姉と妹に血が繋がっていないことを知られてはいけない

神奈さんの秘密？

そして俺はCクラスを離れ、グランドから校舎へと向かう。

「天城くん⋯⋯」

　すると玄関前で神奈さんが佇んでおり、俺の名前を口にしていた。

「どうしたんだ？ ハットトリックを決めたクラスのヒーローがこんな所で」
「茶化さないで。私が点を取れたのは天城くんの作戦のお陰だから⋯⋯それより私はとんでもないことをしてしまう所だった」

　おそらく反則してしまったことを言っているのだろう。PKも止めたし結果オーライで良いと思うが、気にしてしまう所が責任感の強い神奈さんらしい。

「勝ったからそれでいい⋯⋯ということにはならないんだね」
「天城くんに大きな貸しができたと思っています」

　クラスメートだし、そんなの気にしなくていいのにとは思うが、せっかくだからこの貸しを使わせてもらおう。

「それなら１つだけお願いがあるんだけど」
「紬のことでなければ」

　何でここで紬ちゃんのことが即答で出てくるんだ？
　まさか神奈さんはまだ俺がロリコンで、紬ちゃんにイタズラするような奴だと思っているのか！
　だが裏を返せば神奈さん自身のことなら何でもお願いしていいと言うことか！

　俺はありえないと思いつつ、神奈さんの１５歳以上推奨の姿を思い浮かべ、ゴクリと生唾を飲む。
　だけど神奈さんが貸しと言ってくれるチャンスなど滅多にない。ここは当初の目的の内容を質問してみる。

「答えたくなかったら答えなくていいけど」

　俺は長年疑問に思っていたことを口にする。

「神奈さんが俺を嫌う理由って、美術コンクールで大賞を取ったガラスのコップを壊したからだと思うけど間違いないかな？」

　神奈さんは俺の言葉を聞くと眼を見開き、呼吸が荒くなり、明らかに先程とは様子がおかしくなる。

「はあ⋯⋯はあ⋯⋯そ、それは⋯⋯」

　そして神奈さんは息苦しいのか、心臓を抑え始めた。
　これは止めた方がいいのか？ だが今を逃すといつ聞けるかわからなくなる。
　それに前置きで答えたくないなら答えなくていいと話してあるから、ここは神奈さんに判断を委ねよう。

「天城くん⋯⋯の⋯⋯仰る⋯⋯」
「二人ともこんな所にいたのか。勝利の立役者がいなくてどうするんだ」

　しかしこの時、タイミングが悪いことに悟の姿が見えたためか、神奈さんの言葉は止まってしまう。

「悪い悪い。すぐに行くよ」
「すみません⋯⋯」

　俺と神奈さんは悟に従って三人でAクラスへと向かう。
　残念だけど今日はここまでだな。悟もいるしこれ以上神奈さんに俺を嫌う理由を聞くのは難しいだろう。
　今は落ち着いているが、先程の異常な様子を見ると聞くのを躊躇ってしまう。
　しかし、わかったこともあった。
　俺を嫌う理由がガラスのコップを壊したからの問いに「天城くんが仰る⋯⋯」と答えていたが、ここは「仰る通りです」で間違いないだろう。だがそのガラスのコップに秘められた想いは聞くことができなかった。

　どんな想いが込められているのか⋯⋯おそらくあれ程取り乱すということは、想像以上の想いがあることが予想される。
　なぜなら俺が幼き日から見てきた神奈さんは、物を壊されたくらいで根に持つ人ではないとわかっているからだ。

　そして俺達がAクラスの教室に到着し、中へ入ろうとした時。

「先程の件⋯⋯気持ちの整理が着いたらお話します」

　その声は小さかったが、確かに背後から神奈さんの言葉が聞こえてきた。
　神奈さんが話す覚悟してくれたのなら俺は待つだけだ。
　こうして長年止まっていた天城 リウトと神奈 結の時間が、封鎖サッカーで勝利したことにより再び動き出そうとしているのであった。