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15 大きな勘違い?
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お見舞い当日、部屋に籠っていた私に侍女が慎ましくドアをノックし入室の許可を求めた。
今日は何も予定がない筈だ。内容が頭に入ってこない本を開いたまま、どうぞ、と促すとそっとドアを開けて、なんだか困惑したような顔で立っている。
「あの、お嬢様……」
「何かあった? どうかしたの?」
「お客様がお見えなのですが……どちらにご案内しましょう? お部屋でもよろしければすぐに、サロンの方がよろしければそちらにお茶を用意します」
「あら、どなたかしら……サロンへご案内してちょうだい。すぐ行くわ」
「畏まりました」
一礼して去って行く侍女は、誰が来たのかは言わなかった。ジャスミン様はまだ療養中だから家から出して貰えないだろうし、どなたか見知った方なのだろうと見当はついたが、最近はお友達や知り合いがたくさん増えた。
どなたの前でも恥ずかしくないように鏡の前で身支度を確認して整え、サロンに入る。
「お待たせしまし、た……? バロック、さま?」
「やぁ、ジャスミン嬢の状態が気になるんじゃないかと思ってね、先に失礼して君の家に寄ったんだ。急に来てしまってすまないね」
「いえ、そんな……、どうして」
私は驚きすぎて目を真ん丸にしたまま、入口に吊ったまま茫然と呟いてしまった。
ジャスミン様はバロック様が好きなはずなのに、先に引き上げてきただなんて、そんなのは酷い。いえ、でも、お見舞いに行かなかった私が一番酷いだろうし、バロック様は私にジャスミン様の様子を伝えるために来てくださったのだ。
おかしいことは何もない、ないのだが……私はこの瞬間、自分が凄く嫌な女になったと感じた。
こちらに来てくれたことが嬉しい、と、お顔を見た瞬間に思ってしまったのだ。
「とりあえず……座って話さないか? きっと、君は大きな誤解をしている気がするから、それも含めて」
「誤解、ですか?」
「うん。さぁ、おいで」
言われるまま彼が座っているソファの、斜め前の一人掛けのソファに腰を下ろす。
さて、どう話そうか、と考えるような微笑みがずっと私に向けられていて、私は微笑み返す事もできずに顔を赤くして見入ってしまっていた。
そのうちに考えが纏まったのか、バロック様がゆっくりと口を開く。
「たぶん、だから……外れていたら申し訳ないんだけど……誤解があると思う」
「誤解、ですか?」
「うん。……ジャスミン嬢が誰よりも好きなのは君で、そして、ジャスミン嬢は異性に今の所恋はしていない。僕を刺すように見てきていたのも、フリージア様に変な虫がついた、という目だよ、あれはね。むしろ警戒されていたくらいだ。でも、君が私といると楽しそうだから……私も楽しいし、君と一緒にいるのはとても楽しい……今日、帰りにお屋敷に寄ってあげてください、と勧めてくれたのもジャスミン嬢だよ」
驚いた。あれは……ジャスミン様がバロック様を好きだから見ているのだとばかり思っていた。
勘違いをしてしまって恥ずかしい。今日はきっと喜んでくれる、と思って私は遠慮したけれど、行けばよかったかしら。
ということは、ローラン様があまり相手にされていなかったのも、私に対するバロック様を見張るためだとすると……、ローラン様はとてもお優しくて一途な方だから、うまくいくのかもしれない。
「私、本当に勘違いをしていました。バロック様をジャスミン様が見詰める視線は……恋のそれだとばかり」
「私が恋をしている人は別の人だから、そうじゃなくてよかったと思うけれど」
別の人、と聞いて今度は心臓の辺りがつきんと痛んだ。なんだろう、ここの所よく胸が苦しくなる。
バロック様は自然に椅子から立ち上がって私の前に跪くと、片手をとって顔を見上げてくる。
「私は君に恋をしている。どうか、婚約の申し込みを受け容れてはくれないだろうか」
今度は心臓が、止まってしまったかと思った。
今日は何も予定がない筈だ。内容が頭に入ってこない本を開いたまま、どうぞ、と促すとそっとドアを開けて、なんだか困惑したような顔で立っている。
「あの、お嬢様……」
「何かあった? どうかしたの?」
「お客様がお見えなのですが……どちらにご案内しましょう? お部屋でもよろしければすぐに、サロンの方がよろしければそちらにお茶を用意します」
「あら、どなたかしら……サロンへご案内してちょうだい。すぐ行くわ」
「畏まりました」
一礼して去って行く侍女は、誰が来たのかは言わなかった。ジャスミン様はまだ療養中だから家から出して貰えないだろうし、どなたか見知った方なのだろうと見当はついたが、最近はお友達や知り合いがたくさん増えた。
どなたの前でも恥ずかしくないように鏡の前で身支度を確認して整え、サロンに入る。
「お待たせしまし、た……? バロック、さま?」
「やぁ、ジャスミン嬢の状態が気になるんじゃないかと思ってね、先に失礼して君の家に寄ったんだ。急に来てしまってすまないね」
「いえ、そんな……、どうして」
私は驚きすぎて目を真ん丸にしたまま、入口に吊ったまま茫然と呟いてしまった。
ジャスミン様はバロック様が好きなはずなのに、先に引き上げてきただなんて、そんなのは酷い。いえ、でも、お見舞いに行かなかった私が一番酷いだろうし、バロック様は私にジャスミン様の様子を伝えるために来てくださったのだ。
おかしいことは何もない、ないのだが……私はこの瞬間、自分が凄く嫌な女になったと感じた。
こちらに来てくれたことが嬉しい、と、お顔を見た瞬間に思ってしまったのだ。
「とりあえず……座って話さないか? きっと、君は大きな誤解をしている気がするから、それも含めて」
「誤解、ですか?」
「うん。さぁ、おいで」
言われるまま彼が座っているソファの、斜め前の一人掛けのソファに腰を下ろす。
さて、どう話そうか、と考えるような微笑みがずっと私に向けられていて、私は微笑み返す事もできずに顔を赤くして見入ってしまっていた。
そのうちに考えが纏まったのか、バロック様がゆっくりと口を開く。
「たぶん、だから……外れていたら申し訳ないんだけど……誤解があると思う」
「誤解、ですか?」
「うん。……ジャスミン嬢が誰よりも好きなのは君で、そして、ジャスミン嬢は異性に今の所恋はしていない。僕を刺すように見てきていたのも、フリージア様に変な虫がついた、という目だよ、あれはね。むしろ警戒されていたくらいだ。でも、君が私といると楽しそうだから……私も楽しいし、君と一緒にいるのはとても楽しい……今日、帰りにお屋敷に寄ってあげてください、と勧めてくれたのもジャスミン嬢だよ」
驚いた。あれは……ジャスミン様がバロック様を好きだから見ているのだとばかり思っていた。
勘違いをしてしまって恥ずかしい。今日はきっと喜んでくれる、と思って私は遠慮したけれど、行けばよかったかしら。
ということは、ローラン様があまり相手にされていなかったのも、私に対するバロック様を見張るためだとすると……、ローラン様はとてもお優しくて一途な方だから、うまくいくのかもしれない。
「私、本当に勘違いをしていました。バロック様をジャスミン様が見詰める視線は……恋のそれだとばかり」
「私が恋をしている人は別の人だから、そうじゃなくてよかったと思うけれど」
別の人、と聞いて今度は心臓の辺りがつきんと痛んだ。なんだろう、ここの所よく胸が苦しくなる。
バロック様は自然に椅子から立ち上がって私の前に跪くと、片手をとって顔を見上げてくる。
「私は君に恋をしている。どうか、婚約の申し込みを受け容れてはくれないだろうか」
今度は心臓が、止まってしまったかと思った。
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