悪くなる。多分否定しない裕子の態度から察したのだろう。

「と、とりあえず中で待たせているから。……………ユウ、罪はしっかりと償うんだよ?…………悪いけど店はクビだ」

そう言われて裕子はコクリと頷く。

(………………ふふふ、人生終わったわ…………)

なんだか胸が苦しくて気分も悪い、抵抗する気なんて全く起きない。大人しく店長の後を付いていくと強面の警官が居た。

チラリと裕子を見てそして言う。

「…………………ディアと言う男を知っていますね?………………ついて来てもらえますか」

そう言われてやっぱりなぁと裕子はまた胸が苦しくなる。

(………………そうよね。やっぱりそうよね)

もしかしたら何か別件かと考えたがやはりディアの痴漢(痴女)行為の件だった。

特に手錠などはされ無かったが逃げる気も起きない。大人しく警官の背を追う。店を出た所でまた風に吹かれて赤い花びらが舞った。

(………………………嫌いよこんな花)

落ちた花びらを足で踏みつけて裕子は男の背を追った。

(………………痴女行為ってこっちの世界では何罪なのかしら?2回目のアレは向こうからの提案だったんだし………大目に見てくれないかなぁ。…………………逮捕なんて初めて……ってそれはそうよね。………………………………悲しい)






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