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グリニャック聖女編

019 最期の日と、未来への布石

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【エルネット視点】

『今は大人しく元の体にお戻りあそばせ!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 グリニャックの言葉に、あたしの意識は押し戻された感覚がして、叫び声と共に目を覚ました。
 なによ、なんなのよ! せっかくプリエマに復讐してる途中だったのに、グリニャックってば余計なことを!
 もうちょっとであの女の首を噛み千切る事が出来たのに!

「まあ、目が覚めたのね」
「……誰よ、あんた」
「貴女を看病していた医師よ。首の傷はふさがったのに、貴女がなかなか目を覚まさないから、心配していたのよ」
「傷の手当なんて、余計なことをしなくてもよかったのに」

 どうせ処刑されるのに、なんで命を救われなくちゃいけないの?

「国王陛下も、心配していたのよ?」
「どうせ処刑される小娘に、同情でもしたのかしらね」
「そんな事、言うものではないわよ」

 あたしは看病をしてくれてたって言う、女医師を見る。
 なんか、懐かしい感じの空気がするわ。

「……だって、どうせ死ぬんだもの。プリエマを道連れにしてやりたかったのよ」
「そんなに、プリエマ様が憎いの?」
「ええ、憎いわ。あの女がちゃんと行動をしていれば、あたしはこんな目に合わなくて済んだのよ」
「そう……」

 ……もしプリエマがあたしよりも先にアーティファクトを発見していれば、あたしは別の推しにアタックしに行けたのに。
 そう考えていると、この牢屋に向かってくる複数の足音が聞こえて来た。

「エルネットよ」
「国王陛下……。どうしてあたしを生かしているんですか? どうせ処刑するんなら、放っておいてくれればよかったのに」
「そなたには、自分のしたことを悔い改めて欲しいのだ」
「……そんなの、何の意味があるんですか」

 どうせ死んじゃうのに。

「プリエマを、道連れにしたかったのに」
「エルネットよ、だからと言って生霊になるまで恨むというのは、行きすぎなのではないか?」
「国王陛下にはわかりませんよ、この気持ち。あたしは本気でウォレイブ様が好きなんです」
「そうか。それほどに想われるというのであれば、ウォレイブも喜ぶだろう」
「そんな事、ないですよ。あたしは、ウォレイブ様に嫌われてますから」

 そうよ、ウォレイブ様にはもう嫌われちゃってるのよね。ウォレイブ様はプリエマを選んだから、そのプリエマに呪詛を吐いたあたしは、もうウォレイブ様に嫌われてるのよ。
 プリエマが居るせいで……。
 あたしは自分で切った首の傷に触れる。プリエマの首を噛み千切ってやりたかった。

「エルネットよ、ウォレイブの他に、好いている男はいないのか?」
「え?」

 ……ウォレイブ様以外に好きな人? そんなの今更じゃない。処刑されるあたしが何を言っても無駄よ。

「もう、潔く殺してください」
「エルネットよ、本当にそれでいいのか? 悔いはないのか?」
「……プリエマを、地獄の底に引きずり落としたいです。死んでも、恨んで、呪ってやりたいです」
「それはならぬぞ、エルネット」
「そんなの、国王陛下には関係ないじゃないですか。プリエマ一人が死んだって、ウォレイブ様には他にも婚約者候補がいるじゃないですか」
「エルネットよ……。なぜそこまでプリエマを恨んでいるのだ?」

 国王陛下の言葉に、あたしはだんだんおかしくなってきて、思わず笑いがこみ上げてくる。

「プリエマにも、アーティファクトを発見できる知識があったくせに、何もしないで、ただウォレイブ様に愛されているんですよ。あたしは、あんなに苦労してやっとアーティファクトを探して、やっとウォレイブ様の婚約者の地位を得たっていうのに、あの女は、何の苦労もしないで、ただ生きてるだけでウォレイブ様に愛されてる。これを恨まずにいて、何を恨めって言うんですか」
「……エルネットよ、どうしてもプリエマを許せないのか?」
「許せません。プリエマだけは、何があっても」

 あたしの言葉に、国王陛下はため息を吐き出す。
 しかたがないじゃない、プリエマの事は絶対に許せないんだもの。あいつがちゃんとしてくれていれば、あたしはあの人を落としに行ったのに。

「……ルネストル様」
「ん?」
「あたしが、ウォレイブ様の次に好きな人です。幼馴染なんです。でも、あたしが変わっちゃったから、もうルネストル様も、あたしの事なんてもう、忘れてると思います」

 ゲームの中の攻略対象じゃ、そんなに人気のある方のキャラじゃないけど、ゲームの記憶を思い出すまで、あたし達は確かに仲のいい幼馴染だったのよね。
 でも、ゲームの記憶を思い出して、あたしは学園でも家でもルネストル様を無視して、アーティファクトの探索に熱を上げていた。
 ウォレイブ様の正妃になりたかったから。

「では、そのルネストルという者を連れてくれば、少しはそなたの気も紛れるか?」
「罪人の元に来てくれるわけないし、来たからってどうなるっていうんですか」

 あたしはやけくそ気味にそう答える。

「グリニャックが言っておった。そなたがウォレイブの次に好いてる者と引き合わせれば、少しはプリエマへの恨みも薄れるのではないかと」
「……あはは、そんな事言ったんだ。グリニャックってば、頭いいくせに馬鹿なんだから。そんな事したって、あたしのプリエマへの恨みは晴れないのに」

 そんなことで、恨みが晴れるんなら、生霊にまでなってプリエマに憑りついたりなんてしないわよ。

「そうか」

 国王陛下はそう言って牢屋の前を立ち去っていく。
 こうなったら、とっとと処刑してくれないかしら? そうしたら、今度こそプリエマを道連れに地獄に落ちてやるのに。

「エルネット様」
「なに?」
「涙を拭くのに使ってください」

 そう言って、清潔そうなハンカチを差し出された。気が付かなかったけど、あたしは泣いているらしい。

「あーあ、どうしてゲームの記憶なんか思い出しちゃったんだろう」
「ゲームの記憶というものはわかりませけど、重大な事がエルネット様に起きたのですね」
「そうよ。神様がくれた、一生に一度のチャンスだったはずなのにね。なんで、なんでこんなことになっちゃったのかな」

 あたしの目からは、ポロポロと涙がこぼれていく。

 あれから何日たったのかな? あたしは処刑の毒杯を与えられることもなく、毎日をこの牢屋の中で過ごしている。
 あーあ、早く殺してくれないかな。早く死んで、この人生から脱出したい。
 いつものように、自殺防止の為だろうけど、ナイフやフォークを使わなくていい、スプーンだけで食べることの出来る食事をもそもそと食べていると、牢屋に近づいてくる足音が聞こえた。
 監視の女騎士の交代には早いし、食事も今来たばっかりで下げに来るのも早いし、一体誰が来たのかしら。
 そう考えていると、足音が牢屋の前で止まった。

「エルネット」
「……ルネストル様」

 なんで、こんなところにルネストル様が居るの? 別にルネストル様に会ったところで、あたしのプリエマに対する恨みは薄れないって言ったのに。

「エルネット、久しぶりだな」
「そうね」
「……国王陛下から、エルネット様に会ってやってくれって、勅令が出たんだ」
「そうなんだ。ごめんね、こんなところに来させちゃって」
「いや、気になってたから構わない。エルネットが変わっていったのを、止められなかった俺も悪かったんだと思うし」
「ルネストル様は悪くないのよ。あたしが、選択肢を間違っちゃったのよ。男爵令嬢の分際で、ウォレイブ様の正妃になりないなんて思わなければ、こんなことにならなかったのにね」
「いつから?」
「え?」
「いつからウォレイブ様が好きになったんだ? 昔は、そんなこと一言も言ってなかったよな」

 いつからって、ゲームの記憶が戻ってから。それまでは、ルネストル様の事が好きだったのよ。
 あたしはその言葉を言えずに、黙り込んでしまう。

「エルネット?」
「……あたし、学園に入るまでは、ルネストル様の事が、一番好きだったよ」
「そうか」
「でも、神様が、この世界の記憶を思い出させてくれて、あたしはウォレイブ様の事が好きになっちゃったの」
「そうか」

 あたし達の間に沈黙が流れる。

「エルネット、俺もエルネットの事が好きだったよ。お前が変わっちゃうまで、だけどね」
「うん、あたし、変わっちゃったよね」
「神様が、余計なことしなけりゃ、俺達どうなってたんだろうな」
「どうかな? わかんない」
「……国王陛下から聞いたんだけど、プリエマ様の事を、すごく恨んでるんだって?」
「うん、殺したいほど恨んでる。ただ生きてるだけで、何もしないでウォレイブ様に愛されて、……世の中不公平よね」
「プリエマ様は、本当に何もしていないのか?」
「本当なら、アーティファクトだって、プリエマが発見しなくちゃいけなかったはずなのよ。それもしないで、ただ愛されるなんて、そんなのってないよね」
「そうなのか」
「うん」
「でも、俺達はしょせん男爵家の人間だろう? 王族なんて雲の上の存在じゃないか」
「だって、この世界の記憶を思い出したら、ウォレイブ様の事、諦めたくなくなっちゃったんだもん」
「そっか……」
「でも、でもね……。駄目だったよ。あたし、このまま処刑されちゃうんだ。国王陛下をアーティファクトを盾に脅迫した罪で」
「脅迫は良くないよな」
「あたしは、必死だっただけなんだけどね」
「そうなのか。でも、国王陛下を脅迫は駄目だな」
「……だって、必死だったんだもん」
「エルネット、お前は変わっちゃったな」
「うん」

 あたしは、この世界の記憶を思い出してすっかり変わっちゃった。それは確かに事実よね。
 でも、それでも、プリエマの事は許せない!
 ヒロインに生まれて、ゲームの記憶まであるのに、ゲームの内容を全くしないで、それなのに、ウォレイブ様に愛されて、守られて! そんなのっておかしいわよ!

「……もう、俺は戻らないといけない時間だな」
「そうなの。来てくれてありがとう」
「いや、これが最後だな」
「うん、最後だね」
「じゃあな、エルネット」
「うん。じゃあね、ルネストル様」

 あたしの目から涙が流れる。
 本当にどうしてこんなことになっちゃったのかな。ゲームの記憶さえ思い出さなかったら、もっと別に人生を歩いていたんだろうな。
 どんな人生だったのかな? わかんないや。
 あたしは立ち去っていくルネストル様の背中を見るのが辛くて、牢屋の奥に行く。
 ……好き、だったよ。ルネストル様。
 あたしはそう考えて目を閉じる。閉じた目から、また涙がこぼれた。

 それからさらに数日後、あたしの目の前には無色の液体が入ったワイングラスがある。
 国王陛下自らが持ってきてくれた、毒杯。
 苦しまない様に、王家の秘薬の毒を使ってくれてるらしい。
 あーあ、これであたしの人生も終わりかあ。
 こんな結果になるんだったら、ゲームの記憶なんて思い出さなければよかった。
 今更遅いけどね。
 あたしはワイングラスを手に取ると、プリエマへの呪詛を胸に抱いて、一気に毒杯を煽った。
 意識はまるで眠るように薄れていった。


【グリニャック視点】

「そうですか、昨日エルネット様が、毒杯を飲んだのですか」
「ああ。だが、プリエマへの怨念は最期まで消えることはやはりなかったそうだ。今、神官達が必死に浄化作業をしているらしい」
「そうですか。最期まで意志はかわらなかったのですね」

 エルネット様、そこまでプリエマの事を恨んでいましたのね。わたくしの知らないところで、何かあったのでしょうか?
 それとも、プリエマの事が純粋に気に入らなかったのでしょか? 確かに、ゲーム知識がありながら、何もしなかったと言うのは、恨まれる原因になるかもしれませんけれども……。

「とにかく、エルネットの怨霊が、今まさにプリエマに憑りつこうとしているらしい」
「そうですか、それは神官方にがんばって浄化していただかなくてはいけませんね」
「ああ、そうだな」

 それにしても、エルネット様。
 神が記憶を思い出させてしまったせいで、人生がこんなことになってしまって、本当なら、恨むべきは神様だと思うのですけれども、それでも愛する相手の想い人であるプリエマに呪詛を仕掛けるなんて、恋する乙女なだけでしたのね。
 道を間違ってしまっておりましたけれども。
 まあ、わたくしは、エルネット様の事、好きには結局なれませんでしたけれども、ゲームの記憶すら思い出さなければ、関わり合いになることもほとんどなかったはずの方ですものね。

「プリエマは今どうしていますの?」
「神官と、ウォレイブ様に守られて礼拝堂で祈りを捧げているそうだ」
「そうですか」

 それって、ウォレイブ様に守られている時点で、火に油を注いでいるのではないでしょうか? え、それって大丈夫なのでしょうか?
 浄化、失敗するのではないかしら?
 プリエマが聖女なら、神様に祈りも届いたかもしれませんけれども、なんと言っても器が足りないという事で、アーティファクトの起動資格がなかったのですしね。
 ……まさか、わたくしが王宮に呼び出されたりはしませんわよね?
 だってわたくしが行っても、何の役にも立ちませんものね。
 そうですわよ、ありえませんわよね。
 プリエマ、根性でエルネット様を撃退なさいませね。

「全く、色々と困ったものだな」
「そうですわね、まあ、諸悪の根源が反省していないような気がいたしますけれども」
「諸悪の根源?」
「ええ」

 あの神様が、一人の人生を狂わせたのですよね。
 ……それって、かなり罪深いのではないでしょうか?
 やはり、万が一、次に会った時は一発殴ってもいいのではないでしょうか?

「ところで、グリニャックの方はトロレイヴ君とハレック君とは問題ないのだろうな」
「ええ、何の問題もございませんわ。それに、最近の話ですが、お互いの愛を確かめ合ったと言いますか、最近は事あるごとに愛していると言われてしまうと言いますか」

 わたくしは若干顔を赤くしてお父様にそう言います。
 するとお父様は頷いて、満足そうな顔をなさいました。

「そう言えば話は変わるが、第一王子からお茶会の招待状が届いているぞ」
「え、今度は第一王子ですか?」
「ああ、グリニャックのみで参加するように、との事だ」
「まあ、わたくしだけで、ですか? 他の参加者の方はいらっしゃるのでしょうか?」
「さてな、ただ、グリニャック一人で参加するように、という招待状が届いたのだ」
「然様でございますか。第一王子は有能な分、裏で何を考えているかわかりませんので、用心していかなければなりませんわね」
「そうだな、足元を見られない様にしなければいけないだろうな」

 お父様の言葉に、思わずため息がこぼれそうになってしまいます。
 一人で第一王子のお茶会に行くとか、気鬱ですわ。
 そんな事を思いながら、わたくしは手にした書類をめくっていきます。

「…………お父様、ここの計算間違っているのではございませんか?」
「ん? どこだ?」
「この、領地特産のワインの卸値の所なのですが……」

 と、いつものようにわたくしはお父様の仕事を手伝いながら、一日を終えました。

 数日後、わたくしは第一王子が主催するお茶会に参加するため、王宮にやってまいりました。
 今回のお茶会の会場は、コスモス離宮の中庭で行われるそうなので、早速コスモス離宮に歩いて行きます。
 そうそう、第一王子もゲームでは攻略対象なのですよ。といっても、第一王子には既に正妃とお子様がいらっしゃいますので、側妃になるだけなのですけれどもね。
 コスモス離宮の中庭につくと、そこには神官長と、宰相や各大臣が揃っておいででした。
 ちょっと、これは流石に予想できておりませんでしたわね。
 とりあえずと言った感じに、わたくしは用意された長テーブルの上座付近に座っている第一王子に挨拶に参ります。

「ご機嫌よう、デュドナ様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ足を運んでもらってすまないね。とりあえず、グリニャック嬢は上座に座ってくれるかな? この場で一番権力があるのだからね」
「まあ、そんな。デュドナ様を差し置いてわたくしが上座に座るなんて……」
「父上が認めた、国王陛下に次ぐ権力の持主なのだし、私よりも君が上座に座るのがふさわしいよ」
「……わかりましたわ」

 わたくしは一つだけ残されて居る上座に座わりましたが、なんというか、お歴々を前にわたくしが上座に座ると言うのは、落ち着きませんわね。
 わたくしなんて、聖女なんて肩書はついていますけれども、ただの公爵令嬢ですのに。
 席に座りますと、すぐさま目の前に紅茶とお菓子の乗ったケーキスタンドが置かれました。

「今日、皆に集まって貰ったのは他でもない、この国の今後の事についてだ」

 え、それってわたくし関係なくないですか?
 そもそも、国王陛下がいないのに、この国の今後の事についての話とか、してしまっていいのでしょうか?
 わたくしがそんな事を考えていると、デュドナ様が使用人に指示を出し、出席者全員に一冊のファイルを配ります。
 もちろんわたくしも受け取りました。

「我が国の国防に関しては、グリニャック嬢がアーティファクトを起動してくれたおかげで、この先少なくとも百年は問題ないだろう。だからこそ、今は内政に目を向けるべきだと思っている」

 そうですわね、それは確かにそうですわ。
 と言いますか、本当にこれって国王陛下がなさるお仕事なのではないでしょうか?

「皆も知っている通り、私は第一王子で、継承順位こそ第一位だが、母上は伯爵令嬢と後ろ盾が弱い。今後のこの国を纏めていくためにも、貴君らの力を貸して欲しい」

 そう言って、デュドナ様は頭を下げられました。
 ゲームでも思っていましたが、真面目ですわねえ。流石攻略難易度Sクラスですわ。

「デュドナ様、頭を上げてくだされ、この国の将来を憂いているのは、デュドナ様だけではございませんよ。確かに、こう言っては失礼ですが、今居らっしゃる王族の中で、頼りになるのはデュドナ様だと私どもは思っております」

 え、言ってしまっていいのですか、そんな事。
 ちょっと間違えれば、国王陛下への不敬罪で首が飛ぶのではないでしょうか?
 って、待ってくださいませ、私どもっていいましたわよね? わたくしも含まれておりますの!?
 いえ、確かに現王族でもっとも優れているのはデュドナ様だというのが公式ファンブックにもしっかり記載されておりましたけれども、そんなに他の王族の方々はダメダメなのでしょうか?

「そうですな。この資料もご自分でお作りになられたのでしょう。よく出来ておりますぞ」
「そうか。皆そう言ってくれるか。ありがとう」

 いえ、わたくし何も言っておりませんけれども……。
 けれども、この場にいる皆様が頷いていらっしゃいますわね。神官長はともかくとして、宰相に各大臣が頼るのが国王陛下ではなく、第一王子とか、どうなっていますのこの国……。
 まあ、確かに乙女ゲームならではのご都合主義を何とかするために作られたのがグリニャックわたくしだったり、デュドナ様だったりするのですけれども、それでも、いくらなんでも、国王陛下よりも頼りになると思われているって、相当ですわよね。

「デュドナ様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なにかな、グリニャック嬢」
「どうしてこの場にわたくしが呼ばれたのでございますか? わたくし等、なんのお役にも立てないと思いますけれども」
「グリニャック嬢には、聖女として中立な立場で、この場の意見を聞いてほしいのだよ」
「そのような事、わたくしに出来るかどうか……」

 いえ、謙遜ではなく本気で!

「グリニャック嬢は、次期女公爵の勉強も頑張っていると聞く。この場にいることは、将来の為にもなると思う」
「然様でございますか」

 そう言われると、引くに引けませんわね。
 はあ、なんでこんな目に……。

「では、先ずは渡したファイルの最初の項目にもなっている、王都での雇用の促進化についてだが…………」

 と、そのような感じに、約五時間にわたり、お茶会と言う名の会議が行われました。休憩もなしに五時間は流石にきついですわね。
 宰相や大臣になりますとこういうのが当たり前になるのでしょうか? 大変ですわね。
 改めてお爺様の素晴らしさがわかりますわ。
 お茶会会議からやっと解放されて、わたくしが席を立とうとした時でございます。

「ところでグリニャック嬢」
「なんでしょうか?」

 今まさに立ち上がりかけたのですけれどもねっ! これ以上何だと言うのですか。

「実は、エルネット嬢の怨霊の浄化がまだ済んでいないそうなのだ」
「まあ!」

 エルネット様が亡くなってからもう五日は経っておりますわよね? まだ浄化出来ていませんの? 神官の方々が能力不足なのか、エルネット様の呪詛が強いのか、どちらでしょうか?
 でも、それでわたくしに何をしろと? 浄化なんて出来ませんわよ?

「ああ、流石に浄化を会得していないグリニャック嬢に浄化作業に参加して欲しいなんて言わないさ。だが、もし神にお会いすることが出来るのなら、エルネット嬢をこの世界から解放してもらえるようにお願いしてはくれないだろうか?」
「……わかりましたわ」
「そうか、よろしく頼んだよ」

 この世界からの解放、ですか。普通は出て来ない単語ですわよね。
 んー、もしかしなくても、デュドナ様にも前世の記憶というか、このゲームの記憶があるとか?
 神様、貴方はいったい何人この世界に転生者を生み出しているのですかね?
 わたくしは今度こそと言う感じに立ち上がると、コスモス離宮の中庭を後にいたしました。
 それにしても、礼拝堂がある方向を見ますと、礼拝堂を包む様に黒い霞がかかっておりますわねえ。あれがエルネット様の怨霊なのでしょうか?
 嫌ですわね、重苦しい空気を感じますわ。
 浄化作業、本当に上手く行っていないのですね。そんなにもエルネット様の呪詛は強いのでしょうか?
 そういえば、プリエマの首についた傷跡は、一生消えないと医師に言われたそうですわ。
 今は包帯を巻いて隠していますが、傷が治ったら、スカーフなどを巻かないといけなくなりますわね。
 わたくしはしばらく礼拝堂の方を見ていましたが、結局わたくしが出来ることはないので、視線を帰る道に戻して進み始めました。
 家に帰ると、どのようなお茶会だったかとお父様に聞かれましたが、神官長がいて、聖女になっての心構えなどを聞かれましたが、おおむね普通のお茶会だったとだけ答えておきました。
 あまり声を大にして言う事ではなさそうな雰囲気でしたものね。
 まあ、普通のお茶会にしては長い時間王宮におりましたので、お父様には不審がられましたが、そこのところはスルーいたしました。
 ごめんあそばせ、お父様。将来のわたくしの政の為にも、今は言えないのでございますわ。
 必要な情報は、後日ちゃんとデュドナ様か、国王陛下から知らされると思いますわ。
 いろいろなことを話し合いましたものねえ、聞いているだけで疲れてしまいましたわ。
 時折、わたくしにも意見を求められるので、気が抜けませんでしたし……。
 はあ、女公爵と重要役職を兼任するとか、わたくしには無理そうですわね。そう考えますと、やはり公爵業をしながら宰相をしていたお爺様は素晴らしいですわね。
まあ、わたくしはそのような真似はしたくありませんわね。
 そんな事をしていたら、トロレイヴ様とハレック様を観察する時間が減ってしまうではありませんか。
 そんな感じに、デュドナ様主催のお茶会への出席は無事に完了したのでございます。
 出来ればもう呼び出さないで欲しいですわね。
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