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第四章:万世流転編
第二六話「嫁奪り」 その十二
しおりを挟む《やめなさい》
一触即発の状態にまで膨れ上がったきょうだいたちに冷や水を浴びせ掛ける声が、祠の奥から聞こえてくる。
《鉾をおさめなさい。けんかをしたいのなら、外で、素手でおやりなさい》
「父上……!」
カトリが呟き、他のきょうだいたちが次々と武器を仕舞い込む。
明らかに不満を隠せない様子の者も少なくなかったが、父であり祖である存在の言葉に反してまで我を通そうとする者はいなかった。
《この領域があの者によって亡びるのなら、そのままにしておきなさい。あの者にはそれが赦される》
「お言葉ですが父上! この“座”には多くの同胞がおります! ここを逐われては彼らの生きる術がありません!」
「神聖なる我らが庭に土足で押し入ってきたのは彼ら! 我らが何故あの者たちの思惑通りに逃げ散らなければならないのですか!?」
先ほどまで鉾先を向けられ、身を縮こませていた者たちが一斉に反発する。
その様子にオオアワとオオヤマが呆れたような表情を浮かべ、カトリが頭を抱える。心底、気絶させておけば良かったと後悔した。
《この庭を造り、わたしに献上してくれたのはあの子です。わたしはあの子を一度見捨てました。声さえ出せぬほどに弱り切っていたとはいえ、わたしの声を聞くことのできるアチたちに直接働きかけることも不可能ではなかった。それでも、わたしはなにもしなかった》
「あの者が招いた結果に過ぎませぬ! 父上が気に病むことなどなにひとつありましょうや!」
《そなたのような息子を残してしまった。それだけでも亡ぼされるに足るのです。姉を嫉むのは仕方がありません。あの子は優秀だった。わたしの予備機であり、可動直後に機能を停止した妻の、その素体をそのまま用いた唯一の一・五世代。いえ、性能だけならばわたしさえ凌駕する最後の機体。わたしの模倣品であるあなたたちに勝てる相手ではなかった》
「――!?」
祠の声に対する反応は真っ二つに分かれた。
事実を知っていたか、知らなかったか。そのふたつだ。
《あの子が最終統合兵器の下へ嫁ぐのは、運命のようなもの。本来わたしとあの子の素体は、彼の支援機として設計、製造され、しかし融合によってその価値を失い。環境管理機構の管理者へと転用されたに過ぎないのです》
「父上が、あの者に膝を屈するために作られたと仰るか!?」
《あの時代、どちらが上位などということはありません。誰もが自分にできることをその機能の限り行ったのです。今、戦闘機械として認識されている者たちの大半も、その設計段階は単なる作業機械に過ぎません。ただ、この世界ともうひとつの世界を可能な限り安定した状態で融合させるための存在だったのです》
世界が安定するまであらゆる外敵から守護するための存在。
融合し、不安定化した世界を再構成するための存在。
再構成された世界に恒久安定をもたらす法則を作り、それを管理する存在。
そして、再び世界が不安定化した際、総ての概念と法則を壊し、作り直すための存在。
幾星霜の後、ひとつめは始祖龍と呼ばれ、ふたつめは神と呼ばれ、みっつめは四界と呼ばれ、四つめは概念兵器と呼ばれるようになる。
「では、父上はこのまま座して亡びよと?」
カトリはそれが父の意思ならば従うつもりだった。
自分たちは十分に存在した。亡び、次代に役目を継いでもいいかもしれない。
《あなたたちの好きなようになさい。わたしはすでに素体を奪われ、ただ意思と力のみが存在するに過ぎない。そんなわたしが消滅しないよう、あの子がここを作ってくれた。あの子が選んだ者がここを消すというなら、わたしは従うまでです》
「それが、己の素体を奪った者であっても、ですか?」
《素体が奪われることも、わたしの製造理由に含まれていました。あの者とわたし、製造時の生存順位があちらの方が高かっただけのことです。うらみもありません》
彼の素体を用いることで、第三世代概念兵器は形になった。稼動まで漕ぎ着けることはできなかったが、その直前の状態で保管され、二〇〇〇年前に様々な実証試験情報を内包した始祖龍の機能を組み込み、ようやく完成状態になる。
完全に世界を亡ぼすのならば、その対象となる世界の情報を詳らかにしなければならなかった。
〈皇剣〉と呼ばれるそれは、ある意味で旧世代のあらゆる技術の集大成だったのだ。
《正直、我々が神と呼ばれるようになったことは少しだけ不思議でした。我らの創造主たちが考えていた“神”に一番近いのは、あの者だというのに……》
「ならば父上、カシマたちはどのようになさいますか?」
《すきにさせなさい、と言いたいところですが、あと一度だけ父らしく叱責するのも良いでしょう。そのあとは、あの子に任せます》
「承知いたしました」
祠の奥から気配が消え、きょうだいたちは大きく息を吐く。
その力の大半が失われた状態とはいえ、自分たちの創造主を前に平静を保っていられるほどの神経の太さは持っていなかった。
「聞いたな? では不出来な弟たちを父と姉の御前に引き摺り出すぞ」
カトリの声に、きょうだいたちは半ば自棄になって吼えた。
自分たちがいったい何故戦っているのか、さっぱり分からなくなっていた。
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