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12 声楽会へのお誘い

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 どういう基準で呼ぶ方を選んでくださったのかは分からなかったけれど、あまりにもはしゃぎすぎるような方はいらっしゃらなかった。

 バロック様もジャスミン様もお綺麗だから、それに興奮して付きまとうような方が来たらどうしようか、と少し心配だったのだ。ローラン様もいろんな方に慕われているだろうし、初めてのお茶会で、初めて出会う方々といざこざを起こすような真似はしたくなかったからだ。

 でも、その心配は杞憂だった。

 皆さま落ち着いた令息令嬢の方々ばかりで、伯爵家から公爵家まで幅広い爵位のお方が集まったが、それを笠に着るような方や、下手にはしゃぎたてたりする方はいらっしゃらなかった。

 穏やかに挨拶を交わし、嫌味でなくサロンやもてなしを褒められ、身形をお互いに褒め合いながら和やかにお茶会は始まった。

「皆さま、今日はお集まりくださりありがとうございます。どうか、本日はたくさんのお話と、よければ友人になっていただけると嬉しいです。おくつろぎくださいませ」

 主催として自己紹介の後、挨拶を入れて、私は初めて顔を合わせる方とお話するように努めた。

 ご紹介くださったのはバロック様とローラン様なので、必然バロック様やローラン様、それから社交をあまりしてこなかったジャスミン様の4人でお話をしに回った。ローファーにしたのは正解だったように思う。ヒールで歩くことには慣れているけれど、ここまでたちっぱなしになるとは思っていなかった。

「フリージア様、あの……私もご一緒の時にデビュタントを行ったんですの。それで、よろしければ今度、我が家で歌っていただけないでしょうか?」

「まぁ、私の歌を聴かれたんですのね。構いませんが……、あの、私あまり社交活動をしてこなかったもので、今日の様な格好でよろしいのでしょうか?」

 バロック様のお友達だというトレニオン伯爵令嬢からのお誘いに、私は少し緊張気味に答えた。

 物を知らないことを笑うような方ではないと少しお話しただけでも分かったけれど、お誘いいただいたのならそれに合わせた服装というものがある。晩餐に呼ばれるようなことはないだろうから、日中ではあるのだろうけれど、他人の家で歌うとなるとどんな服装がいいのか分からなかった。

 不安に思って隣のバロック様を見上げると、にっこりと笑って頷いてくださる。

「あの、私もその場にお邪魔してもよろしいでしょうか、トレニオン伯爵令嬢」

 ジャスミン様がおずおずと声を掛けると、もちろんです、とトレニオン伯爵令嬢は頷いてくれた。

 ローラン様も、バロック様も来るという話になり、それを聞いていた近くの令嬢から、私も、と声が上がり、結局今日いらした皆さまが参加するという事になった。

「声楽会、といたしましょう。私は教養でバイオリンを習っているのですが、その発表用の講堂がございますの。演奏会も偶にやっていまして、それで、あまりに素敵な歌声でしたので、是非、と……」

 少し謙遜しながらのトレニオン伯爵令嬢の言葉に、なるほどそういう活動もしているのか、と私は感心しきりだった。

 その声楽会と講堂の規模を、この時ちゃんと聞いておけばよかった、と後に後悔する事になるのだけれど。
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