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 サロンに戻って読んだ資料には、悪魔召喚の事ややはり、ラミアのことについて書かれていた。
 そうして、神宮寺の机から持ってきたノートにもまたラミアのことが書かれていた。

「これはますます吸血鬼っぽいわね」
「そうね、宇宙人説はなくなったのではなくて?」
「そうねぇ。でも色々な可能性を考えるのは悪いことではなくってよ」
「そう」

 瑞樹は肩を竦めて安奈を見ると、手元にあるノートに目を落とした。
 そこにはラミアのことが詳細に書かれており、文芸サークルにあったものよりもより詳しく調べ上げられていた。
 例えば、ラミアはギリシャ神話にも登場しており、ゼウスと通じたためにヘラーに子供を奪われてしまい、その苦悩のあまり子供を殺す女怪と化したということもある。
 日本で言うなららば鬼子母神に似通ったところがあるのかもしれない。

「ラミアが本当に学院内にいるのだとしたら大問題だわ。また被害者が出てしまうかもしれないもの」
「そうね。それにしてもどうして急にラミアなんてものが飛び出してきてしまったのかしら?」
「そうねぇ、悪魔召喚というものと関わっているからかもしれないけれども、何かを願っているのかもしれないわ。まあ、吸血鬼に願うことが何なのかはわからないけれども……」
「永遠の美と若さとか、かしらね」
「なるほど、急に華やかになったというのにも納得がいくわ」
「まあ、そう思うだけだけれどもね。ねえ瑞樹、本当に吸血鬼がいると思う?」
「非現実的だわ。ミステリーサークルに所属しているけれども信じがたいわね。そういう安奈こそ信じているの?」
「もちろん信じているわ。この世の非現実があることを信じて、このサークルを立ち上げたんだもの」
「そうねぇ、私まで巻き込んで。それで、信じている安奈はこれからどう動くのかしら?」
「吸血鬼に狙われると言えば美少か美女と相場が決まているわ。この学院で一番の美少女はこの私だと思うのよ」
「囮にでもなるつもり?」
「それもありだわ」
「危険ではなくて?」
「そうかもしれないけど、楽しいじゃないの」
「まあ、すっかり女探偵気取りなのかしら?そんな気やすくなるものではなくってよ」
「もう瑞樹ってば意地が悪いわね」
「心配してあげているのよ」

 安奈の膨らんだ頬を瑞樹は軽くつついて潰すと、クスリと笑ってノートの続きを見ていく。
 そこには赤い月の夜に血を捧げるなど儀式めいたことが記されていた。
 そういえば昨日の夜は随分と赤い満月だったような気がする、と安奈と瑞樹は思い出した。
 ゾクリと二人の背中に薄ら寒いものが走ったのはその瞬間だった。

「……なにかしら、今の」
「何か視線のようなものを感じたわね」
「そうよね、視線のようなものを感じたわよね。ここには私たちしかいないのに……」

 安奈と瑞樹は窓を見る。時折先輩や後輩たちが覗きに来ているから、それかもしれないと思ってみてみたのだが、生憎そう言った類の生徒はいないようだ。
 では今の視線らしきものはいったい何だったのか。そもそも、視線だったのかすら今となってはわからない。
 何かに見られているような感覚と悪寒が走ったのだが、それを確証づけるものがないのだ。

「……気のせいだったのかしら?」
「でも二人同時に?不思議なものね。それこそ人ならざる者の視線なのではないかしら?」
「もうっ茶化さないで頂戴な」
「茶化してるつもりはなくってよ、瑞樹。こういう時って何かが起きる前兆なのよ」
「そう?まあどちらにせよ今の悪寒と視線のような物は確かに共通した感覚だったわね」
「そうね。不思議だわ、私だけだったら妄想で済むのに、瑞樹までとなると現実味がわいてしまうもの」
「自分のことを随分と客観視出来ているじゃないの」
「それはそうよ」

 安奈は胸を張って言うと、テーブルに置かれていたカップを手に取り、口をつけるとカップの中の紅茶を空にした。
 すっかり冷めてしまっていたが、落ち着かない、そわそわとした心を落ち着かせるために、何かしたかったのだ。
 瑞樹は紅茶を入れ直してくると言ってキッチンに行ってしまい、西日の差し込むサロンには安奈一人っきりになってしまった。
 その瞬間を狙っていたかのように、一通のメールがスマホに届いた。
 それは差出人が不明のメールだった。

『麗しき乙女の勇気に乾杯を捧げる。
 赤き夜はまだ続く。血の生贄もまた再び続く。』

 そう記載されたメールは安奈が読み終わった瞬間自動で削除されてしまった。

「……最近のオカルトはテクノロジー化が進んでいるのね」

 安奈は場違いにもそんなことを呟いた。
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