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第四章:万世流転編
第四話「誰がための戦い」 その序
しおりを挟む皇国軍の軍備についていえば、この頃はすでに成熟期に入っていたのは間違いない。
諸国が軍備拡張に勤しんでいるのを尻目に、彼らは“これ以上軍拡できない”というところまで来ていたのである。
それは予算的なものよりも、純粋に人的資源的なものが原因であった。どれだけ兵器を造ろうとも、それを運用する者たちがいなければ何の意味もない。そして軍備はあくまでも祖国防衛の手段であるとする皇国の民が、必要以上の軍備拡張を許さなかったという理由もあるだろう。
無論、許さなかったと言っても、このあとの歴史で行われる、拡張を伴う軍備再編を否定する者はそう多くはなかった。
この時期――皇国歴二〇〇〇年代――というのは、皇国の歴史教科書を見ても他と較べて幾らか多くの記述を与えられている。それは国民の意識的にも経済的にも、また文化や政治的にも、そして軍事的にもこの時期が皇国史における過渡期であり、この時期を学ぶことは多くの意義を持っているためだ。
皇王の交代とそれに伴う国状の変化。若い皇王を戴いたために発生した、悲喜交々の祭の如き喧噪の時代――祝祭時代と呼ばれるこの時代、人々は多くの変化を受け入れた。
彼らは自分たちを守るためにあらゆる手段を講じ、それを許容した。
他国に対する意識の変化もこの時代からだろう。
彼らは自分たちが、決して幸福ではないことに気付いてしまったのだ。
結局のところ、この時代とそれ以前の数百年は、力こそが何よりも尊ばれる時代だった。文化的、文明的という言葉はあくまでも学術的な単語であり、人々の道徳観に影響を与えるものではなかった。
世界の総てを手に入れようとした国が、この時代には最低でも二つ存在した。
そして祝祭時代の半ばには、これが三つに増えた。
〈アルトデステニア皇国〉――千年の後には〈帝制アルトデステニア〉と呼ばれるこの国が、初めて超大国の前に姿を見せ、その目的の前に立ちはだかったのである。
これは超大国との敵対を意味するわけではない。
少なくとも表面的には、アルトデステニアという国は大人しく超大国に怯えた様子を見せていた。
子猫が怯えて伸ばされた手を引っ掻くように超大国の伸ばした手を振り払う、世界統一を夢想した超大国はアルトデステニアの行動をそのように見た。
子猫の弱々しい爪を見て苦笑し、決して子猫の目を見ようとはしなかった。
そこにある、凜然とした戦意を見落としてしまったのだ。
もしも超大国がこの時点でアルトデステニアを脅威と認識していたなら、世界を覆い尽くすような――実際に惑星を覆い尽くすように発生した汎空間戦争は起こり得なかっただろう。
このときであれば、超大国はアルトデステニアを踏み潰すことができた。何せ彼らがもっとも恐れた〈皇剣〉は、その機能の万分の一程度しか使用できなかったのだから。
彼らは後々にこのときの行動を悔いることになる。
生身の龍とヒトと共に戦う機械の身体を持つ龍とヒト。自由軌道を泳ぎ回るアルトデステニアの要塞を目の前にして、彼ら皇国の民が自分たちの生存に関して恐ろしく貪欲であることを悟り、戦慄した。
世の理の通り、今度は自分たちが踏み潰される側に回ったのだと。
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