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ライオンより恐ろしい姉前編

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「リ~ウ~ト~ちゃ~ん」
「ヒィッ!」

 俺はコト姉の目が笑っていない笑顔に、思わず悲鳴を上げてしまう。
 そ、そうだ。今日、コト姉は挨拶運動を校門前でするって言っていたっけ。朝からアリアとソフィアさんが現れるというインパクトが強すぎて忘れてた。とりあえず怒っているコト姉を何とかしないと。

「おはようコト姉。今日も可愛いね」
「そう⋯⋯ありがとう」

 いつものコト姉なら「本当に? ありがとう! リウトちゃんもカッコいいよ」と返してくれるが、今は雪の女王も真っ青になるほど冷たい目をしていた。

「これはどういうことかな? かな?」
「え~と⋯⋯こちらのアリアさんが突然家に来られまして⋯⋯流れというか何というか⋯⋯一緒に登校することになりました」

 俺は恐ろしさのあまり思わず敬語になってしまう。

「ふ~ん⋯⋯リウトちゃんは昨日お姉ちゃんがなんて言ったか覚えている?」
「お、覚えています。アリアと二人っきりになるなと⋯⋯車の中にはソフィアさんと運転手さんもいたので一応二人だけにはなっていません」
「へえ~その娘と金髪のメイドさんとイチャイチャしてたのね」

 どうやらコト姉の脳内で、運転手さんはいなかったことに変換されているようだ。

「いえ、普通にお話をしていただけです」

 こ、怖い。けど何で俺は糾弾されなくちゃならないんだ。いくら姉だからといって弟の交友関係に口出しするのはやり過ぎじゃないのか? だがそんなことを言えばコト姉の怒りがさらにヒートアップすることは間違いないから、俺は黙っている。

「あ、天城さん⋯⋯あの方は何者ですか? 昨日会った時は何も感じませんでしたが、今はアフリカで戦ったライオンと同じ気配を感じます」

 ソフィアさんは主人のアリアを護ろうと前に出ようとしているが、コト姉のプレッシャーに押されてその場を動けないようだ。
 それよりライオンと戦ったってどういうこと! どうやらソフィアさんも怒らせてはいけない人種のようだ。

「あれは俺の姉です」
「天城さんの? 彼女はただ者ではありませんね」

 ライオンと格闘したことがある人から認められるなんて⋯⋯今のコト姉は危険人物だということが改めてわかった。

「何? メイドさんと内緒話して。お姉ちゃんも仲間に入れてほしいなあ」

 もうこの場にはコト姉を止められる人はいない。せめてチャイムでも鳴ってくれたらと思うが、始業のチャイムが鳴るには後5分の時間が必要だ。

 どうする? どうすればコト姉を止められる? だが今のコト姉には何をしても無駄な気がする。
 このままコト姉のお仕置きを受けるしかないのか⋯⋯俺は前から迫ってくるコト姉に対する策が思いつかず、諦めに入っていたその時、予想外のことが起きるのだった。
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