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 戻って来た瑞樹に、今あったことを伝えると、瑞樹は半信半疑ながらも、信じてくれた。
 そうしてやはり、同じようにテクノロジー化が進んでいると感想を抱いたようだ。こういうところが全く正反対の性格なのに、妙に二人が共感するところなのかもしれない。
 それにしても、と安奈は呟く。

「まだ続くということはまた死体が出てくるかもしれないっていう事よね」
「そう言う事ね」
「それは困ったわ。怪談話程度ならばいいけれど、事件が続くようでは学院の品格に関わってしまうもの。入学者が減ってしまうわ」
「流石は経営者の娘ね。しっかりしてるわ」
「それはもちろん」
「けれども確かに問題よね。何人も死者が出る学院出身なんてお嫁の貰い手も少なくなってしまいそうだもの」
「それはどうでもいいのだけれども」
「はいはい。安奈にはもうラブラブの恋人がいるものね」
「うふふ」

 ラブラブとはいえ、安奈の恋は本来ならな赦されざるものだ。相手は教師。この学院の国語の教師なのだ。
 隠された関係はこのサロンでのみ開花する。このサークルは、その為に作ったと言っても、過言ではない。
 このミステリーサークルの顧問はその教師、高梨将たかなしまさるだ。
 密会の場所として、安奈と瑞樹が作り上げたのだ。
 高梨はスラリと背が高く、国語の教師というよりは、理系の教師なのではないかと言われた方がしっくりくるほど、冷たい知的な雰囲気を持った青年だ。
 けれども、安奈はそんな青年が時に情熱的に愛を伝えてくれることを知っている。
 安奈だけが知っていればいいことなのだが、勿論共謀者である瑞樹も。安奈からの口伝ではあるが、知っていることである。
 高梨は今年度からここに新任としてやってきた教師で、まだ若い。生徒からの憧れを集めているのもまた事実だ。
 そんな高梨が自分の恋人であるということが、安奈にはとても誇らしい。そして、そんな安奈の親友をしていることが瑞樹には誇らしいのだ。
 しかし、安奈がミステリー好きなのも事実であり、瑞樹はそんな安奈の手綱を握るのが役目だと思っている。
 安奈はカリスマ性がありリーダーシップがある。そうして瑞樹はそんな安奈を陰で支えていくそんな感じの二人なのだ。互いが互いに居なくては成り立たない、そんな存在同士なのだ。

「とにかく、安奈は注意したほうがいいかもしれないわ。少なくとも何かしらに向けられたんだもの」
「そうね。私が狙われるという事かしら?それともそのままの通り、他に犠牲者が出るから、気を付けるように、ということなのかしら?」
「わからないわ」
「まあそうよね。まぁどちらでもいいのよ、少しでも事件が進展すればそれで。溝口さんの事件の解決も警察に頼るだけではだめだと私の勘が告げているのよ」
「安奈の勘なら仕方がないわね。安奈の勘は当たるんだもの」
「ええ、だからこそミステリーサークルの会長なんてものをやっているのよ」
「そうねえ、ほかにいくらでもあったはずなのによりにもよってミステリーサークルだものねぇ。ミステリーサークル。研究会でもなく同好会でもなく、サークル。ネーミングセンスを疑うわ」
「それ、褒めてないわよね」
「ええ、もちろん誉めてないわよ」
「酷いわね、瑞樹ったら」
「安奈の親友をやってるぐらいだから、このぐらい言えるわよ」
「そう」

 安奈は酷くつまらなさそうに応えると、新しく入れられた紅茶を飲んだ。
 上質なアッサムの香りに少しだけ心が癒されたのか、それともお気に入りの紅茶に安奈は気を良くしたのか、先ほどの不機嫌さはもうない。
 気分屋の一面もある安奈らしい。

「まぁいいわ。けれどもこれで人間による殺人の可能性は少なくなったのではないかしら?」
「あら、どうして?」
「こんなクラッキングをできる人、そうそう居ないでしょう?ましてやこの学院にいるとは思えないわ」
「それは確かにそうね」
「瑞樹の急速冷凍と急速乾燥の案もよかったと思うんだけれどもね。ミステリーサークルの会長としてはやっぱり怪奇物のほうがしっくりくるわ」

 安奈はそう言うともう一度確信したようにうなずいて紅茶をお代わりした。瑞樹はそんな安奈に、苦笑を浮かべながらもお代わりを注ぎ、自分の分も注ぐと一口飲む。

「それにしても、吸血鬼、赤い月、生贄、血、穏やかではなくなってきてしまったわね」
「そこでこそ、ミステリーサークルの出番じゃないの」

 安奈はカップの中身を飲み干すと、にんまり笑ってそう言った。
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