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009 黒崎陽菜004

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「それでねっ結局理恵ちゃんと真雪ちゃんはほかの店に移動しちゃって、私は一人でパンケーキを食べ事になったの。パンケーキはすっごく美味しかったけど、1人っきりで食べるなんて信じられないわよね。生徒自治会長だか何だか知らないけど、知り合いを贔屓するなんてろくな教育を受けてないんじゃないんじゃないかしら?黒縄家って黒崎の宗家なんでしょう?それなのにそこの子供があんなんだなんて、月菜もそうなんじゃないかって思ったら私不安でいっぱいになっちゃったわ。月菜だって私のために仕方なく引き取られたのに、もしかしたら家の中でいじめられてるかもしれないわ。姉としてそれは助けてあげないといけないと思うのよ。ママはどう思う?」
「そうねえ、黒縄の家の次男と言えば次期跡取りだけれど、陽菜をないがしろにして白妙の娘たちを贔屓する何て、今後のことが不安だわ。陽菜のことはもちろんだけど、そうね、月菜もどんな扱いを受けていたのかしらね。でも、陽菜はやっぱりいい子だわ、十何年も離れていた妹の心配をするなんて、最高の娘だわ」

 結局、今日の昼食は日を改めて約束をしてはどうかということになって、騒がしくしたからって理恵ちゃん達は店を出ていっちゃったのよね。予約までしてたのに直前でキャンセルとか、常識がないのかしら?
 それにしても黒縄有人って人。かっこいいけど嫌味な性格よね、なんであんな人が生徒自治会の会長になんてなれたのかしら?家の権力でも使ったんじゃないの?
 私はもちろんお店に残ってパンケーキを食べてあげたけど、なかなかの味だったわ。でも前にママと一緒に行った有名店のほうが盛り付けも豪華だったし見栄えが良かったわよね。所詮は学院内のカフェってところなのかしら?
 他の店もそうなんだったら嫌だな。お弁当を持ってサロンやテラスとか中庭で食事してもいいっていう話しだし、栄養面でのことを考えたらそっちにしてもらったほうがいいかもしれないわね。栄養面をそれほど気にしなくていいとはいえ、急にカロリーの多いものを食べたり、変なものを食べたら体調が崩れちゃうかもしれないわいもの。
 それにしても、月菜も可哀そうよね、あんな家族に囲まれてたんじゃ愛情を受けて育てられてたとはとっても思えないわ。私がママとパパの愛情を一人占めしたことをもしかして恨んでいるんじゃないかしら?なんか暗いっていうか私に何か言いたそうな顔でこっちを睨んできてたもの、私が月菜に同情してあげてるっていうのに、あんな態度はないわよね。姉に対する敬意っていうものがないのかしら。
 やっぱり黒縄の家でいじめられて卑屈になっちゃったとかそういう感じなのかも、可哀そうだけど、私に対して悪意をぶつけてくるんなら庇ってあげる価値もないわよね。
 でも私ってばいいお姉ちゃんだから、無理やり連れていかれた月菜のことをちゃんと心配してあげてるの。私のために仕方なく黒縄の家に引き取られたんだし。
 でも、黒縄の家って宗家なんだからいじめを受けててもいい生活が出来てたはずよね。深窓の病気で苦しんでた私とは大違いの良い生活だったはず。それなのに私のお見舞いに一度も来なかったなんて、本当に失礼だわ。実の姉をなんだと思ってるのかしら。
 きっと黒縄の家でいじめられてひねくれた性格になっちゃったのね。だからきっと黒崎の家に残った私のことを恨んでるのかも。でも、私はちゃんと月菜のことを恨んだりしないで普通に接してあげなくちゃいけないわよね。私ほどじゃなくっても、いじめなんてものを受けてひねくれてるだけなんだから、私が気にしてあげてるってわかればこの私のありがたみがきっと分かるわ。

「月菜はきっと黒縄の家でいじめを受けてたんだわ。だから私のお見舞いにも一度も来なかったんだと思うの。外に出されなかったのかも、家でいじめを受けてることを言いふらされないように監視されてたのかもしれないわ!」
「黒縄の家がそんなことをしているとは思えないけど、陽菜がそういうならそうかもしれないわね。でも月菜は黒縄の家に入る時の条件に、縁を切るっていうものがあったからお見舞いに来れなかったのよ。もしその条件がなかったら毎日でも陽菜のお見舞いに来ていたに違いないわ。本当は陽菜にも月菜にあまり関わってほしくはないんだけど、姉としてそんなに妹を想っての行動を止めるなんて、ママにはできないわね」
「ママならわかってくれると思ってたのよっ」

 ママに抱き着いてそういうと、ママは私がいい子だって褒めてくれる。
 心臓が悪かったときは大声を出すことも良くないって言われてたぐらいだったし、こうして抱き着くこともあんまりできなかったから、退院した今は思いっきり抱き着けて嬉しいわ。
 そういえば、退院してから夢だったんだけど恋をして彼氏を作ってみたいのよね。顔だけなら有人君も十分に対象になりそうだったんだけど、あんな性格が悪かったら恋の対象にはなりえないわよね。
 まあ、向こうは私に恋しちゃうかもしれないけど、それは仕方がないことよね。
 私ってば、心臓の病気を抱えても健気に努力して直したっていう努力家だし、顔だって十分にかわいいし、正確だって妹を思いやるぐらい最高にいいんだし、恋をされない方がおかしいわよね。
 でも残念だけど、性格が悪い有人君はお断りだなぁ。月菜をいじめてるかもしれないし、私がもし黒縄家にお嫁に行っても嫁いびりがあるかもしれないものね。宗家なんてお堅いところに行ったら心臓病が再発しちゃうかもしれないわ。そうなったらぜったいいびられて追い出されちゃうのよ。
 それにそもそも私は黒崎の跡取り娘だから、お嫁に行くのは難しいかもしれないしね。いいお婿さんを貰いなさいってママもいっつも言ってるもんね。
 そういえば、関係ないけど部活動は何に入ろうかな?理恵ちゃんは運動部系だって言ってたし、一緒には入れないわよね。真雪ちゃんも運動部だって言ったっけ?どうでもいいから忘れちゃったけど、文化部系の部活や研究会じゃないとだめよね。かといって堅苦しそうなところは嫌だし、どうしようかなあ。
 部活や研究会に入るのは強制じゃないって話しだし、入らなくてもいいけどほとんどの子は何かの部活化研究会に入ってるみたいなんだよね。
 どうしようかなあ。ママは茶道部とか華道部とか、日本行事研究会とかが良いっていってるけど、地味なイメージが強いんだよねえ。あとお高くとまったお嬢様が多いイメージ。実際に見学もできるみたいだけど、それも億劫なのよねえ。どうせなら私が活躍できる部活か研究会がいいし。
 演劇部なんてどうかしら?スポットライトに照らされた私ってきっとすっごくかわいいと思うのよね。劇の主役は私に決まり!ってみんな言うに決まってるわ。入部届を持って行った私を見た瞬間、皆が皆私に注目をするの。

「ママ、私、演劇部に入ろうかなあ」
「まあだめよ!あそこは文化部なんて嘘っぱちの体力勝負の部活なのよ!陽菜に何かあったらどうするの」
「え、そうなの?じゃあやめようかしら」
「茶道部や華道部がいやなら、日舞なんてどうかしら?着物を着て舞台の上で踊る陽菜はきっと綺麗よ」
「着物なんて苦しくって無理よ」
「そう?陽菜にぴったりの部活や研究会があればいいんだけど、茶道部だったらママも入っていたしいいところよ」
「いーやっ」
「だったら園芸部はどうだ?パパが入っていたんだ」
「虫が出たらどうするの?絶対に無理よ被れたりしたら私の体が大変なことになっちゃうかもしれないじゃない」
「そうか」
「ああそうだわ!華道部じゃないけどフラワーアート部なんて言うのが新しくできたんですって。着物を着たり堅苦しさのない自由な部活だって入学説明会の後の保護者会で聞いたのよ」
「ふーん、フラワーアートねえ」
「意外と体力勝負だって聞いたぞ、力を使うって言ってたじゃないか。陽菜のか弱さで出来るかどうかわからないぞ」
「力には自信がないもんね。あーあ、私ってば本当に心臓が悪い性で色々今でも制限されちゃって困っちゃう」
「かわいそうに。月菜は健康な体で生まれて黒縄の家に引き取られたっていうのに、陽菜はこんなに苦労して」
「黒縄の家でも月菜を表に出してきたのはつい最近だと聞くし、本当にいじめられているとしたら黒縄家に文句を言ってやたらないといけないな。大切にするというから月菜を引き渡したというのに」
「まったくだわ!お金で子供を買うような真似をして最低だったわよね。こっちが分家で何も言えないからって、失礼な話だわ」

 やっぱりお金でやりとりされる程度の価値しかない月菜は、黒縄の家でいじめられてるに決まってるわよね。私みたいにお金に変えられないほど愛されてないとか可哀そう。
 まあそんなことよりも私の入る部活か研究会よね。確か、白金玲一先生が天文学部の顧問をしてるって紹介があったわよね、ママが仲良くしておくほうが良いって言ってたし、天文学部にしようかな。

「ねえママ、天文学とかどうかな?白金先生が顧問をしてるって言ってたわ」
「あらそれはいいわね。玲一さんの居る部活なら安心だし、でも天文学部って夜に出かけなくっちゃいけない時もあるのよ。そんなときは必ず玲一さんかママがこの人ならいいっていった人の傍を離れちゃだめよ」
「わかったわ」

 翌日早速天文部に入部届を出しに行ったら、10枚ぐらいある問題用紙を手渡された。なんでも入部するに値するか判断するための問題らしいのよね。
 来週までに提出してくれれば採点するけど、それを越えればもう入部資格はなくなるとか、何様のつもりなのかしら?この私が入ってあげるって言ってるのに、テストを出すとか神経を疑うわ。
 問題は簡単な者から専門的なものまであって、ネットで調べなくっちゃいけないような問題がいくつもあって、本当にめんどくさかったけどママとパパに手伝ってもらって2日後には提出してやったわ。
 採点はもちろん合格よ。

「ようこそ天文学部へ。ごめんなさいね、白金先生目当てで来る生徒が多くってあんな問題を出すようになったのよ」
「まあ、あの程度解けないなら天文各部に入れなくって当然よ」
「まさか全問正解するとは思わなかったわ。白金先生目当てでも全問正解するほど天文学をまじめに勉強する気の在る子なら大歓迎よ!私は八白円、同じ学年だけど私は情報処理科よ」
「そうなんだ。黒崎陽菜よ、陽菜って呼んでね」
「陽菜さんね、わかったわ。・・・・・・ああ、貴女が噂の黒崎陽菜さんなのね」
「噂?」
「心臓が悪いんでしょう?夜の課外活動とか大丈夫なの?」
「ええ、ママが白金先生の傍を離れなければいいって言ってくれたわ」
「え・・・」
「白金先生って顧問なんだし、重要な生徒を保護するのは当然のことだし」
「でも、あんまり馴れ馴れしくしたら理恵さんが良く思わないんじゃないかしら」
「なんで?」
「だって、白金先生の婚約者が理恵さんだもの」
「婚約者がいるの!?」
「色付きの家の上位は大体いるわよ。私だっているし」
「色付きの家なの?」
「白の7位、八白家の長女よ。婚約者は石塚明っていうの。同じ天文学部だから会うこともあると思うわ」
「そうなんだ」
「他にも、同学年なら・・・」

 円ちゃんが色々説明してくれた中に、月菜の婚約者がいるっていう部分にびっくりして大声を上げてしまった。

「月菜は私の双子の妹なのよ。お金で黒縄に買われてる可哀そうな子なの。きっといじめを受けてるんだって思うのよね、私のお見舞いにだって一度も来たことがないのよ」
「それはないと思うけど。黒縄のご兄弟の仲の良さは学院では有名な話よ」
「そんなわけないじゃない。あ、でも外ではそういう風に取り繕ってるのかもしれないわね」
「・・・貴女、変な人って言われたことない?」
「なにをいうの?ひどいことを言うのねっ。私が言うことに間違いがあるわけないわ」
「言っておくけど、黒縄家や白金家に手を出さない方がいいわよ。現在この学園で色付きのトップなんだし、特に黒縄は罪に大して厳しい家柄よ。婚約者の妹が黒縄の次男の婚約者だけど、今から徹底的に正しくあるようにって叩き込まれてるって言ってたもの」
「ふーん、大変なのね。じゃあ月菜が表に長年で何勝ったのって、その正しくあるっていうのが出来てなかったからかしら?出来の悪い子なのね」
「は?月菜さんは特殊なご病気というか、特殊な力の代償に言語表現能力に弊害が出てたから表に出ていなかっただけよ。木地の家の湖の貴婦人と相性が良くってよく訪ねてたって言ってたし、その時はご兄弟の誰かが必ずご一緒だったと聞いてるわ」
「なにその湖の貴婦人って」
「なにって、古き神々の1柱の通称じゃないの。ああ、でも入院生活が長かったんだしそう言うことにはあんまりタッチしてなかったのかもね。でも、木地の家に頭でも下げるか、月菜さんに頭を下げれば、霊水を飲ませてもらえたかもしれないのに、ご両親って随分プライドが高いのね」
「霊水?まさか飲むと病気が治るとか、そういうの信じちゃってるの?この時代にバッカみたい」
「っ・・・。信じられない、黒崎の家ってどういう教育をしてるの?一般家庭ならまだ知らず、色付きの高位の家が神を信じないなんて、なんてこと!」
「神様は信じてるけど、霊水とか信じられないしそんなのがあったらママとパパが私に飲ませないはずないもの」

 せっかく天文部に入ったのに、わけのわからないことを言う子が一緒だなんてついてないな。それにしても色付きの高位の家の子供は婚約者がいるんだ、。だったら私にも早く婚約者を作らなくっちゃだめよね。
 白金先生はカッコいいけど私に冷たかったし、有人君もだめね、性格が悪そうだわ。
 私に相応しい人が早く現れないかしら。
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