白の皇国物語

白沢戌亥

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16巻

16-2

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 軍事費は国内総生産の一割を切ったことがなく、常に膨大ぼうだいな予算が軍事関連に投入され続けてきたのだ。
 そうしなければ国を守れないという考えと、それを許せるだけの経済的余裕が皇国にはあった。
 だがすべての国がそうだったわけではない。皇国の軍備に合わせて軍事力を拡張させることは、他国にとって大きな重荷だったのだ。その重荷が対外侵略をとする風潮を作り、大陸の東方は常に火種を抱えることとなった。

「あのまま上手くいっていればと、今でも思ってしまう。それは罪か?」

 マルファスは旧来の大陸安全保障会議の研究にたずさわったひとりだ。
 この構想が実現すれば、大陸に平和が来ると信じていた。しかし、先代皇王が倒れたことで構想は蹉跌さてつをきたし、同時にマルファスは外務院次官として研究から離れて外交の最前線へ立つことになる。
 せめて自分と考えを同じくする者を外交の責任者にしたいという先代皇王の思惑もあったのだろうが、マルファスひとりでどうにかできるほど大陸の情勢は安定したものではなかった。

「先代陛下が倒れ、すぐに帝国は動き出した。それはワシがよく知っておるよ。何せ、軍務院の北方総局にいたからの」

 ガーランドは当時、〈ウィルマグス〉にある軍務院の北方総局の局長だった。軍務院の副総裁職を兼任し、すでに軍務院の総裁職を内示されていた頃でもある。
 皇王不予ふよと同時に動き出した帝国やその従属国の動きを警戒し、北方総軍総司令官と毎日のように情報交換をしていた。

「どうしようもないと思ったよ、君たちには悪いがね。帝国はすでに帝王の権力で抑えきれる状態ではなかった」

 帝王は巨大な権力を持っていたが、彼が抑えられるのはあくまで政府や軍の主流派だけだったのだ。
 地方の軍閥ぐんばつや従属国は自分たちに課せられる軍事費にあえいでいた。結果、危機感をあおった上で軍事費確保の名目で様々なところから金を集めて自分たちの立場を維持するようになった。今更いまさら戦いを終わらせろと言われたところで、はいそうですかとうなずくはずもない。

「それでも、時間を掛ければ上手くいったのかもしれない。少しずつ地方の反発をぎ落としていけば、穏当に大陸の平和を手に入れることができた可能性はある」

 だが、それは所詮しょせん夢に過ぎない。
 彼らが過去をどのように捉えていようとも、今まさに行われている大陸各地の争いを収めることはできないのだから。

「当時の伝手つてが役に立っただけ、良かったと思うべきだろう。西域は言わずもがなだが、中原もあの頃から変わらずめ事が絶えないんだ」

 ルイゼンが手元に置いてあった資料を投げると、マルファスはそれを嫌な顔を浮かべながら受け取った。
 本来ならば外務院が手にしているべき資料を、内務院が先に入手していることが気に入らなかった。

「また、我々の職分を……」
「貴様らが情けないからだ。うちも暇じゃないんだぞ」

 内務院の情報機関の最たる仕事は、国内での防諜と情報収集だ。国外の情勢を調べるのは基本的に軍や外務院の仕事である。しかし、防諜を十全に行うためには国外の情勢にも精通していなくてはならない。
 従って、内務院も国外に様々な諜報ちょうほうもうを構築しており、時折軍や外務院を出し抜いてしまうこともあった。

「まあいいじゃないか。同じ情報を複数の経路から分析するのは基本だろう」

 幾つもの情報機関が並立する目的はそこにある。
 それぞれに得意分野を持たせ、さらに多角的に情報を分析するためには、そうした体制がもっともすぐれている。
 予算不足などでほとんど情報機関を持てない中小国にくらべ、皇国はこうした部分でも大きく先んじていた。

「――情報交換は、あとで申し入れを行う」
「なるべく早く頼むぞ。連邦の役所のように一カ月も待たされてはかなわん」

 西方の民主国家群との様々なやりとりの際、意思決定の速度に大きな差があるせいで苦労させられるのは、外務院も内務院も同じだ。彼らは、自分たちの国がおよそ考えられないほど素早い意思決定が行われているとは思っておらず、民主国家群のそれが遅いのだと認識している。

「わかっている。――しかし、これはなんとも酷いものだな」

 マルファスは資料を開き、そこに記されている内容に眉をひそめた。

「あの峻嶮しゅんけんな土地で生きるのはさぞつらかろうが、よくきもせず何百年も戦争を続けていられるものだ」

 そんなマルファスの感想に、ガーランドがくく、とのどを鳴らした。
 なにを笑うことがあるのかと不満げなマルファスに、ガーランドはゆるく頭を振った。

「彼らは戦争をしているのではなく、戦争ごっこをしているのだよ。中には真剣に命の取り合いをしている国もあるが、大半は身内同士で示し合わせたいざこざを起こし、それを大袈裟おおげさ吹聴ふいちょうしているだけだ」

 ガーランドの言った通り、両陣営の戦死者は驚くほど少ない。
 幾ら小競り合いとはいえ、まったく死者が出ていない戦場もあった。

「しかし、ここ最近はその動きが変わりつつある」

 ルイゼンは会議卓の上のぼたんを押し込み、虚空に投影窓を開いた。
 そこに映っていたのは、各国の軍部隊の動きだ。

「帝国側の軍備が増強されている。しかも、かなり巧妙に隠蔽いんぺいを施した上でのことだ」
「穏やかじゃないな」

 マルファスは軍事全般に関して言えば、国内の学校で当たり前のように施される基本的な軍事教練――非常時に取るべき行動や、その理由などを教える――しか受けていない。外交官を目指していたこともあり、学友たちが将来を見据えて予備士官課程を受けているときも、それに見向きもしなかったのだ。
 予備士官課程を経て実際に予備士官に任官されると、その学生は軍籍を得る。年に何度か軍の呼集を受けて教練に参加し、最終的には予備大尉まで昇進することができた。
 ただ、皇国において予備士官が実際に招集された例はない。
 いずれの軍も士官が不足するという事態に見舞われたことがないためだ。そもそも、本土が戦場となり、それ以前の段階で部隊を率いるべき士官が多数失われた場合の補充というのが、予備士官制度のもっとも大きな目的である。そのような事態が起きていないならば、予備士官たちの活躍の場が生じるはずもなかった。
 ただ、予備士官は軍を相手にする様々な商会や、軍が一部の株式を保有している鉄道会社、貴族軍などで重宝されていたから、仕事を求める過程で予備士官となる学生たちが少なくないのだ。

「そう、穏やかじゃない。殿下の大陸安全保障会議も、突然の思いつきで作られたわけじゃないということさ」

 そう言われると、マルファスは黙るしかない。

「それに、あまり不満そうな顔をしていると、外務院の中にいる殿下嫌いの連中に、仲間だと思われるぞ?」
「あいつらの仲間!? 冗談じょうだんはよしてくれ!」

 心の底から嫌がっているであろう吸精種きゅうせいしゅの青年の声に、ガーランドとルイゼンは顔を見合わせた。
 殿下嫌いの連中――どこにでも一定数存在する反皇王派の官僚たちだ。
 彼らは自分たちの持つ権力が借り物であることに不満を抱き、常に水面下で動き回っている。
 彼らがその思想に染まった理由は様々で、外国の価値観に染まったり、師事した教育者がそうした思想に染まっていたり、あるいはそうした家系に生まれたため、ということもあった。
 彼らの特徴は、反皇王派と呼ばれながらも、皇王自体を害する意図を持っていないことだ。あくまで皇国の民として皇王を敬い、しかし自分たちの力をより大きく振るいたいと思っているに過ぎない。
 だからこそ、彼らは放置されている。組織の思想が硬直することは組織そのものの機能低下を招く。それがどれほど権力者にとって不都合であろうとも、法に則している限り弾圧するべきではない。
 しかし、これはあくまで皇王の考えだ。各官庁にとってみれば、それらの集団はこの上なく面倒な存在である。

「そんなにいやなのか? 彼らとて、別段反政府運動にかまけているわけではあるまい」
「むしろそうであれば良かった。警務隊を差し向けて逮捕できる」
「何かいやなことでもあったのかね? 普段の君らしくもない」

 ガーランドが問うと、マルファスは革椅子に深々と腰を落として深い溜息ためいきいた。この会議室の椅子は長時間の会議に耐えられるよう、魔導技術の粋をらして作られている。
 その気になれば椅子の上で暮らせると豪語する者がいるほど、座り心地のいい椅子なのだ。しかしそんな椅子も、マルファスの心をやしてはくれない。

「色々不満を持っていることは分かっているんだ。殿下が摂政せっしょうとなられてからこちら、外務院はいいところがない。ほとんどがあの方のおつかいをするだけで、以前のように我々が考案した方策を皇王陛下に上奏じょうそうし、認めてもらうということができていないんだ……」

 ああ、とふたりは同情そのものといった眼差まなざしをマルファスに向けた。
 そもそものはじめからして、外務院には逆風が吹いていた。
 あの内乱の際、連合軍と戦い、後に対話によって決着を付けたのは、レクティファールだった。
 外務院と言えば、各国に撤兵を呼び掛け続けていたのだが、彼らの権限を保障する政府が存在しない状況では、各国が彼らの言葉に耳を傾けるはずもない。
 それでもあきらめずに中立国などに仲介を依頼し、イズモをはじめ、いくつかの国から色よい返事をもらったところで、レクティファールが現れた。
 外務院がこつこつと積み上げてきた施策は、レクティファールなる存在の前には露ほどの役にも立たなかった。結局はレクティファールの意思こそが皇国の意思ということになり、各国もまたそれを受け入れた。
 外務院がようやく本格的に仕事を再開したのは、連合軍の円滑えんかつな撤退のための打ち合わせからである。

「我らは、おそらく一番あの方の恐ろしさを知っている。自分たちが地道な努力によって積み重ねてきたものが、あの方の意思ひとつで無価値になるという経験は……その……あまり好ましいものではない」

 さもあらん、とふたりは思う。
 外務院の中で反皇王派が力を持つ理由も理解できた。
 三院の中でもっともレクティファールの行動による被害を受けてきたせいで、反発もまた大きいのだ。

「物わかりのいい連中は、あの状況下では仕方のないことだったのだと分かっている。しかし、そうじゃない連中は、自分たちの仕事が直接政府に握られるのではないかと恐れているんだ……」

 官僚たちは、血のにじむような努力の末にその立場にある。
 皇国の官庁は常に多くの仕事を抱えており、余剰人員は許されない。
 馴れ合いなどもってのほか、どれだけ官庁内で栄達えいたつしようとも、職務に反したと判断されれば簡単に放逐ほうちくされる。
 そうした環境の中で鍛え上げられた者たちが、唯々諾々いいだくだくと上役の指示だけを聞いているわけがない。彼らは常に自分の能力を十全に発揮はっきさせることを求められてきたし、自らも欲してきた。だから、自分でそういった環境を作り出す努力もおこたることはない。
 それが分かっていることもあり、反皇王派であろうと誰も放り出そうとはしない。反骨はんこつじみた態度は、向上心の表れであるし、有能さのあかしでもあった。

「まあ、お前がその最たる一例であるしな」

 ガーランドがつぶやくと、マルファスはさらに小さくなる。

「誰か、総裁候補をつくろって上奏じょうそうすれば良い。お前に総裁は無理だ」

 ルイゼンは本心からそう忠告する。
 彼自身、そろそろ後進に道を譲ってもいいと思っていた。彼は元々、病に倒れた先代内務院総裁の代理として副総裁からの繰り上がりで総裁になった人物で、組織のおさとしては未熟な部分が多い。それでも職分を果たしていられるのは、内務院という組織が三院の中で最も大きく、総裁を補佐するための体制が整っているからだ。
 泰然としたその組織はあの内乱でも揺らぐことなく、皇都以外の都市での混乱を最小限に抑えることができたのだった。

「もうやった。しかし、あまり総裁の交代が頻繁ひんぱんだと、諸外国からの信頼が揺らぐと言われてな……」
「それはまたこの上ない正論であるな。さすが殿下とおめするべきか」

 ガーランドが低い笑い声を上げると、ルイゼンは自分のことではないにもかかわらず不機嫌になった。
 おそらく自分が同じように申し出ても、やはり同じような返答があるのだろうと半ば確信した。内務院総裁は国民の生活を守る立場にある。つまり、国民の信頼を損なうような真似まねはできないということだ。
 すでに一度、病による総裁の交代という不手際を見せてしまった以上、ルイゼンの交替は誰もが納得できる状況でなければならない。
 そういった状況を作るのは、彼からしても簡単ではないように思えた。

「まあよい。今論ずるべきは中原の情勢だろう。あの辺りは大昔から争いが絶えなかったゆえ、惰性だせいで争っているという面もある」
「何とも迷惑なことだ」

 ルイゼンがき捨てた言葉は、そのまま三人の本心だった。

「しかしそんな中原でも、大陸安全保障会議に参加している国もあれば、参加に意欲的な国もある」

 マルファスが言う。
 そして、手元の制御卓をたたいて中原の地図を表示し、いくつかの国を点滅させた。

「これが現在大陸安全保障会議に参加している国。また……」

 さらなる操作により、点滅していた国は点灯へ変わり、別の国々が点滅する。

「これらが参加を希望している国……そういうことだな?」
「ああ、我々の調査ではそのような結果になっている」

 マルファスの問いにルイゼンがうなずき、三人は投影窓を見上げる。
 その中にある小さな国が、ガーランドの興味をいた。

「〈グラッツラー伯国〉か。珍しいこともあるものだ。あの国は徹底して国と国の間を渡り歩き、特定の陣営につかないことで生き延びてきたはずだが……」
「情勢が許さなくなってきたということだ。ガーランドおう

 ルイゼンが手を振ると、投影窓が拡大され、くだんの〈グラッツラー伯国〉が大映しになった。

「もともとこの国は産業と呼べるようなものはほとんど持っていない。今でこそ金融業でそこそこ名が知られているが、地力のなさがそうさせているに過ぎない」

 伯爵国という名前を持ちながら、それを封じた国はすでにない。
 大陸のほぼ中心という立地にありながら、立地を生かすには国土はあまりに峻嶮しゅんけんであり、土地が養える国民の数は多くなく、自国を防衛する軍事力をあがなうには心許ない。
 かつては武装中立という選択肢が議論されることもあったようだが、結局は軍事力を整備する前に他国の侵略を受けると判断された。
 ならば徹底的に他国の間を渡り歩き、自分たちと戦うことが相手にとって損にしかならないという条件を整える。最終的に、それが彼らの生存方法となった。
 だがそこへ至るのは、決して平坦な道ではなかった。
 常に戦乱が起きている中原にあって、彼らのような小国が生き残るのは容易たやすいことではない。場合によっては争いを裏で操るようなこともおこなってきた。

「彼らは帝国と敵対することを選ぶつもりかね?」

 ひげをしごく岩窟小人ドワーフの老人が疑問に思うのも無理はない。〈グラッツラー伯国〉の立地は帝国陣営とされる中原国家に近い。間にあるのは同じ小国で、周辺の国々と同盟を組んでかろうじて独立を維持しているような国ばかりだった。

「あの辺りは、確か帝国の第三皇子が執心しゅうしんだっただろう? 小国が必死に抵抗しているのを見て楽しんでいるのではないかと思ったこともあるが……」

 ルイゼンは悪趣味なことだと内心でこぼしつつ、マルファスの顔を見る。
 彼の同僚はうなずき、再び制御卓を操作した。

「これが、帝国陣営と目される国だ」

 明確に旗幟きしを示していない国の中にも、当然帝国になびいている国がある。
 あくまで中立に見せかけているだけであり、帝国と敵対する陣営との貿易などのために、帝国から意図的に中立を維持させられているに過ぎない。
 それらの国を通すことで、帝国との間で様々なものが取引されているのだ。
 取引されるものとしては、金もあれば生き物もあり、情報もある。
 ゆえに中原は、大陸の情報員の一割がそこに集まっているとされる、実質的には紛争地帯だった。

「どうにも、次の戦いは地域紛争では終わりそうもない。当然、彼らも中立を維持することが難しくなる」
「敵対する二者がいなければ、その間を飛び回ることはできない。蝙蝠こうもりにとっては死活問題となる」

 ルイゼンは何度もうなずき、ふところから取り出した情報端末を制御卓の上に置いた。
 自動的に情報が交換され、新たな映像が浮かび上がる。

「おい、これはなんだ?」

 それを一瞥いちべつしたマルファスが、ややげんなりとした表情でルイゼンを見遣る。
 投影窓に浮かび上がったのは、華やかでつややかな衣裳いしょうに身を包んだ女性たち――女性と呼ぶにはいささか年齢が足りない者もいたが――だった。

「見合い写真らしいぞ。いやはや、グラッツラー伯爵は実に子沢山であられる」

 肩をすくめるルイゼンと、がっくりと肩を落とすマルファス。そして、それを眺めて苦笑するガーランドと、三者三様の姿が展開され、そして意識を引き戻したマルファスによって、再び場は動き出す。

「外務院はまだこの情報を手に入れていないぞ」
「それはそうだ。これはグラッツラーに出入りする商人が今朝方手に入れたものだからな」

 つまり、確度をあらためるよりも先に持ち込まれた情報ということだ。
 とはいえ、大きくずれている可能性は低い。兆候ちょうこうだけならば、外務院も掴んでいたからだ。

「確かに以前、殿下の妃候補にグラッツラーも手を挙げた。あのときは国内の問題を優先したが、そろそろ再度の申し込みがある頃だ」

 婚姻こんいん外交というものが一部の国――主に民主国家群など――から批判されていることは間違いない。人を政治の道具として用いることは人道に反すると。
 だが、これほどまでに分かりやすく、また効果の高い外交の道具はない。人と人を結ぶことで国と国を結び付けることができるのだから、費用対効果も大いにすぐれていると言えるだろう。

「それで、外務院は誰を殿下に推挙するつもりなのだ?」

 機族の持つ、感情をうかがうことのできないひとみに射貫かれ、マルファスは一瞬だけ息を詰まらせた。
 そうだ、自分が推挙しなければならないのだ。そんな当たり前のことも忘れていた。

「――まだ正式に打診があったわけではない。ここで答えることはできかねる」

 外務院総裁としてはそう答えるしかない。
 様々な調整を行い、ようやく皇太子に推挙することが可能になる。そして、推挙するにも様々な根回しが必要になるのだ。

「これまでの婚儀のように易々とは進むまい。友好国や仮想敵国から迎え入れるより、中立国からの輿入こしいれの方が面倒が多い」
「さもあろうの。時期を間違えればそれだけでグラッツラーが滅ぶ。輿入こしいれが原因で両陣営が全面戦争に突入するなど考えたくもない」

 ガーランドは笑いながらそう言っていたが、目はまったく笑っていなかった。
 実際、婚礼が原因で戦争が起きた例は歴史上に存在するのだ。また、この国では国内にも事前に調整を行わなければならない場所がある。

「後宮の説得はどうする? 近衛このえに託すのが一番適当であろうが、そのための材料も用意しなければなるまい」
猊下げいかたちは理が分からぬ方々ではない。説明すれば理解も納得もなさろう。ただ、俺は嫌われる」

 マルファスはごくごく真面目な表情で断言する。

「すでに嫌われているのは確かだが、わざわざ龍の尾を踏み抜くことはしたくない」

 マルファスが、というよりも、レクティファールを摂政せっしょうとしてぐうそうとする者たちはほぼ全員が妃候補にうとんじられていると言っても過言ではない。
 彼女たちにとって、レクティファールとは愛すべき男であり、それ以上でもそれ以下でもない。そして、そんな立場こそが彼女たちにこの国が求めたことだった。

「では、周囲から埋めていくしかあるまい」

 ガーランドの言葉にふたりがうなずく。
 これまでと何ら変わらない。まず、妃候補たちの周囲から納得させていくのだ。
 説得するための手段は多い方がいいし、嫌われている自分たちよりも近しい者たちの言葉の方が正しく伝わるはずだ。

「では、それぞれ役目を果たすとしようか」

 ルイゼンのその言葉で、三総裁会合は幕を閉じた。


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